びんのなか

想い出話や感想文など。読書メモが多め。ネタバレだらけです。

むらさきのスカートの女(今村夏子)

 職場の人に借りました。知っている人を思い出してしまったそうです。…確かに!!

 

 小説というか、本自体かなり久し振りに読んだ気がします。あまり読んだことのないジャンルの話でした。変わった人が変わった人をストーカーしていたという。

 せっかくなので感想を。まとまってないです。

 

■ 簡単なあらすじ

 主人公である<わたし>は、黄色いカーディガンの女(自称)です。きっといつも黄色のカーディガンを着ているのでしょう。そういった描写は一切ないのでよくわかりません。

 そんな<わたし>には気になる人がいます。それが「むらさきのスカートの女」です。いつも紫のスカートをはいている、年齢不詳の小汚い感じの女性。いつも決まったベンチに座り、クリームパンを食べています。彼女は地元で知らない人はいないくらいの有名人で、小学生たちの遊びの対象にもなっています。

 むらさきのスカートの女と友達になりたいと考えた<わたし>は、彼女が自分の同僚になるよう画策します。それが功を奏したのかどうかは不明ですが、念願かなって彼女は<わたし>と同じところで働くことになります。

 職場はホテルの清掃スタッフでした。はじめのうちは覚束ない様子の彼女でしたが、みるみるうちに仕事を覚えていきます。思った以上に「まとも」な人だったのです。真面目で謙虚な彼女に、同僚たちは大歓迎でした。

 しかし、仕事に慣れるうちに彼女の態度は変わってゆき、上司の所長とは不倫関係になります。そして次第に職場で孤立するようになったのです。そんな中、ホテルの備品が小学校のバザーに出品されていることが発覚します。まっ先に疑われたのは<むらさきのスカートの女>でした。

 <わたし>が<むらさきのスカートの女>の様子を窺いにアパートへ行くと、所長がやって来て玄関先で彼女と喧嘩を始めます。そしてそのはずみで所長は二階から落ちてしまいます。混乱する彼女の前に現れた<わたし>は所長はもう死んでいるから逃げるよう伝えます。そして彼女が取るべき行動を詳しく説明して逃がすのでした。

 <わたし>は後から彼女と合流するつもりでしたが、残念ながら彼女は指示通りには動かず行方が分からなくなってしまいます。しかも<わたし>の全財産ともいえる荷物まで持ち去られてしまったのです。その後、実は怪我だけで済んだ所長の退院祝いに行った<わたし>は給料アップをお願い(というか脅迫)します。

 それから<わたし>は<むらさきのスカートの女>が座っていたベンチに座りクリームパンを食べます。<わたし>は子どもたちの遊びの対象になっていました。

 

■ <わたし>について

 <わたし>はその「むらさきのスカート女」に異常ともいえる興味を抱きます。彼女のことなら何でも知りたくて、彼女の後をつけて家を突き止めたり、それどころか勤め先まで把握しているのです。「むらさきのスカートの女」は定職に就いているわけではなく、お金が尽きたら仕事をするようです。その仕事の遍歴を<わたし>は把握しているのです。これだけでも十分ヤバい人ですが、他にも色々と<わたし>の異常さがわかるエピソードがでてきます。

 <わたし>自身も余裕のある生活を送っているわけではなく、経済的には困窮状態にあるといえます。なんせ、家賃や光熱費を滞納し続けたせいで、ライフラインは止められ、住む家を失いかけているような人です(そして最終的には家を追い出される)。それでも、そのために「働いて」お金を稼ぐということはしないし、あまり困っているという印象を受けません。

 ホテルの備品がバザーに出品されていましたが、おそらく犯人は<わたし>です。この人、社会にとってもかなり迷惑なタイプの人だと思います。実際、あちこちで迷惑行為を行っていますし。所長じゃないけど、なぜ仕事を辞めさせられてないのか不思議なレベルです。

 

■ <むらさきのスカートの女>について

 初めは謎に包まれた存在でしたが、ただ単に生きるのに慣れていない感じの人でした。学校にも通っていて、誕生日プレゼントを贈るような姪っ子がいる。思った以上に普通だと思いました。むしろ、なんであんな生き方をしていたんだというくらいに。働き始めた頃は真っ白のイメージでした。何にも染まっていない、純真無垢な存在。けれど、あっという間に悪い方に染まっていきました。何というか、田舎の素朴な少女が都会に行ってあっという間に変わってしまったような。ある意味<特別な存在>だった彼女は<普通の女>になってしまいました。そして<むらさきのスカートの女>でもなくなりました。

 本当に、なんであんな無気力人間みたいな生き方してたんですかね。自暴自棄になるような過去でもあったんでしょうか。

 

 

■ <わたし>と<むらさきのスカートの女>について

 物語が進んで行くうちに<わたし>が権藤チーフであることが分かります。しかし、<むらさきのスカートの女>と権藤チーフは職場でこれといった接触はありませんでした。彼女にとって<わたし>はあくまでも同僚の一人で、たまに視界の端に入る程度の存在でした。所長に怪我をさせてパニックに陥っている彼女に話しかけた時、初めて<わたし>が認識されたようでした。

 同僚になったのなら普通に話しかければよかったのに、と思いますが、何故か<わたし>は相変わらずストーカー行為を続けます。彼女に<わたし>を知ってほしいと願っているはずなのに、この辺りの心情は理解できません。ものすごく印象深い出会いをして、<わたし>という存在を強く印象づけたかったんですかね。もともと存在感のなさそうな人なので。まあ、この存在感のなさのおかげで、ストーカー行為が継続できたような気もします。全くといっていいくらい<わたし>の存在は認識されていませんでしたし。

 結局<わたし>は<むらさきのスカートの女>と友達になることはありませんでした。<わたし>を知ってほしいと思っていた相手はいなくなってしまいましたが、その代わりに<むらさきのスカートの女>のような存在になることはできました。今では、きっと公園にいる<黄色いカーディガンの女>として唯一無二の存在となっていることでしょう。誰もが<わたし>のことを知っているのです。

 

 二人とも社会から浮いた存在でしたが、それぞれの抱える孤独は全く種類が違いました。あんなに強烈な性格の持ち主でありながら、「誰にも興味を持たれない」ような存在感のない<わたし>。一方、わりと普通の性格でありながら、その不器用さからかうまく社会に馴染めない<むらさきのスカートの女>。彼女は強い存在感の持ち主でした。この二人の違いは面白いと思いました。

 

■ その他の感想

 最終的に<わたし>は満たされた生活を送っていそうでした。<むらさきのスカートの女>はどうなんでしょう。殺人を犯したと思い込みどこかへ逃げたわけですが、どうやって生きていくんでしょう。「どこかでホームレスになって生きる」「過去を捨てて人生をやり直す」「所長の生存を密かに確認し、普通に生きる」個人的には3つ目であってほしいです。自分が犯罪者でそれを隠して生きるとなると、行政サービスなど恐らく受けることもできないだろうし、かわいそうです。そこまでひどいことしてないと思います。被害者(?)といえるのは所長の奥さんくらい。

 <わたし>があれだけストーカー行為をしていたにもかかわらず、対象者が気付かなかったのもすごいと思いました。気付かなくて正解…だったのだろうか。怖いどころじゃないと思います。

 全体的に読みやすくて、あっという間に読み終わりました。あと、清掃スタッフの人たちがリアルすぎて面白かったです。