オズシリーズ8作目。アメリカの少女ベッツィが登場。
- 作者: ライマン・フランク・ボーム,新井苑子,Lyman Frank Baum,佐藤高子
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 1981/02/15
- メディア: 文庫
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ーあらすじー
オズの片隅にある小さな国ウーガブーの女王アンは、ある日オズの国を征服しようと軍を立ち上げます。しかし、グリンダの魔法によってオズの外の国をさまようのです。
その頃、ベッツィ・ボビンはロバのハンクとともに難破して荒海を漂っていました。そして気が付くと、バラの花の人間たちが住むバラ王国へとたどり着いていたのです。そこで行方不明の弟を探しているというモジャボロに出会います。彼らはバラ王国の人たちが望まない「女王」を摘み取ったことで、<バラの花>たちの怒りを買って王女ともども追放されてしまいました。
バラ王国を追い出された後、ベッツィたち一行に、虹からはぐれてしまった虹の娘ポリクローム、オズマに遣わされたチクタクが加わります。チクタクによるとモジャボロの弟は地底の王ラゲドー(=ノーム王)に捕らえられているようです。そんなわけでノーム王を目指すことにしたベッツィたちは、その後アンたちの軍隊とも合流します。
その様子を見ていたラゲドーの魔法でベッツィたちは<地中トンネル>へ落とされてしまいました。行きついた先は妖精たちの国で、支配者チチチ‐フーチューにより若龍クオックスを伴って送り返されることになります。チチチ‐フーチューはクオックスにラゲドーに罰を与えることを命じました。
ラゲドーはクオックスにより魔法の力を取り上げられ、王座も剥奪されました。そして新たな王となった侍従長カリコの協力もあり、探していたモジャボロの弟とようやく再会できたのです。
旅の目的を終えた一行はそれぞれの場所へと帰ります。ポリクロームは空へ、アンはウーガブーへ。ベッツィ、ハンク、モジャボロ兄弟はオズマによってオズの国へ迎えられるのでした。
ー登場人物ー
いつも通り多いです。適当に割愛しています。
ベッツィ・ボビン:活発で気の強い女の子。元の世界に帰りたいとは全く思っていないよう。オクラホマ出身。
ハンク:乱暴者のロバ。ベッツィの大切な友だち。
モジャボロ:自由気ままな旅人。弟探しにあたってオズマから<愛の磁石>を持っていくことを許された。
ポリクローム:とても美しい虹の妖精。今回もうっかり地上へ取り残されてしまう。
チクタク:モジャボロを手伝うためにオズマに遣わされたロボット。タイトルにもなっているのに、ほとんど活躍していない。
モジャボロの弟:本名不明。ラゲドーにより<醜い男>にされてしまった。本人曰く元はかなりのハンサムだったらしい。やや自意識過剰。
オズガ:バラの王女。バラの王国の住人は男性の支配者を求めていたが、オズガが女性であったことから追放される。優しくて穏やかな性格。
アン:狭い田舎の国での生活に飽き飽きして世界征服をもくろむ女王。わがままで世間知らず。故郷で生きる幸せに気付き、(オズマにより)みんなで帰還する。「オズの虹の国」で登場したジンジャー将軍を彷彿させる。
ヤスリのジョー:ウーガブーの軍隊で唯一の兵卒(=実戦する一般兵)。頭が切れる野心家で、「戦争と虐殺がなにより好き」などと宣う危険人物。…と思いきや、バラの王女に一目惚れしてあっさり翻意する。
○○のジョー:ウーガブーの将校たち。
ラゲドー:ノーム王。旧ロークワット。何故か名前が変わっている。すべてを忘れたはずだが、どういうわけか悪党度がパワーアップしている。
カリコ:侍従長。旧執事長。この人は有能でまとも。ノーム王となる。
ガフ:将軍。この人はきっと悪い心を忘れたままだったのだろう。
チチチ‐フーチュー:別名偉大なるジンジン。<ふつうの市民>。妖精の国の絶大な力を持つ支配者。おとぎの国の住民たちの間でもその名を轟かせ、畏れられている。<ふつうの市民>というのは、人間に何かしらの恩恵を与える義務を持たない妖精、ということ。心を持たず知性と正義感をもっており、悪事を働けば公平に裁き、厳格な罰を与える。
クオックス:ノーム王討伐を命じられた気のいい若龍。若いため老龍の話をうっとおしく思っている。ノーム王討伐自体が彼にとっての罰となっているらしい。
オズマ:密かにベッツィたちを見守っていた。彼女の世界はドロシー中心に回っている気がする。
ドロシー:オズマのよき相談相手。とても重要な役割を果たした。
魔法使い:いつもオズマの傍らにいる魔法使い。グリンダの弟子。
グリンダ:強大な力を持つ王室付の魔女。
ーその他ー
☆オズの国の知名度
密かなおとぎの国だと思っていたらベッツィはオズの国のことも、オズマやドロシーのことも知っていた。…なぜ!?
☆モジャボロとポリクローム
「オズへつづく道」でドロシーとともに旅をしていたはずなのに、めちゃくちゃ初対面っぽかった。
☆ノーム王(ラゲドー)の魔法
以前は魔法のベルトを失ったために魔法が使えなくなっていたが、魔法のベルトなしでも色々な魔法を使えていたようだ。
☆トトのお喋り
ずっと謎だったトトが喋れない理由。…喋れないふりをしていたらしい。さすがにハンクまで喋りだすと、トトが喋らない理由が見当たらないので仕方がないのかも。ちなみにハンクはオズへ来てから言葉を話すようになった。なので、「おとぎの国」ではなく「オズの国」に来ることで動物でも話せるようになる…(ビリーナが辿り着いたのはエヴの国だけど)。
☆魔法のベルト
今回存在すら登場せず。今までオズマがベルトを使って移動させていたが、そういった描写は一切なし。チクタクはグリンダの魔法で移動、モジャボロたちは魔法使いの魔法で移動。万能な分、回数制限でもあったのか。
☆ベッツィのこと
「帰る家がない」ということから、もともと両親がいなかったのか。船の事故で死亡したのかとも思ったが、それならベッツィがもうちょっと悲しんでいてもいいはずなので。元の世界に帰りたいと願ったりしていないし、独りぼっちだったのかもしれない。
ー感想ー
タイトルが内容とほぼ関係なかった気がします。チクタクは登場したのですが、存在自体を忘れそうになるレベルで影が薄かったです。他の登場人物の存在感がありすぎ。
アンという女の子は、田舎での退屈な日常にうんざりして外の世界へと攻撃的な目的を持って飛び出します。彼女は浅はかで、やることなすことうまくいきません。結局うんざりしていたはずの日常が恋しくなって故郷に帰るところなんか、まさしく家出娘です。それでも以前登場したジンジャー将軍に比べると、可愛げがあったように思います。それより気になったのはヤスリのジョー。彼の路線変更にまったくついていけませんでした。好戦的な危険人物→愛する姫を守る騎士…ものすごい変わりようです。
三度目の登場となったノーム王ですが、この人どんどん悪党になっていってます。その分、すべてを失ってさまよいカリコに保護された時は本当に憐れでした。
あと、この物語において一番存在感があった(と思う)チチチ-フーチュー。心を持たず公平に裁く絶対的な存在として、おとぎの国の住人達に畏れられている彼は神様のようでした。
どちらかというとキャラクターの存在感が強すぎて物語の印象が薄かったです。物語としては、[アンが世界征服を目指す旅に出た]+[モジャボロが弟を探している]→[悪党として立ちはだかるノーム王と対決]といったところなのですが。モジャボロの弟探しが本来の旅の目的のはずなのに、ここがいまいち(私にとって)どうでも良かったから…なのかもしれません。この、モジャボロの弟の気弱で自意識過剰気味というぼんやりとした個性のせいか、感動の再会もいまいち盛り上がらず。
モジャボロの弟がオズに来ることができたのは偏にドロシーのおかげです。ベッツィとハンクについてはドロシーだけでなくオズマも気に入っていたので問題なし。ところが、モジャボロの弟については2人とも本当に興味がなさそうでした。オズマに至っては、彼について「わたしに何も要求する権利はない」と言っています。ただ、弟を残してモジャボロ、ベッツィ、ハンクをオズに呼ぶわけにはいかず、ドロシーがモジャボロを失いたくないと最後の一押しをしたこともあり、なんとかモジャボロの弟も迎えられました。「オズは困っている人たちすべての避難所ではないのですよ」と言いながら。さすがにオズマは支配者として移民問題には慎重でした。たしかに、ドロシーが言うように「オズの国は混みあってはいない」からといって、何でもかんでも移民を受け入れていたら国が立ち行かなくなるでしょう。だからこそ、オズマが言うように「移住を要求できるだけの理由」がないと受け入れるわけにはいかないのです。…ベッツィとハンクが持つ理由が「みんなと仲良くできそう」「一緒にいたら楽しそう」という極めて曖昧で個人的な感情によるものでなければ、説得力があったのですが。
たぶん今作の見どころは「ベッツィの登場」と「トトが喋った」この2点に尽きると思います。意地でも喋ろうとしないトトのこだわり(?)がすごい。あと、木挽き台の馬、ライオン、ハンクが、それぞれ自分たちの大好きなオズマ、ドロシー、ベッツィがいかに素晴らしい女の子であるかを張り合うところは微笑ましかったです。みんなかわいい。個人的にはオズマと木挽き台の馬の組み合わせが好き。
魔法使いが本当の大魔法使いに近づいていってるのが個人的には嬉しかったです。ドロシー→オズマの親友兼相談役、魔法使い→オズマの大臣とか側近みたいな感じでした。