びんのなか

想い出話や感想文など。ネタバレだらけです。

十二国記(1)魔性の子

 十二国記(完全版)を少しずつ買い揃えています。

 もともと私が読んだ順は

「月の影 影の海」→「風の海 迷宮の岸」→「東の海神 西の滄海」→「風の万里 黎明の空」→「図南の翼」→「魔性の子」→「黄昏の岸 暁の天」→「華胥の幽夢」→「丕緒の鳥

でした。「魔性の子」以外は発売順です(「魔性の子」が一番最初に発売された)。

 今回は完全版のエピソード順に従ってまっさらな気持ちで読み直していきます。

 感想や考察を書くにあたってネタバレが必至となりますので、未読の方はご注意ください。あくまでも主観的な解釈であるため、十二国記について正確に知りたい方にはあまり参考にならないと思います。いつもどおりものすごく長いです。

 まずは「魔性の子」。「黄昏の岸 暁の天」を読んだとき、何とも言えない感動を覚えました。「つながった」と。シリーズの非常に大事な部分が描かれている作品ですが、十二国記シリーズとしてではなく、単体の小説として別の出版社から出版されていました。ジャンル的にもファンタジーではなくホラー小説です。「完全版」ではエピソード0となっていました。

 どうでもいいけど、このシリーズ、漢字の変換が難しい…。

 

 

 

 

 

 ■□あらすじ■□

 教育実習先の母校で広瀬はクラスで孤立している少年高里に興味を抱く。担当の化学の準備室に入り浸っている生徒の1人築城から、高里が以前か“神隠し”に会い1年ほど行方不明となっていたこと、そのため1年ダブっていることを聞く。

 “神隠し”の話を聞いて高里を揶揄った橋上と、話をした築城が立て続けにケガをする。怯えて家に引きこもっていた築城に会いに行った広瀬に、築城は「高里を怒らせると死ぬ」と話す。高里の周りで過去に何人も怪我をしたり死んだりしているらしい。

 同級生の岩木は善意から高里の頬を打つが、体育祭の練習中に死んでしまう。この件で恐慌状態となった生徒たちは高里を吊し上げる。止めに入った広瀬は怪我をするが、2階(実際は3階分)の窓から転落したはずの高里に大きな怪我はなかった。

 広瀬は高里を自分の家で預かることにする。学校では吊し上げた生徒たちが屋上から集団で転落死する。その後も学校の関係者やマスコミや高里の家族、広瀬の近隣の者などが次々と無惨な死に方をしていく。

 広瀬は高里の周りに“何か”がいるのを何度か目撃しており、それらが高里に危害を加える者たちに報復しているのだと考える。高里が神隠しの間の出来事がそれに関係しているのではないかーと考えるが、高里はほとんど思い出すことが出来ない。

 その頃街のあちこちで「キを知りませんか」と尋ねる女が出没していた。彼女は一つ目の犬とともに「タイキ」という獣を探しているらしい。

 エスカレートしていく“報復”に絶望した高里は自ら命を絶とうとするが、「レンリン」と名乗る女に止められる。

 嵐の中浜辺へと出た高里は麒麟の姿へ変わったレンリンを見て、すべてを思い出す。自分はもともとこの世界の人間ではなく、十二の国の一国「戴」の王「泰王」に仕える麒麟の泰麒であることを。高里が元の世界に戻るために「延王」が迎えに来るという。その際水害が起こるので広瀬に逃げるよう言う。高里は広瀬にこの世界で生きることを願い、広瀬はそれに頷くのだった。

 大きな被害を出した高潮のあと、高里の姿はどこにもなかった。

 

■□登場人物■□

 *高潮以前で確実に生存している場合に「生存」と記載。

■広瀬

 主人公。教育実習生で化学担当。おそらく21歳くらいだが、読んでいるとそんなに若く感じない(私だけか)。子どもの頃一度死にかけており、その時見た景色(臨死体験)の影響か「故国喪失者」である。この世界は本当の自分の世界ではない、どこかに「帰りたい」と願っている。神隠しに遭いその間の記憶を思い出したがっている高里に共感し、深く関わっていく。最後は高里と自分の決定的な違いに気づき絶望するが、現実の世界で生きていくことを受け入れる。

■高里

 子どもの頃に庭で行方不明となるが、約1年後戻って来る。高校2年生だが、1年ダブっているということは本来は高3なので18歳くらいか。物静かでほとんど感情が表に出ない。広瀬との交流の中で少しずつ微笑ったりするようになる。失踪していた1年間の記憶が失われており、思い出すために絵を描いている。純粋で清い心の持ち主で、人間の持っているはずの醜い感情がない。

 実はこの世界の人間ではなく、麒麟という獣。角を失ったため元の姿に変化することが出来ない。誤ってこちらの世界の女性の胎内に宿った胎果。神隠しに遭っている間、元の世界に帰っていた。再びこちらの世界に戻ってきたのは「事故」らしい。

 本来の使命を思い出し、迎えに来た延王とともに帰還する。

■後藤

 広瀬の恩師で、教育実習の指導役。化学担当。ほとんど化学準備室で過ごしている。高里の周りにいる不思議な“何か”を見たことがあり、また高里の周囲で起こる不可解な事件から高里のもつ「異質さ」を感じている。広瀬なら高里を理解することが出来るのではないかと考えている。ただし、広瀬と高里の決定的な違いもわかっていて、広瀬が高里に深入りすることで現実世界を拒絶し始めていることを懸念している。広瀬の一番の理解者。趣味で絵を描く。生存。

■十時

 保健医。広瀬や高里を気遣って車で送迎をしたり、部屋を貸してくれたりする。生存。

■橋上

 化学準備室に入り浸っている生徒の1人。3年生。高里に興味本位で神隠しについて尋ねるが、基本的には分別のある少年。生存。

■築城

 化学準備室に入り浸っている生徒の1人。2年生で高里のクラスメイト。高里の祟りを信じていて、高里に危害を加えることを恐れている。生死不明。

■野末

 化学準備室に入り浸っている生徒の1人。1年生。生死不明。

■杉崎

 化学準備室に入り浸っている生徒の1人。1年生。生死不明。

■岩木

 化学準備室に入り浸っている生徒の1人。2年生。高里の隣のクラス。祟りを信じていない。高里に対して「しっかりしろよ。祟りなんかない」という意味合いで彼の頬を張るが、残虐な報復を受け死亡。

■坂田

 化学準備室に入り浸っている生徒の1人。2年生。高里を妄信しており、彼を特別な存在として扱うよう周囲に布教する。粘着質な性格で、周りの人間を不快にする。マスコミに高里のことをリークしたため報復を受け死亡。

■五反田

 高里のクラスの委員長。理性的で坂田の妄言を客観的に分析している。高里のことは中学生の頃から知っていて、彼の周囲で起こる事件の傾向について。常識人で高里が吊し上げられた際も止めようとしていた。生死について記述なし(のはず)。

■高里の家族

 父・母・弟がいる。父母は良くも悪くも普通の人。弟は兄とは正反対のロクデナシ。惨殺される。

□白汕子(ハクサンシ)

 高里を守護する妖。女の頭と腕、白い獣の下半身を持つ。たいていは腕だけ現れている。白くてふっくらとした女性らしい腕が特徴。廉麟が高里を迎えるために遣わした人妖。高里に危害を加えたと認識した相手に見境なく報復していく。高里はムルゲンと呼んでいる。母性の象徴のような存在。

□傲濫(ゴウラン)

 白汕子とともに高里を守護する妖。赤い粘液に覆われた鱗を持つ、巨大な犬のような姿。飛ぶことが出来る。高里はグリフィンと呼んでいる。

□廉麟(レンリン)

 夜な夜な街のあちこちに出没しては通りすがりの人に「キを知りませんか」と聞き回る女性。背はあまり高くないが、二十歳くらいに見えるらしい。白い一つ目の犬のような妖(ハンシ?)を連れている。泰麒を探しにこちらの世界へやって来た麒麟

 

■□メモ■□

*シリーズの伏線的な箇所を挙げてみました。

麒麟

 中国の伝説にある獣。麒が牡、麟が牝。一角は麒とのこと。麟には角がない…?泰麒は角を失ったために転変できないらしい。

十二国

 高里の本来の世界。十二の国があり、十二の王がいる。今作では「戴(タイ)」「エン(雁)」「レン(漣)」の存在が明かされている。

麒麟の本能

 それまで無抵抗だった高里が、土下座を強要された時強く拒否する。彼にとって膝を折り手を突くことは「絶対にしてはいけない」こと。

■高里の連想ワード(十二国記関係の単語が多数出てくる)

 「記憶」― 曖昧・不安・事件・異端・異邦・異境・喪失・腕・ざわめき

 「麒麟」― 麒麟の絵・瑞兆・角端・角・孔子・転変・選定・王・契約

 「白汕子」―水・女・守護・あやかし・ムルゲン

 「蓬山」―奇岩・ロライマ・ギアナ・故郷・木・蓬蘆宮

 「王」―泰王・契約・麒麟・十二王

  *泰王とは称号。戴極国の王。

■高里の忘れてはならなかった約束

 王に誓った忠誠のこと。「御前を離れず、詔命に背かない」という誓約。ずっと思い出すことが出来なかった。

■延王が世界を渡る時に水害が起こる

■胎果(高里の項を参照)

■血の穢れ

 麒麟は血を厭う獣。泰麒は血に病んでいる。

■廉麟

 レンタイホと呼ばれている。 

 

■□感想■□

 この作品自体はもともと十二国記シリーズには入っておらず、教育実習生の広瀬の視点で描かれるホラー小説です。異質な存在の高里との交流と、彼の周りで起こる悲惨な出来事が描かれています。しかしシリーズの一部として考えると、「魔性の子」は根幹ともいえる非常に大切な部分になります。なので、十二国記シリーズとして読む場合、これが一番最初に書かれたとは思えないくらいの設定の緻密さに驚かされるのです。

 あらためて読んで思ったこと。後藤にものすごく感情移入できたことに、自分が年を取ったのだと感じました。初めて読んだとき、「いい先生だな」くらいは思っていましたが、今読むとものすごく後藤の言うことが理解できる。ただ、広瀬の思考や気持ちが理解できないかというと、それも理解できるのです。自分にもそういった部分があったから。今思うとすごく「幼かった」んだなと思います。なので、広瀬に対しては精神的に未熟だという印象が強かったです。

 高里にとって広瀬は確かな救いとなっていました。一方の広瀬にとっても高里の存在は自分の幻想を肯定できる唯一の存在です。ただしこちらの場合、現実から目を逸らすための都合のよい逃げ道を求めていたようにも思えます。そんな彼をよく理解している後藤の言葉は、広瀬にとって自分の心の守りを壊す恐ろしいものでした。ちなみに、後藤は高里のこともよく見ています。彼の本質的な部分を客観的にとらえているからこそ、高里との違いを知りつつも広瀬なら高里を理解できると考えたのでしょう。こんなに自分のことを理解って心配してくれる人がいるのに、それが分からない広瀬にもどかしさを感じました。

 結局自分もただの人間であることを自覚し、現実の世界で生きることを決めた広瀬には高里と出会ったことで確かな成長(?)がありました。事件後、後藤と酒を呑みながら色々語り合ってほしいなと思います。

 

 全体的にとにかくグロテスクな描写が多かったです。これでもかというくらい悲惨な殺され方をします。一番ひどかったのは高里の家族。きっと高里へ加えた危害の程度に因るのでしょう。とはいえ、両親についてはある意味気の毒。坂田のように死んでも止む無し、ではなくただ弱い普通の人間だっただけなのだと思います。 

 また死亡者自体も多いこと。始めのうちは高里に関わった者だけでしたが、最後は対象が広がりすぎて報復方法もどんどんエスカレートしたため、巻き添えで死んだ人もかなりいました。できれば築城、野末、杉崎、五反田は生きていてほしい。

  

 先日「白銀の墟 玄の月」を読んで、死亡者が多くて微妙な気持ちになったわけですが、「魔性の子」を読んだらなんとなく納得できました。最新刊は「魔性の子」と雰囲気が近いと感じました。グロテスクなシーンが多さや、あっさり人の命が失われていく容赦のなさ。それから高里の存在。「魔性の子」での高里は広瀬の視点から描かれているため、高里の思考や気持ちが具体的にはわかりません。「白銀の~」での泰麒も登場人物たちの視点からのみ描かれているので彼が何を考えているのかは最後まで分かりませんでした。そんなわけで、どちらも高里(泰麒)は何を考えているのかはっきりわからない不思議な少年といった印象でした。

 

 久し振りに読み直して、面白かったです。シリーズ他作品についても大雑把なあらすじくらいしか覚えていないので、じっくり楽しみながら読んでいきたいです。