びんのなか

想い出話や感想文など。読書メモが多め。ネタバレだらけです。

さいはての島へ(ゲド戦記3)

 シリーズ3作目。当時はこれが最終巻だと思っていました。

 持っているのが単行本のため、テーブルに置いて読んでいるのですが、座った姿勢を維持するのがしんどい…。筋力がなさすぎです。

 

■ あらすじ

1.ナナカマド

 エンラッドの王子アレンはローク学院の大賢人を訪ねる。アレンはモレド家(アースシーで最も古い一族)の末裔である。ハイタカと名乗る大賢人に、アレンは自国で起こった異変を伝える。魔法使いがその力を失ったと。

2.ロークの長たち

 腕輪がハブナーの“王の塔”に戻ってから17~18年くらい経っている。しかし、玉座は800年間空いたままとなっている。

 ハイタカは九賢人に、世界が急速に力を失ってきていること、その処置を講じるために旅立つことを告げる。そして、アレンに同行を求める。

3.ホート・タウン

 アレンとハイタカははてみ丸(舟)に乗って、ホート・タウンへ着く。この場所はハイタカを知る者がいるため、ハイタカは商人に姿を変え、アレンはその甥として振る舞うことにする。

 ホート・タウンは荒廃が進み、ハジア(麻薬?)中毒による廃人が至る所に横たわっている。そして、ここでも魔法の力だけでなく、あらゆる力が失われていた。二人は、ウサギという(元)魔法使いから話を聞こうとする。ウサギはハイタカを闇の世界に案内するという。精神世界(?)へと旅立った二人を見守るアレンだったが、そこへ現れたのは闇の王だったー。

4.魔法の灯

 目の前にいたのは膝に顔を埋めるウサギと、仰向けに倒れているハイタカだった。見知らぬ三人の男たちが金貨を袋に放り込んでいる。彼らは盗人だった。アレンは盗品を彼らから奪い、外に逃げ出す。アレンは自分が囮になって敵をハイタカから遠ざけようとしていたのだ。

 結局捕まったアレンは奴隷船に乗せられるが、ハイタカに助けられる。ウサギと闇の世界に行ったハイタカは、結局何の収穫もなかった。

5.海原の夢

 再び舟に乗り、ローバネリーを目指す二人。舟でハイタカはかつてハブナーに住んでいた魔法使いの話をする。クモと呼ばれたその男は、死者を呼び出していた。ある時、ハイタカは彼が大賢人ネマールを呼び出すのを目撃し、激昂する。ハイタカはクモを黄泉の国へ連れて行き、二度と死者を呼び出さないよう誓わせたという。

6.ローバネリー

 絹織物が特産品らしいが、やはりこの地でも力が失われていて、生産することはできなくなっていた。

 二人は染めを専門としていた魔法使いの老婆を訪ねる。この老婆はかつては強い力をもった魔法使いであったが、今はもうその力失っていた。ハイタカは彼女から本名を取り上げ、新しい名を与えることで魂を救ってやる。

 その後、老婆の息子(ソプリ)がやって来て、死の国への道案内をするから同行させてほしいと言って来る。彼もまた、かつては魔法使いだった。同行を許したハイタカに、アレンは不満を抱く。

7.狂人

 ソプリを加えた三人の乗った舟は西へ向かう。アレンは徐々に負の感情に支配されつつあった。

 目の前に見える島に上陸しようとした時、無数の槍が降って来た。ソプリは海へ飛び込んで死に、槍を受けたハイタカは重傷を負ってしまう。

8.外海の子ら

 アレンは絶望しながら、瀕死のハイタカと舟で海を彷徨っていた。しかし、突如現れた3人の男たちに助けられる。彼らは“いかだ”で生活していて、陸へ上がるのは年に一度だけだという。

 漸く目を覚ましたハイタカはアレンを厳しさを持って「行かなくてはならない」と諭す。ハイタカは、自分が完全に回復するまではここで世話になることにする。外海には異変が来ていないようだった。

9.オーム・エンバー

 夏至の日、祭りが開かれ、そこで吟唱詩人が歌っていたのだが、突然「歌」を忘れてしまう。アレンが歌うことで祭りは進んだが、明らかに異変はやって来ていた。

 そこへ「ゲド」を探していた竜が現れる。竜と会話したハイタカは出発を決意し、いかだ族と別れる。竜はオーム・エンバーといって、かのエレス・アクベを殺し、自分もエレス・アクベに殺された、オームの血を継ぐ竜だという。竜はゲドに助けを求めていた。「西国に自分たちを破滅させようとする竜王がいて、とても敵わない」と。

 ーその一方でロークでは、姿かえの長と呼び出しの長が世界を見ていた。姿かえの長の懇願で、呼び出しの長の見たものは「終末」だった。翌日、呼び出しの長は魂が抜けたようになっていた。異変はロークにも浸食してきたのだ。ロークからも魔法が失われた。

10.竜の道

 「竜の道」と呼ばれる竜が棲む島に上陸した二人。そこで二人が目にしたのは、力を失った竜たちだった。

 二人は、カレシン(最年長の竜)の城でオーム・エンバーに再会する。竜は「探している人間に会うためにはセリダーに行かなければならない」と言う。竜の言葉をアレンに伝える中で、ハイタカは本名「ゲド」を明かす。そして、ゲドはこれからはアレンを本名「レバンネン」と呼ぶと言った。

11.セリダー

 セリダーに着くと、オーム・エンバーがやって来る。そこへクモの幻影が現れる。ゲドはクモが闇の国へ行くのだと言う。

 オーム・エンバーも、とうとう「太古のことば」を失ってしまった。それでも竜は<さいはての岸>へと道案内をする。ゲドは「わが敵よ」と呼び、クモはその実体を現す。

 オーム・エンバーの捨て身の攻撃によりクモは「本当の姿」となる。それは若い男ではなく、寿命を超えて生きた醜い老人だった。クモは自ら広がった闇をくぐって黄泉の世界へ姿を消す。二人は彼を追って黄泉の世界へ入って行く。

12.黄泉の国で

 黄泉の国を進む中、ゲドはロークの呼び出しの長を見つける。ゲドは彼に戻るよう諭す。

 再びクモと対峙した二人は、そこに死の川の源となる入口に辿り着いていた。アレンは再生し続けるクモにずっと斬りかかる。ゲドは持っているすべての力を使って、虚無の扉を塞ごうとする。そして、ついに扉が閉じたのだった。ゲドがクモに何か語り掛けると、クモは死の川を下っていき、見えなくなった。

 すべてが終わり、アレンは力を使い果たしたゲドを背負って、引き返すのだった。

13.苦しみの石

 セリダーの砂浜に戻ったアレンたちのところに、竜のカレシンがやって来る。竜は二人を乗せて、ロークへと飛び立った。

 ロークで長たちが出迎える中、ゲドは若きハブナーの王となるアレンを祝福する。そして、ゲドは再び竜に乗り、故郷のゴントへと向かっていった。

 

■ 登場人物

▪ アレン(レバンネン)

 由緒正しい血を引く王子。美しく整った顔立ち。17歳。真面目で誠実な性格だが、若さ故の未熟さもあり、抽象的な物言いしかしないゲドに苛立つことがある。「セリアドの剣」という、エンラッドに古くから伝わる剣を携えている。ハブナーの王となる。

▪ ハイタカ(ゲド)

 ロークで大賢人となっている。行動力は相変わらず。年齢は40~50くらい?(←老人ではないと思う)

 アレンがハブナーの王となることを早くから見抜く。最終的に力を使い果たして、魔法が使えなくなる。

▪ 九賢人

守りの長 … 年齢不詳。「ゲド」の名を知る。

様式の長 … カレガド帝国出身。まだ若い。金髪。

名付けの長 … クレムカムレク。背の高い老人。

薬草の長 … 皮膚の黒いずんぐりとした体つきの男。

風の長 … 鋭い目つきのやせぎすの男。

呼び出しの長 … 浅黒い品のよい顔立ちをした、若くて背の高い男。本名トリオン。

姿かえの長 … 白髪。

詩の長 … 胸の厚いがっしりした体つきの男。

手わざの長 … 機敏なほっそりとした体つき、目は澄んでいて鋭い。

▪ ウサギ

 海賊イーガーのもとで風の司をしていた元魔法使い。イーガーに右手首を切り落とされた。今は廃人となっている。

* アレンを捕えた奴隷商人(元海賊)のイーグルとイーガーが同一人物なのかは不明。最初は名前が似ていたので同一人物だと思っていた。

▪ ソプリ

 染師の男。元魔法使い。力を失うとともに、心も病んだ模様。

▪ オーム・エンバー

 「ゲド」の名を知る竜。エレス・アクベの環を探すのに協力してくれた。

▪ カレシン

 最年長の竜で、「ゲド」の名を知る。

▪ クモ

 災いの元凶。ゲドに対して強い憎悪の念を抱いていると思われる。自然の摂理に背き、「永遠」を手に入れようとしていた。本名は失われ、存在そのものが「虚無」となり、世界の力を吸い尽くそうとしている。

* かなり難解な存在なので、人によって解釈が違うかもしれません。一回読んだくらいでは、私には理解できなかったです。

 

▫ ゲドの名を知る者

 守りの長、名付けの長、オジオン、テナー(“白き女(ひと)”と呼ばれる)、カラスノエンドウ、ノコギリソウ(大工に嫁ぎ、三人の娘の母親となっている)

 オーム・エンバー、カレシン

 

■ 感想

 非常に哲学的な内容に感じました。死生観(といってよいのかな?)について何度も語られますが、すみません、私にはあまり理解できなかった…。自然の摂理、あるがままを受け容れろ…そんな感じでしょうか。

 心の隙というか、不安や恐怖そんな感情を少しでも抱くと、あっという間に囚われてしまい、力を失うのでしょうか。あるいは、闇に近づきすぎると…とか??最初は精神的な強さが関係するのかとも思っていました。守りの長は特に影響を受けていないようでしたし。しかし、呼び出しの長やオーム・エンバーは力を失いました。彼らに心の隙があったとは思えず、そうすると闇に近づきすぎたことで力を失ったと考えた方が自然な気もします。が、何の前触れもなく力を失うことも多いようなので、流行り病みたいなものという側面もあるようです。…よくわからない。カラスノエンドウは元気でしょうかね。オジオンは影響なさそう(高齢ではあるが生きている)。

 全体的な構成は舟であちこち旅する1作目に近いです。ただ、過去2作に比べると、主人公アレンの心の成長がいまいちわかりづらい印象を受けました。戦いの中心がゲドだからでしょうか。どちらかというと、ゲドの世話をしている印象の方が強いです。あと、「クモ」という敵を目指すわけですが、謎の異変から始まって虚無が世界を覆いつくそうとする流れが、FF3を思い出しました。

 アレンは最終的にハブナーの王となるわけですが、王の存在と世界に均衡に関係があるのかはわかりませんでした。王の不在が異変を進行させた…とも思えません。ただ、「死への恐怖」を乗り越え、帰還したアレンでなければ、ハブナーの王となり得なかったのでしょう。今回の出来事は、世界がアレンや人々に与えた試練だったのかもしれません。

 アレンとゲドの関係を見ると、ゲドとオジオンの関係によく似ていると思いました。ゲドの年の重みを感じます(正直、そこまでの年かという気がしないでもない)。故郷へ帰ったゲドが、今度こそゆっくりとオジオンと過ごしてほしいと思います。

 それにしても、オーム・エンバーの死はつらかったです。登場期間はそこまで長くないのですが、ゲドとの絆の深さが伝わってくるため、悲しかった。この作者の方は、「死」や喪失感を表現するのがとても上手だと思います。読んでいて、結構落ち込む…。

 

 気になったこと。

 ゲド、毎回瀕死になっています。読んでいて真っ先に思いました。「また死にかけてる」と。

 あと、ノコギリソウとのことが気になると思っていたら、とても親切に現状が描かれていました。たまに会いに行ったりするのでしょうかね。前作が出た後、作者に問い合わせでもあったのかと思いました。

 我が家にはあと1冊続編があります。続きを買うかはそれを読んでから決めようかと思っています。

 

* ここの記事読んでもあまりわからないと思うので、気になった方は読んでみてください。とても面白いので、是非!!個人的にはかなり完成度の高い構成の物語だと思っています。

 

 私の持っている本。消費税3%の頃が懐かしい…。