漸く話が動き出し希望が見えるという、恐らく最も楽しめた巻でした…。気になるあの人たちが登場するなど、見どころもたくさんあります。この巻で今まで張られていた伏線がかなり回収されていて、謎もかなり解き明かされました。
*青文字が既出。
【泰麒ルート】
■□登場人物■□
■ 泰麒
目的のためなら麒麟の本性にも抗う強靭な精神力を持つ。麒麟とは思えないくらいの冷徹な態度を取ることもある。
■ 項梁
正頼より英章を捜すことを託され、巌趙の協力を得て鴻基を脱出する。耶利に比べてやや短絡的。
■ 耶利
泰麒の護衛。黄朱。身軽で非常に有能。
■ 巌趙
項梁が去った後、大僕となる。
■ 潤達
側に仕える医官。
■ 恵棟
阿選麾下。泰麒に対して忠誠を尽くす一方で、阿選に対して批判的な感情を抱く。
■ 正頼
拷問を受け続けており、悲惨な状態で幽閉されている。泰麒によって見つけ出されるが、英章を捜すことを伝え、脱出することを拒んだ。
■ 阿選
偽りの王。驍宗との埋められない差に苦しむ。
■ 琅燦
阿選を唆し手を貸した張本人。阿選を蔑んでいて、今なお驍宗のことは慕っている様子。黄朱で恐ろしく博識で頭も切れる。
■ 張運
無能で権力にしがみつく冢宰。バカっぷりがパワーアップしている。
■ 案作
有能な冢宰補。
■ 士遜
泰麒によって州宰を更迭されたが、張運によって内宰(貴人の世話をする役人)に任じられる。泰麒に多大な迷惑をかけた(張運の策は失敗に終わる)。
■ 浹和
女御で張運側の間者だったが、彼女もまた病んでしまう。
■ 叔容
夏官長大司馬。阿選軍の軍吏で恵棟の上司だった。友尚とも旧知の仲。
■ 駹淑
小臣の1人。
■ 午月
駹淑の先輩で阿選の麾下。
■ 伏勝
駹淑たちの上官。阿選麾下。
■ 杉登
巌趙の麾下で、現在は品堅の下にいる。巌趙が泰麒の大僕となったことに安堵する。
■ 帰泉
阿選の麾下。杉登の同僚。
■ 品堅
杉登や帰泉の上司。
■ 友尚
禁軍右軍将軍。阿選により驍宗の捜索のため函養山へ派遣される。
■ 烏衡(うこう)
驍宗を襲撃した実行犯。非常に卑しい人物。
■□物語の流れ■□
1.泰麒が阿選に直接会いに行く。
2.泰麒が警備の厚い(怪しいと思われる)所に忍び込み、正頼と再会。英章を捜すことを託され、項梁が王宮を脱出する。
3.阿選が泰麒に会いに来る。泰麒は阿選に偽りの誓約をする。
4.阿選は玉座に就き、恵棟を正式に瑞州州宰に任命する。また、冢宰および六官を牽制する。
5.阿選が驍宗の捜索を開始する。
■□メモ■□
■ 病んで再起不能となった人
文遠・徳裕・平仲・浹和
■ 「病む」原因
▪ <次蟾・じせん>という魂魄を抜く妖魔の仕業。
▪ 次蟾・・・鳩のような鳴き声。嬰児をつぶしたような顔を持っている(気持ち悪…)。
▪ 阿選は次蟾によって魂魄を抜かれた者を呪符によって支配。それと同時に病の進行を抑えることができるが、最終的には魂魄が抜け切って生ける屍と化す。
▪ 黄袍館(おうほうかん・泰麒たちの居処)にもいた。恵棟は次蟾除けの呪符の施された札を持っていた(本人は知らない)。次蟾は耶利によって駆除された。
▪ 妖魔の瘴気は麒麟の側では霧散する。
■ 阿選が使う妖魔
▪ 琅燦が妖魔を使役する技を持っていて、妖魔を用立て阿選にその技を授けた。
→ が、阿選は妖魔をきちんとコントロールできず、被害が拡大してしまった。
▪ 次蟾の他、烏衡たちに賓満(ひんまん・景麒が陽子に取り憑かせていた妖魔)を付けたり、函養山の破壊に貍力(りりき)を使った。
■ 阿選の理由
(一方的に)驍宗との差を感じて憎しみを抱いた。阿選にとって驍宗は常に比べられ、切り離すことのできない影のような存在であった。そして、驍宗と己の差は彼自身が一番感じていていた。
■ 琅燦の理由(…?)
▪ 「王と麒麟」を巡る摂理を知りたいという強い好奇心を持っている(「試してみるしかない」と言っている)。
▪ 驍宗のことを尊敬し、阿選のことは馬鹿にしている。
▪ 阿選が行動するように仕向けた。
▪ 泰麒を「化物」(誉め言葉)と評価している。
■ 黄朱について
▪ 耶利は<さる人>に「見所があるから人の世界で勉学しろ」と言われて、ここにきた。
▪ 琅燦は最初に黄朱から驍宗に預けられた人物。<さる人>が預けたのか?
▪ 驍宗は黄朱から様々な知恵を借りていた。妖獣狩りや荊柏(「黄昏の岸 暁の天」に出てくる)など。
▪ 驍宗と黄朱の縁は深く、驍宗は黄朱が知見を広げられるよう支援していた。
▪ 王宮に受け容れられている黄朱は耶利だけではない。
▪ 巌趙や臥信も黄朱とは縁深い(臥信は朱旌を重用していた)。
▪ 黄朱は概して恩義に厚いが、彼らにとって王や麒麟、国は重要なものではない。
■ 正頼からの情報
▪ 草洽平(そうこうへい)が英章の行方を知っている。
▪ 草洽平は馬州の宜興というところにいるらしい。
▪ 英章に「不諱(ふき)を訪ねろ」と伝えれば、驍宗の役に立つだろう。
■ 泰麒の麒麟の本性に抗った行為
▪ 殺傷・・・未遂に終わったが、自らの意志で行おうとした。
▪ 叩頭・・・阿選に偽りの誓約を行った。以前延王に叩頭しようとした時は物理的にも不可能だったが、今回は意志の力で突破した。
【李斎ルート】
■□登場人物■□
■ 李斎
驍宗の行方を探し続ける。
■ 去思
道士。
■ 酆都
神農。
■ 静之
李斎と同様、瑞州の軍人。
■ 余沢
神農。見習い?
■ 喜溢
浮丘院の老道士。
■ 建中
琳宇の差配。実は白幟で轍囲の出身。
■ 朽桟
函養山を取仕切る土匪の首領。
■ 沐雨(もくう)
石林観の首座である女道士。高齢。元朱旌。
■ 茂休
老安の里宰輔。
■ 回生
老安で傷を負った武将(基寮・きりょう)の世話をしていた少年。一人で里を出て石林観を訪ねた。
■ 春水(しゅんすい)
以前李斎が土匪に捕らえられた原因となった白幟の女性。轍囲の出身。
■ 詳悉(しょうしつ)
元文州師。赴葆葉の差し金で李斎たちを見張っていた。
■ 端直(たんちょく)
白琅に逃げ込んでいた荒民。詳悉とともに李斎たちを見張っていた。
■ 赴葆葉
牙門観の主。いつか来る阿選への反逆のために武力を備えている。
■ 敦厚(とんこう)
司空大夫(=冬官長)。葆葉を陰から支援してきたらしい。
■ 夕麗(せきれい)
元禁軍中軍卒長の女性。李斎たちと赴葆葉の連絡役となる。
■ 梳道
石林観系の道士。修行道(非常に危険)の案内をしてくれる。
■ 癸魯(きろ)
霜元の麾下の旅帥。霜元とともに承州へ向かっていた。
■ 崖刮(がいかつ)
霜元の麾下の師帥。文州に残り二師を纏めていた。
■ 浩歌(こうか)
崖刮と同じく霜元の側近。
■ 泓宏(おうこう)
李斎の麾下。現在承州にいるらしい。
■ 霜元
元瑞州師左軍将軍。高卓を拠点に驍宗の行方を探し続けていた。
■ 道範
高卓戒壇の首座。飄々とした空気を纏いつつも眼光の鋭い老人。
■ 空正(くうしょう)
道範に随従している、檀法寺の僧侶。
■ 清玄(せいげん)
道範に随従している、瑞雲観系の道士。
■□物語の流れ■□
1.李斎たちは建中の仲介で沐雨と面会し、老安で死んだ武将が<基寮>であったことを知る。また、「阿選践祚」が信用に値しない情報であると伝えられる。
2.石林観と瑞雲観は和解し、如翰により重要な手掛かり(驍宗襲撃の実行犯が<烏衡>であること)を得る。
3.牙門観を出てからずっと付き纏っている者たちと直接対決。赴葆葉と再度会い、協力を得る。
4.修行道に可能性を求め、その先で霜元たちと合流する(このルートに驍宗がいないことが判明)。
5.結局驍宗は函養山にいると結論になり、もう一度函養山の捜索をすることになる。一軍の規模になるくらいに兵力が集まっていた。
■□メモ■□
■ 基寮
文州師将軍で、元英章軍の師帥。(どこかで名前を見たと思って記事を見直したら、一巻で出ていました。)
■ 沐雨が鴻基の事情に詳しかった理由
▪ 沐雨は元々朱旌であった。朱旌たちは繋がりが深く、大概の情報は朱旌から入る。
▪ 瑞雲観の誅罰の件については鴻基(というか王宮の内部?)から朱旌を通して連絡が入った(鴻基からの連絡はこれが初めて)。それからは直接青鳥(連絡用の鳥)が沐雨宛に届くようになった。沐雨の元に来る青鳥は非常に希少で、恐らく送り主は高官か軍の将校ではないかと思われる。必ず黒い竹筒が使われていることから「玄管」と呼ばれている。
■ 白幟
そもそも轍囲の生き残り。志を同じくする者同士が情報交換しながら、それぞれが行動している。
■ 函養山の落盤
▪ 恐ろしい叫び声や獣の鳴き声が聞こえた。
▪ 函養山に小屋くらいある大きな木箱が2つ、厳重な警戒の元運び込まれていた。獣臭がしていた。
→ 「貍力」という妖魔が落盤の原因ではないかと推測(貍力の断末魔の声は山肌を崩壊させるくらいの威力がある)。
■ 李斎たちの協力者
▪ 瑞雲観、石林観、高卓戒壇などの寺院
▪ 牙門観(赴葆葉)の兵力五千くらい
▪ 霜元軍の残党、六千くらい
▪ 朽桟たち函養山の土匪(積極的な協力者ではないが、協力はしてくれている)
▫ 驍宗さえいれば、「雁、奏、範、恭、慶、漣」の支援が得られるとのことだが、才はどうなったんだろう…?確か泰麒捜索の時は協力してくれていた気がするが。
【その他】
■ 驍宗
函養山の縦坑の底に落ち、例の親子の供物のおかげで生き長らえている。
→ 驍宗も阿選が叛くことはわかっていた(何が切っ掛けというわけではなく、何となく感じる空気みたいなもので)。
→ 戴の宝重は「銀の手鐲(うでわ)」。傷を癒す力があるらしい。
→ 現在の驍宗は、彷徨っているうちに騶虞に遭遇している。
▫ 供物を捧げ続ける親子も轍囲の出身者。
■ どこかの里の話
▪ 博牛(はくぎゅう)
見上げるような巨躯に屈強な体つきの男性。左の頬から口許にかけて大きな傷跡がある。年嵩に見える。驍宗を捜している。
▪ 定摂(ていせつ)
博牛が立ち寄った里の閭胥。
▪ 彦衛(げんえい)
定摂の幼馴染。母親の遺体を博牛が里まで運んでくれた。
■ 両ルート共通で判明していること
▪ 驍宗は函養山にいる。阿選は驍宗を殺す気はなく、「天の摂理が動かない」範囲で玉座に座ろうとしていた。また、泰麒についても殺す気はなく力を封じるために角を切ることだけが目的だった。
▪ 驍宗を襲撃したのは烏衡で、函養山を破壊したのは貍力。
■□雑感■□
ほぼ三巻にわたって驍宗を捜していましたが、結局驍宗はスタート地点にいました。捜し回っている間に多くの協力者を得ることが出来たので、そこには大きな意味はあったのですが。李斎たちが一気に推理によって謎を解明する流れが、ちょっと唐突な気がしないでもなかったです。ちゃんと推理に必要なヒントは過去に少しずつ出てきているので、無理矢理な感じではないのですが。
李斎たちの推理が正しいことは、泰麒ルートで分かります。今までほとんど見えなかった阿選の本心が明かされてきました。ただもう自分が滅びていくのを待っているだけにも思えます。
泰麒が麒麟の本性に抗う時に「魔性の子」の記憶が出てくるのが興味深かったです。人生の大半を占めるあの環境が今の泰麒に繋がっていると思うと、彼が並みの麒麟ではないことにも納得できます。耶利がものすごく有能である一方、あまり項梁が役に立ってない気がしました。正頼や巌趙に再会できたのは嬉しかったです。
全体的には今までの伏線がかなり回収されていき、泰麒たちと李斎たち(の情報)が交わってきて、あとは結末へ…という流れで面白かったです。今のところの大きな謎と言ったら、耶利の主が誰であるか、ということくらいでしょうか。この希望に溢れた時間が束の間であったことが本当に残念でなりません。最終巻を読むのがちょっとつらい。