前回の続きです。感想や疑問に思ったことについて考えたことなど。
好き放題書いていたら全然まとまらず、思った以上に長くなりました…。
■□感想■□
■■ 琅燦について
■ 琅燦が阿選を唆した理由がわからない
いちおう泰麒の最低限身の安全は守ってくれていたようですし、少なくとも琅燦が泰麒の敵ではなかった、というのはまあ納得できます。
阿選の計画はそもそも琅燦の協力なしでは為し得ないことでした。むしろ琅燦が阿選を唆していたわけなので、琅燦自身が驍宗から玉座を剥奪することを目的としていたと思われます。
では何故琅燦はそんなことを考えたのでしょうか。作中ではっきりしていたのは
▪ 琅燦は黄朱である
▪ 黄朱は<王>や<麒麟>に対して畏敬の念を抱いていない
▪ 黄朱は恩義に厚い
また、琅燦の発言の中で
▪ この国の王は驍宗である・驍宗のことを敬っている
▪ <この世界と王の関係>、<王と麒麟をめぐる関係>に興味を持っている(→ 何が起こればどうなるか知りたい)
琅燦の発言から、彼女がものすごく博識で<天の理>に強い関心を持っていることが窺えます。なので、一連の彼女の行動が彼女の知的好奇心を満たすためのものだったことは確かなようです。
とはいえ、琅燦が具体的に「何を知りたかったのか」は不明。琅燦が阿選に協力したことは
▪ 驍宗を捕えてどこかに幽閉する
▪ 泰麒の角を斬り無力化してどこかに幽閉する
▪ 妖魔(主に次蟾)を使い、国を掌握する(=阿選の邪魔をする者を排除)
要は王と麒麟が機能しない状態を作り出したかったのでしょうか。実際は想定外のことが起こってしまい、阿選や琅燦の手の届かない存在となってしまったわけですが。
■ 耶利の主=琅燦??
▪ 巌趙は耶利の主を知っている。
▪ 泰麒の帰還で「嵐が来た、時代が動く、良くも悪くも」と言っていた。
▪ 巌趙や耶利にも理解が難しい思考の持ち主である。
▪ 「台輔を救いたい。国を救い、民を救い、その頂点にある玉座に驍宗様にいていただきたい」と言っている。→ 泰麒との利害は一致しているらしい。
▪ 耶利は嘉慶に抜擢された形になっている。
驍宗を敬っていて何を考えているのかわからないところは正しく琅燦ですが、何が不可解って、国や民、驍宗が玉座にいてほしいと願っている「主」と琅燦の行動が(以下略
■ 巌趙について
驍宗とともに仙籍を返上し黄海に同行していたというのなら、付き合いの長さも驍宗と同じくらいで、琅燦のこともよく知っているはず。なので、琅燦と巌趙が繋がっていること自体は至極自然なことだと思います。
それはともかく。巌趙が泰麒の大僕になった経緯ですが、
▪ 項梁が英章を捜しに王宮を出奔し、大僕が耶利だけになった。
▪ 耶利が巌趙に使いを寄こし、巌趙から泰麒のもとにやって来た。
▪ 王宮にいる巌趙に近しい者たちを守るため、巌趙はひたすら静かにしていた。
▪ 「ある人物」に強く勧められて巌趙は泰麒の側に仕えることを決意した。
耶利の主が「さすがに巌趙の身柄までは、私では動かせない」と言っていたので、立場上の理由だと考えていましたが、巌趙の意志を変えることができないという意味だったのでしょうか。そして、項梁がいなくなったこともあり、説得したとか…?
そもそも不思議だったのが、巌趙がなぜ生かされていたのかということ。嘉慶はともかくとして、巌趙は驍宗の側近中の側近でした。その彼をよく生かしていたなと思いますが、ここは琅燦の口添えがあったのでしょうか。いくら巌趙が絶対服従を誓ったとしても、あれだけ無慈悲な粛清を見境なしに行っていた阿選が許すとは到底思えませんでした。
■ 玄管の正体
▪ 阿選および六官が集まる場にいることが出来る
▪ 朱旌に繋がりがある
▪ 耶利が青鳥を飛ばす場面があった
ということから、琅燦である可能性が高いと思います。また、玄管からの便りとして
▪ 瑞雲観を止めたほうがいい
▪ 阿選践祚は信じないほうがいい
▪ 阿選軍のうち機動力の高い空行師一両が密命を帯びて鴻基を出た
▪ (文州の)新州候に接触せよ
→ 恵棟の守り札が役に立たなくなったことを知らない?
はっきりしているのは玄管が阿選の行為に対して反感を抱いているということです。このことから耶利の主=玄管というのはしっくりくるのですが、琅燦=玄管というのはちょっと違和感があります。恵棟の札については予測できなかったというのが不可解です。
■ 琅燦の不可解さ
「阿選に協力することは驍宗を裏切ること」≠「阿選に協力しても驍宗を裏切ってはいない」。よくわかりません。阿選も言っていたように言動と行動が一致していないのです。そして今度はあるべき状態に戻そうと画策しているのがさらによく分かりません。
たぶん、意図的なものだと思いますが、琅燦と驍宗の関係性を示すようなエピソードが一切出てきていません。驍宗とその他の麾下たち、または李斎や花影などについては確固たる信頼関係を示すようなエピソードがいくつもありました。ところが、琅燦については一切ないのです。驍宗も琅燦とは長い付き合いでしょうから、彼女の為人はよく理解しているはずです。そもそも驍宗はかなり人を見る目はあるようですし。彼女が義や情より自分の欲望に忠実な人間であったとしても、驍宗だったらそれをちゃんと見抜いていたでしょう。まだ描かれていないだけで、琅燦と驍宗には特別な信頼関係があったと思いたいです。利害の一致だけでは驍宗にとってかなりリスクが高いと思います。琅燦が黄海を出て驍宗について来る時に何か約束事でもしたのでしょうか。驍宗も琅燦が阿選に与したことを、あっさり受け入れていたようにも思えました。
■■ 阿選について
燃え尽きたかのように無気力だった阿選でしたが、泰麒の誓約を機に「王」として政に着手していきます。そして驍宗の捜索も始めます。それは阿選の贖罪かのようにも思えました。ところが、友尚を失い、驍宗の存在を現実に感じられてからは、阿選の心は完全に驍宗に対する憎悪のみで行動しています。(*阿選の心情についてはちゃんと説明がなされています。)
気の毒なのは恵棟です。この人、泰麒を絶望させるためだけに登場したんじゃないかと思います。阿選の麾下だったのに、泰麒に傾いてしまったから余計に許せなかったのかもしれません。
更に気の毒なのが帰泉です。彼は阿選のことをずっと信じてきました。午月や伏勝にしてもそうです。駹淑だけが小臣として残っていたことからも麾下だった者を遠ざけたかったのでしょうか。
天に復讐を誓った時点で、阿選は過去の自分捨て去ったのだと思いました。闇が深い…。
■■ 裏切り者は誰だったのか
李斎の「阿選謀反」の報せがどうして阿選に伝わってしまったのかは結局不明でした。琅燦だったと言われれば、まあそうなのかもしれませんが。どうやって知り得たのでしょう。ものすごく慎重だったはずなのに。
■■ 黄朱について
シリーズ後半くらいから徐々に存在感が増してきた黄朱。「図南の翼」で黄朱について初めて言及されましたが、この世界にとってかなり異質な者たちです。黄朱のリーダーみたいな人が黄海に存在するのでしょうか。黄朱や朱旌たちについてはまだまだ謎が多いので、これから明らかになっていってほしいです。あと、驍宗と琅燦の出会いもぜひ。更夜が犬狼真君となった経緯も知りたいなあ。
■■ 天の配剤
天は無慈悲で画一的にその理通りに動くもの。とはいえ、天の配剤、というように確かに何か予定調和的に動くものがあるのも事実(小説だから、とうのはナシです)。李斎が仲間と出会っていったこと、驍宗があのタイミングで騶虞を捕えて脱出できたこと(函養山に伝説的な玉があったこと)、去思や浩歌が英章たちに出会ったこと、泰麒の傷が癒えて力を取り戻していたこと、そういった偶然の一致が天の配剤だと思います。驍宗や李斎たちの意志の力だけで戴を取り戻したわけではなく、天の見えない力が働いたからこそ玉座が驍宗に戻ったとも考えられるのではないかと。琅燦が人為的に作りだした<本来天が動かない状態>だったにもかかわらず、天が元に戻そうと動いた、そんな気がしないでもないです。民の願いが届いた、というよりは「勝手に天を謀って許せん」くらいな感じだと思いますが。
■■ 張運について
本当にどうでもいいことですが、そこまで無能な人ではなかったはずでは…。驍宗も彼の為人については知っていたでしょうし、それでも六官に任命していたということは、そのうち粛清する予定でもあったのでしょうか…??
■■ 全体的な感想
ほぼ単体で読んだと言っても過言ではないレベルでそれまでの内容をきれいさっぱり忘れていた前回と違い、今回はシリーズ最初からかなり丁寧に読んだので、十分楽しめました。
最初に読んだ時は、酆都や朽桟、赴葆葉の死や、恵棟の扱いは受け容れがたかったです。何のために存在したの、と。ここまで積み重ねて来たものをあっさりと崩してしまって、ただただ絶望のどん底に叩き落された気がしました。李斎たちも、泰麒たちも、時間をかけてやっと手に入れた希望だったのに、それがいとも簡単に覆されてしまったのです。今までの苦労は何だったんだ…と思いました。あと、驍宗が自力で脱出したのには拍子抜けしました。
で、2回目です。前に読んだ時は第三巻が一番面白かったと感じましたが、ちゃんと第四巻がクライマックスでした。積み重ねて来たことに無駄なことはなかった、と素直に思えました。かつての仲間が集結していく様は読んでいて胸が熱くなりました。気になっていた花影が生きていたことに安堵。
ものすごく犠牲者が多かったように感じましたが、これだけ大きな戦いだったのだから、まあ、当たり前といえば当たり前なのかもしれません。比較するのもあれですが、某監督のロボットアニメなんか、主要人物(どころか主人公までも)が片っ端から死んでいきますし、それに比べたら随分優しい展開だったのではないでしょうか…(そういう問題じゃない)。驍宗麾下の主要人物は大体生き残りましたし。とはいえ、酆都の死はやっぱり悲しいし、飛燕を失った李斎が可哀そうでなりませんでした。巌趙も驍宗との関係を考えると、切ないです(生きていてほしかった)。
全体的な展開としては、四巻(特にラスト)がかなり駆け足だった気がしました。序盤がかなり丁寧に描かれていただけに、余計にあっさりした印象を受けました。項梁が英章を捜しに行く過程が省略されていたのも残念でした。驍宗が自力で脱出したことや絶望的な展開については、ストーリー上必要なことだったと理解していて、今回はそこまで気になりませんでした。今回色々な人の視点で物語が進行していて、そこには主要人物ではない「普通の人」たちも含まれています。この辺りは「丕緒の鳥」に近い感じがしました。ただ、彼らのその後についてはまったく描かれていないので(園糸は除く)、どうなったのかは気になるところです。
何はともあれ、シリーズ開始時から続いていた戴の問題がやっと解決して本当によかったです。これが映像化されたら絶対泣くと思います。
そういえば今作では他国について殆ど触れられておらず、他国の新情報は一切ありませんでしたね。気になる謎も残っているので、完結するまでには判明してほしいです。そして、短編集は年内に発売されるのでしょうか。気長に待ちます。
ここまで読んでくださった方、お疲れさまでした。纏まりのない文章で、読みづらいことこの上なかったと思います。本当にありがとうございました。