びんのなか

想い出話や感想文など。読書メモが多め。ネタバレだらけです。

十二国記(11)黄昏の岸 暁の天 つづき

 続きです。本当に情報量が多いので、うっかりすると読み過ごしてしまいそう。続編への伏線があちこちに張ってあるので、私が読んで困らないように、できるだけ整理してみました(整理されているのか?)。

■□メモ2■□

■■ 戴で起きたこと

▪ 驍宗が登極

▪ 悪辣な官吏を粛清(泰麒には知られないように漣へ使節として派遣)

▪ 文州で大規模な暴動が勃発

 → 英章が派遣され、とりあえず落ち着く

▪ 文州の別の場所で暴動が起こる。各地で散発していた暴動が連携して動き、その中心が轍囲へと移動

 → 霜元(瑞州師左軍)が派遣され、驍宗(と禁軍右軍の半分)が向かう

▪ 轍囲へ向かう途中の琳宇で驍宗が消息を絶つ

 → 函養山という鉱山(玉泉)で敵の手に掛かったと思われる

▪ 泰麒が襲撃され鳴蝕により消息を絶つ

▪ 阿選が白雉の足(王崩御の証拠)を見せ、驍宗の死亡を伝える

▪ 阿選が朝廷を牛耳る

▪ 李斎が阿選の偽りを知り、阿選の謀反を芭墨と霜元に伝える

▪ 李斎が反逆者として追われる身となる

 → この頃には既に阿選こそが逆賊であることが明らかであったが、既に阿選を引き摺り下ろすことは不可能となっていた

■■ 阿選について

▪ 驍宗に匹敵する非常に優秀な人物で、驍宗も敬意をもって接していた

▪ 驍宗と阿選は用兵家としても似ていた

▪ 自身を責める者、驍宗を褒める者を一切許さない

▪ 轍囲をはじめ、阿選に反逆する土地はすべて焼き払われた

▪ 阿選は国を治めることには興味がなさそう

▪ 阿選への反逆は必ず失敗する(何故かる必ず内部から転向者が出る。阿選に対して反逆の意を表していた者が唐突に支持者へと変わる(地位の高い者ほどその傾向が強い))

 → 疫病に似ていて「病む」といった感じらしい

罹った者は阿選に対する反意を失い、非道を意に介すことなく何が起こっても心を動かされない状態。

 → 反勢力の者たちが連絡を取り合い協力するのは不可能

■■ 驍宗について

▪ 先王(驕王)の信任篤い寵臣の1人であった

▪ 驕王の頃、3年ほど仙籍を返上して禁軍を退いていた

 → 黄海に入り騎獣を捕まえることを生業にしている者たち(猟尸師?)に徒弟入りしていた(計都(驍宗の騶虞)はこの時に捕まえたのか)

 → 黄朱とこの時点でつながりがあった(あの人とはその時知り合ったのだろうか)

■■ 驕王について

▪ 治世124年

▪ 華美を好み奢侈に耽溺した人物で、国庫を湯水のように使っていた

▪ 政治に対しては一線を引いており、王の遊興の相手を官吏に召し上げ政に関わらせることは絶対にしなかった

▪ 政自体は穏やかで堅実であった

■■ 戴の主要メンバーの動向

太字は元々の驍宗の部下。

▪ 泰麒

 鳴蝕を起こして蓬莱へ。7年後陽子たちの協力で帰還。角を失い、麒麟としての能力も使えない。蓬莱で酷く病んでしまうが、いちおう西王母により祓われる。

▪ 驍宗(泰王)

 委州呀嶺出身。

 函養山で襲撃され行方不明に(死亡していないことは確実)。

▪ 巌趙(禁軍左軍将軍)

 不明。

▪ 英章(禁軍中軍将軍)

 文州で消息不明に。

▪ 阿選(禁軍右軍将軍)

 玉座に就いて、逆らう者すべてを消し去ろうとしている。

▪ 霜元(瑞州師左軍将軍)

 文州(?)一旦戻るよう指示は出されたらしいが…。

▪ 李斎(瑞州師中軍将軍)

 承州出身。

 追われる身となり、慶へ救いを求める。病み上がり。利き腕である右腕を失っている。

▪ 臥信(瑞州師右軍将軍)

 驍宗の捜索と文州を治めるため文州へ。その後消息不明に。

▪ 詠仲(冢宰)

 鳴蝕により重傷、その後傷がもとで死亡。

▪ 皆白(天官長)

 鳴蝕により行方不明。

▪ 宣角(地官長)

 処刑される。

▪ 張運(春官長)

 不明。

▪ 芭墨(夏官長)

 処刑される。

▪ 花影(秋官長)

 李斎と藍州で再会、垂州で別れる。生死不明。

▪ 琅燦(冬官長)

 不明。

▪ 正頼(瑞州令尹)

 不明。鳴蝕の際軽傷を負う。

▪ 潭翠(大僕)

 不明。

■■ 現時点での謎(戴関連)

▪ 驍宗はどこへ行ったのか

 → 生きていることは確実だが、何故行方不明のままなのか

▪ 何故阿選への反逆は失敗に終わるのか

 → 「病む」とは?最後の漢詩みたいなのに阿選は「幻術に通ず」とあったので、幻術を用いて操っていたと思われる(何故阿選が幻術を使えたのかは謎。優秀とはいえふつうの武人のはず)

▪ 李斎が芭墨と霜元だけに宛てた密書が何故阿選に筒抜けになっていたのか

 → 驍宗の麾下に裏切り者がいたのでは?

▪ そもそも何故阿選は驍宗を陥れたのか

 → 驍宗に対する妬みや怨みではないのでは?

▪ 今現在阿選が何を考えて玉座に座っているのか

 → 戴を治めることに興味がなさそう、戴への憎しみ?

■■  気になること

▪ 麒麟が王を選ぶこと

 予め天が決めた王を探すのか、自ら王と思う者に対して天意を諮るのか

▪ 琅燦の泰麒に対する評価

 麒麟の中でもかなり能力が高いことを認めている

 「饕餮以上の化け物」という表現からも、李斎たちとは全く別の感情を抱いているのではないだろうか

▪ 冢宰の詠仲が鳴蝕の際に負った傷がもとで死亡、となっているが、仙である彼でも治らないような重傷ということ?

▪ 玉京にいる天帝とは

 西王母が登場した以上確実に存在するはず。犬狼真君(更夜)はどういう経緯で天帝と接触したのか。年数から考えて、黄海へ入ってわりとすぐに犬狼真君となったと思われるが。

▪ 十二国について

 今まで複数の国同士が協力する、ということはなかった。お互いが遠すぎるから(「冬栄」)というより、そもそもその発想がなかったようだ。

 

■□感想■□

 とにかく内容が盛りだくさん。やっと泰麒が帰還しました。今までの伏線がかなり回収されています。そして新たな謎が出てきました。

 ポイントとしては、<戴で何が起こったか><色々な国が泰麒捜索に協力><西王母登場><「魔性の子」が十二国視点で描かれている><陽子の活躍><陽子と泰麒が出会う>などがあると思います。あと、「風の万里 黎明の空」の続編にあたるので、登場人物たちのその後がわかるのも嬉しいです。初めて読んだ時は「魔性の子」とつながり、陽子と出会ったことにかなり感動しました。

 この作品からホワイトハートではなく一般の方から発売されたこともあり、少し雰囲気が変わったような気がします(「丕緒の鳥」ほどではないですが)。「図南の翼」まではどちらかというと人の心の成長が描かれていたように思えましたが、今作では人々の心の機微に重点が置かれていたような気がします。

 李斎は良くも悪くも「人間」だと思いました。彼女は驍宗はもちろんですが、泰麒をとても大切に思っています。泰麒を救うためなら、たとえ慶を滅ぼすことになってもやむを得ないと考えてしまうほどに。本来なら多少でも縁のあった雁に救いを求めるべきではないでしょうか。雁の方がどう考えても国力もありますし、王・麒麟ともに胎果です。雁であれば地理的にも慶より近いはずです(場所によるかも知れないけれど)。それでも慶を選んだのは、陽子がまだこの世界のことをよく知らないと考えたから。泰麒の印象から同じ胎果ならふんわりとした少女だと勝手に思って、頼みやすいと考えたから。切羽詰まっていたとはいえ、かなり酷いです。結果的には慶を選んで正解だったわけですが。天の理不尽さに絶望し、怒り、必死に足掻く彼女は、「民」そのものでした。玉葉西王母に強い口調で懇願する彼女は、天へ依存しているのだと思います。

 陽子は文句なしにかっこよかった。情があり、だからといってそれに流されて短慮を起こすほど愚かではなく。尚隆相手に一歩も引かずに道理を通すところが圧巻でした。側近たちとの信頼関係がすごくいいです。浩瀚が結構面白い。

 尚隆はさすがに長い治世を誇る王だけあるなと。情に厚そうでいてあっさり冷酷な判断ができる人です。六太とは絶妙なバランスだと思います。わりと大雑把な雁の2人組に対して、範の2人は繊細で優美。氾王は冷静で頭の良い人のイメージでした。強烈な個性の氾王ですが、人としての優しさはきちんと持っているあたりが300年も治世が続いている理由なのでしょう。今回協力してくれた国は慶を除いて安定した国ばかりで、それぞれの王も話が分かる人たちです。才はともかく、恭はどんな反応したんだろう。

 陽子も泰麒も天に縋るのではなく、自分の手で切り拓くことを考えていて、この辺りは李斎との決定的な違いだと思いました。李斎の場合、結局救いたかったのは「国」ではなく「人」でした。でも、陽子や泰麒(に限らず王や麒麟)が救いたいのはあくまでも「国=民」じゃないかと思います。尚隆は天の存在を当たり前のように受け容れていて、その秩序の中で上手くやる術を知っている。それはきっと奏や他の国も同じかも知れません。陽子や泰麒が、この世界に新しい何かをもたらしていったら面白いなと思います。

 戴の得体の知れなさは、驍宗自身にもあるような気がしました。部下が不安を覚えるくらいに完璧すぎるのです。驍宗について数々のエピソードが出てきますが、どれも驍宗が凡人とは違うところが悉く強調されています。驍宗は完璧すぎて、人間味がないというか、つかみどころがない感じがするのです。他の(安定した国の)王たちはゆとりがあるように思えました。驍宗にはそれがない感じ。彼の得体の知れなさは何を思っているのかわからない阿選に通じるものがあります。ちなみに私は花影を秋官長に抜擢した理由が好きです。花影のような人をちゃんと見ている驍宗は、やはりその他とは全然違うと思いました。花影は臆病なところがありますが、とても聡明で情の深い女性。李斎よりずっと理性的です。おそらく死亡したのではないかと思われますが、この人の死はつらいです。こんなことばかり書いていますが、李斎のことが嫌いというわけではありません。ものすごく人間味があって、感情移入しやすいよくできたキャラクターだと思っています。

 この続きが出るまでに、まさかあんなに時間が空くとは思っていませんでした。おかげでほとんど忘れた状態で新作を読んでしまったために、誰が誰やらわかりませんでした。阿選すら忘れていたので相当ヒドイです。本当にちゃんと読んだのか私。あらためて読み直すと、結構死亡者がいました。しかも一言で。なまじセリフがあってその為人が描写されていた分、芭墨や宣角の死は残酷でした。続編ではこんなものじゃないくらいつらい展開が待っているので、心の準備をしておかなければ。

 ホワイトハート版の方もあとがきがなくなり、違いといえばホワイトハート版では上下巻に分かれていたことくらいです。イラストはホワイトハート版の方が好きです。陽子と泰麒の出会いのシーンが描かれていたから。