びんのなか

想い出話や感想文など。ネタバレだらけです。

十二国記(3)風の海 迷宮の岸

 シリーズ2作目。エピソード2です。ホワイトハート版では上下巻でしたが、完全版は1冊でした。泰麒が麒麟として王を選ぶお話。

 

 

■□あらすじ■□

 蓬山の捨身木に泰果(泰麒の卵果)が生ったが、突如発生した蝕でいずこかへ流されてしまう。十年後、延麒が泰麒を見つける。廉麟の協力によって泰麒は蓬山にある蓬盧宮に戻る。

 何も分からない泰麒は、自分が戴の麒麟であることを知る。ただ、10年間人の子として異世界で生きてきた泰麒には、転変(人型から獣型に変わること)が出来ないでいた。案じた玉葉は泰麒の前に蓬盧宮にいた景麒を呼ぶ。景麒によって麒麟というものについて知った泰麒だったが、やはり転変することも使令を持つこともやはり出来なかった。

 夏至を過ぎ、昇山者が甫渡宮に集まり出す。泰麒はそこで女将軍李斎と王師(王直属となる禁軍)の将軍驍宗と出会い、親しくなる。2人に対して王ではないことを告げていた。ある日泰麒は、騶虞を捕えるために黄海へ行く驍宗と李斎に付いて行く。そこで遭遇したのは非常に危険な妖魔「饕餮」であった。饕餮折伏することに成功した泰麒はここでようやく使令を手に入れる。

 王に選ばれなかった驍宗は下山する。驍宗との別れがつらくて仕方のない泰麒は転変して驍宗を追う。そして王気を感じなかったにもかかわらず驍宗を王として選び誓約を交わす。

 偽りの王を選んだ罪悪感から泰麒は気が沈んでいた。泰麒の様子を心配した驍宗の願いで会いに来た景麒に、泰麒は驍宗には天啓がなかったと告白する。告白を聞いた景麒は何も言わずに帰る。再び訪ねてきた景麒は、延王と延麒の協力で小芝居をして驍宗が王であることに間違いがないことを伝える。驍宗は泰王として即位した。

 

■□登場人物■□

青文字は既出のもの

泰麒

 主人公。本名は高里要。10歳。非常に珍しい黒麒。蝕によって蓬莱(日本)に流された胎果。使令は白汕子傲濫。おっとりとした心優しい少年で女仙たちに可愛がられている。異世界での時間が長すぎたこともあり、麒麟として何もできない自分に悩む。饕餮を使令に下すなど非常に高い能力を秘めている。

■驍宗

 泰王。元は戴の禁軍の将軍。褐色の肌、深紅の瞳、青みがかった白銀の髪を持つ。軍才、人望を兼ね備えており、剣の腕は延王に次ぐといわれている。延王との手合わせで一本取ったことがある。普段は礼節を弁え、李斎や泰麒にもわりと気易く接しているが、恐ろしいくらいの覇気を持つ人物で、時折見せる苛烈さが泰麒に怖れを抱かせている。計都という騶虞を騎獣としている。

■李斎

 州候軍の将軍。気さくで物腰の柔らかい女性。泰麒が懐いている。飛燕という天馬(空飛ぶ巨大な犬?)を騎獣としている。

景麒

 慶国の麒麟。泰麒に麒麟のことを教えるよう玉葉に呼ばれた。無愛想で冷たい物言いのため、初めは泰麒を泣かせてしまうが、次第に打ち解けていく。景麒が呼ばれたのは、玉葉が景王とうまくいっていない景麒を案じたため。彼の不器用な優しさが景王の道を踏み外させたらしい。今回も彼の説明不足が大きな混乱をもたらした。

延王

 雁国の王。器が大きな人物で、他国に対しても協力的。

延麒

 雁国の麒麟。延王と息の合った会話を繰り広げる。言葉が悪い。

白汕子

 泰麒の女怪。麒麟にとっては母親のような存在。首が魚、上体が人、下が豹で尾が蜥蜴。

傲濫

 泰麒が初めて折伏に成功した使令で饕餮という妖。伝説とまでいわれる存在。非常に強い力を持っており、麒麟折伏できるような相手ではないらしい。泰麒の希望で柴犬の姿をとるが、普段は大きな赤い犬の姿でいる。

■禎衛

 蓬山に住む最古参の女仙。18~19歳頃の外見。

■蓉可

 蓬山では最も新参者の女仙。16歳。 

玉葉

 蓬盧宮の女仙の長。天仙玉女碧霞玄君。神出鬼没で、常に蓬盧宮にいるわけではない。存在が伝説のような女神。

廉麟

 漣の麒麟。彼女の協力で泰麒を帰還させることが出来た。十二国とこちらの世界をつなぐことが出来る(と思われる)腕輪を持っている。

 ■醐孫

 戴国馬州の司寇大夫。泰麒を捕まえて王になろうとした馬鹿者。

景王(舒覚)

 商家の娘。繊細で気弱な女性。玉座に対して委縮している。王に選んだ張本人である景麒自身も彼女が王に向いていないと思っている。 

 

■□メモ■□

蓬山

 五山の一つ。麒麟の生まれる聖地。蓬盧宮があり、その最奥に捨身木(麒麟の生る木)がある。

 ■女怪

 捨身木の枝に麒麟の実がつくと、根に実って1日で孵り10か月間麒麟が孵るまで見守る。

麒麟

▪ 髪ではなく鬣。ある程度伸ばしておかないと獣型になった時みっともないらしい。

▪ 角が伸び切ると成獣となる。

▪ 成獣になると成長が止まる。成獣になる年齢には個人差がある。

▪ 王以外には絶対に平伏しない。

■景麒の使令

 今回登場したのは班渠(はんきょ)、雀胡(じゃっこ)←使令というよりペット?

安闔日

 黄海に出入りすることのできる日。4か所ある門がそれぞれ年に4回春分秋分夏至冬至に1日だけ開く。昇山者はこの日に黄海に入り、次の安闔日に帰る。

■漣

 この当時は騒乱のさなかだったらしい。

 

 

■□感想■□

 全体的に優しい物語。おそらくシリーズで一番穏やかな内容ではないでしょうか。主人公が麒麟で、しかも子どもであるためか、微笑ましい場面が多く、前作とは随分雰囲気が違います。

 主人公の泰麒が本当にかわいい子で、蓉可たち女仙たちに可愛がられているのも納得できます。とっつきにくい性格の景麒ですら、泰麒にはものすごく優しいのです。前作では残念ながら彼の優しさはわかりませんでしたが、必要なことを言わないということだけはわかりました。

 王に選ばれた驍宗は、延王と違って非の打ちどころのない人です。武芸に秀で、軍才もあり、礼儀も知っていて人徳がある。誇り高く恐ろしいくらいの覇気を持つ彼は、ある意味完璧だと思いました。でも私がシリーズの中で最も「王」だと思うのは延王です。

 この作品での見どころは、「泰麒と景麒のふれあい」「泰麒が最難関ともいえる饕餮を使令に下す」「泰麒が驍宗に対して抱く想い」「延麒たちの小芝居」だと思います。

 泰麒が驍宗に強く惹かれる様は明らかに他の者に対するものとは違います。李斎や蓉可との別れはもちろん寂しいでしょうが、驍宗との別れは身を切られるくらいつらくてどうしようもない、そんな感じです。そして、驍宗が絡むと普段覇気がないと言われる、おとなしい性格からは考えられないような激しい感情に突き動かされます。そんな泰麒がとにかくかわいくて見守りたくなります。驍宗も本当に泰麒を大切にしていて、彼の態度には何となく色気(?)のようなものを感じました。

 あと、終盤の小芝居は本当に面白かった!!悪役に浸りまくっている延王もそうですが、彼に怒鳴りつける麒麟2人が可笑しくて。それに乗っかる驍宗もなかなかですが。こういう泰麒のために平然と嘘をつくところが、この人の懐の深さだと思います。

 それと、この作品は「魔性の子」と冒頭部分がまったく同じとなっています。そして、「魔性の子」で高里が必死に思い出そうとしていた記憶がこの作品です。「魔性の子」では、白汕子と傲濫は高里を守護していました。2者とも泰麒に害を与えると判断した相手を見境なく徹底的に排除していきます。それはもう恐ろしく不気味な存在として。白汕子は母性の象徴のように描かれていましたが、その理由が今回よくわかります。

 既にこの後の出来事を知っているため、今回の優しい時間が余計に切ないです。単体で読むと、希望のある終わり方でとても楽しいお話なんですが。このシリーズは最初に「魔性の子」を読んでおくべきだと強く思います。感動が全然違う。

 そういえば久し振りにホワイトハート版の方にも目を通しましたが、あとがきで「シリーズのオチも用意している」といったことが書いてありました。当時考えておられたオチと、現在の流れは同じなのでしょうか…。