びんのなか

想い出話や感想文など。ネタバレだらけです。

十二国記(2)月の影 影の海

 シリーズ第1作目。完全版ではエピソード1。陽子が異世界へ行って王になるまでの話で、上下巻。

 あらすじが長くなりすぎましたが、書き直すのが面倒だったのでそのままにしました。あらすじ以外も長くなりました。

 

 

■□あらすじ■□

<上巻> 

 普通の女子高生<中嶋陽子>は1か月くらい前から異形の獣たちが殺気を持って徐々に近づいて来る悪夢を毎日見ていた。ある日担任に呼び出されていた陽子の前に<ケイキ>と名乗る金髪の青年が現れ、妖魔の襲撃を受ける。ケイキから剣を渡された陽子はそれで戦えと言われ拒否するが、ジョウユウという妖魔が憑依し無理矢理戦わされる。そして詳しい説明もなくケイキの「主」となった陽子は、彼に付いて行くことになる。しかし海を渡る際、再び妖魔の襲撃を受けた陽子はケイキと離れ離れになり、一人見知らぬ世界に辿り着く(ジョウユウは憑依したまま)。

 彷徨う陽子は捕まえられ、そこで自分が異世界の「巧」という国へ来たことを知る。また、鏡に映る自分の姿がまったくの別人になっていることに気付く。この世界では海(虚海)からやって来た異世界の人間は「海客」と呼ばれ、海客である陽子は県庁へ連れて行かれることになる。県庁への道中、妖魔の襲撃に遭った陽子は鞘を失う。

 ケイキを捜す陽子は、ひたすら妖魔と戦う日々が続く。その間、助けてくれたと思っていた女に騙されて女郎宿に売られそうになったり、同胞で親しみを覚えた老人に金を盗られたりしたことで、人間不信に陥る。また、度々陽子の前に現れる蒼い猿は不安や絶望を煽る言葉を吐き続け、刀身は元の世界での哀しい現実を映す。

 飢餓と戦いによる疲労が限界に達した陽子の前に、肩にオウムを乗せた金髪の女が現れる。オウムに陽子を殺すよう命令された女は、刀を陽子の手の甲に突き刺し去って行ったのだった。満身創痍となった陽子だったが、救いの手を差し伸べる母娘を信じることが出来ず拒絶する。そして、刀身に映る幻影に陽子は絶望する。

 

<下巻>

 ボロボロの陽子を救ってくれたのは、<楽俊>という子どもの背丈くらいのネズミだった。楽俊からこの世界のさまざまな情報を得た陽子は、彼の勧めもあり<雁>へ行くことになる。妖魔の襲撃で同行の楽俊と離れた陽子は一人で雁へ向かう。

 雁で楽俊と再会した陽子は、同じく海客の<壁落人>へ会いに行く。そこで陽子は胎果で、しかも普通の胎果ではないから、延王に会うように言われる。楽俊は延王に会うためにはまず<タイホ>に会った方がよいと助言する。陽子はケイキがタイホと呼ばれていたことを思い出す。楽俊はそれを聞いて驚く。タイホは<台輔>といって<宰輔>の敬称みたいなものらしく、ケイキが台輔であるなら彼は<慶>の麒麟で<景麒>、陽子はその主つまり景王であるというのだ。しかし、自分の弱く汚い部分を見てきた陽子は王であることを受け入れることができなかった。

 陽子と楽俊は、街中での妖魔の戦いで延王に出会う。延王の話から慶が王を失い傾いていて今は偽の王が玉座に座っていること、景麒が囚われていることを知る。延王とともに王宮<玄英宮>へ行った陽子たちは、戻ってきた延麒を交え状況を整理する。慶の偽王に力を貸し、陽子の命を狙っていたのは<塙王>であった。巧もまた国が傾き、麒麟は病んでしまっていたのだ。

 慶を救うには陽子が王として国を治める他なく、延王たちは陽子に決断するよう促す。そして王として起つ決心をした陽子は延王の協力のもと、囚われた景麒と再会を果たしあらためて王として誓約を交わしたのだった。

 

■□登場人物■□

 麒麟の年齢はあくまでも外見の年齢です。

■中嶋陽子

 主人公。16歳の女子高生。典型的な昭和思考(?)の両親に育てられたため、自分の意見を主張することができず、常に人の顔色を窺って生きてきた。一人異世界に投げ出され、景麒を探し続ける羽目になる。その中で何度も生命の危機にさらされ、人に騙されて人間不信に陥るなど、極限まで追いつめられる。自分の内面と向き合うことで大きな成長を遂げ、最終的には「景王」であることを受け入れる。非常に真面目な性格。

 元々の容姿は髪色が赤みを帯びていたとはいえ、ごく普通の日本人だったと思われるが、異世界を渡り激変(というか元の姿に戻った)。深紅の髪、日焼けしたような肌、深い緑色の瞳で、整った顔立ちをしている(美醜について特に言及はないが、達姐が“器量よし”と言っている)。性格や口調、容姿が大きく変化したため、物語の最初と最後ではほぼ別人となっている。女性らしさは皆無。

■景麒

 慶の麒麟。20代後半くらいで、膝裏くらいまでの長さの薄い金髪。陽子の災難の元凶。一切説明もなく行方不明となったため、終盤まで謎の人物扱いだった。

 拒絶する陽子に対して、冷たく厳しい態度で強要する。クールで無愛想、マイペース。

■楽俊

 普段はネズミの姿をしている20歳過ぎくらいの半獣。明るく楽天的な性格で、彼の優しさが陽子の荒んだ心を癒していく。頭の回転がよく博識だが、半獣ということで差別的な扱いを受けている。王になることを迷う陽子の背中を押す。

■延王

 雁の王。本名小松尚隆。胎果。豪快で行動力があり、頭も切れる。堅苦しいことは苦手。治世が500年続く名君。剣の腕も一流。

■延麒

 雁の麒麟。延王には六太と呼ばれる。胎果。12~13歳くらいのやんちゃな少年だが、頭は良い。延王と同様堅苦しいのは苦手。迷う陽子に対して無理強いはしない。延王とはお互い好き放題言い合っている。

■塙王

 巧の王。元衛士の老人。卑屈でコンプレックスの塊のような人物。胎果である陽子(慶)を巻き添えにして滅びようとしている。在位50年くらい。

■塙麟

 巧の麒麟。20代半ばくらい。塙王に命じられて幾度となく陽子の命を狙う。王が道を踏み外したため失道。

■達姐(たっき) 

 陽子が服を盗みに入った家の主。陽子を咎めるどころか、逆に迎え入れてくれるようなおおらかで優しい女性(のように振る舞っていた)だったが、実は女郎宿に売り飛ばそうとしていた。

■松山誠三

 第二次世界大戦が終わる少し前に巧へ流されてきた海客の老人。言葉が通じず非常に苦労して生きてきた。言葉の壁がないなど、自分とは違う陽子に対して憎悪に近い感情を抱き、陽子の有り金全部奪い去る。

■壁落人

 東大出身の海客。雁で学校の先生をしている。元の世界に何の未練もない。

■陽子の両親

 父は女が男より優れていたりする必要はまったくなく、ただ男に素直に従っておけばよいという考え。ズボンを穿くことことすら許さない。母はそれにただ従うだけで、それが正しいと思っている。2人とも陽子にはただ家庭的であることだけを望んでいる。

 

■□メモ■□

備忘録。後の作品を読むときに覚えておきたいことなど。前作と関係のある言葉などには色を付けています。

■景麒の使令

ヒョウキ・・・赤い毛並みに覆われた豹

カイコ・・・女性型の鳥人

ハンキョ・・・赤銅色の大型犬

ジュウサク・・・狒狒

ジョウユウ(冗祐)・・・赤い目。首から下がゼリー状。賓満(ヒンマン)と呼ばれ る妖魔。

十二国の地理

中心から<五山ー黄海(海ではなく荒れ地)ー四金剛山ー内海ー十二国

*五山(崇山を中心としてその周りにある東西南北の山)

十二国の成り立ち

 天帝が十三州を滅ぼし、五人の神と十二人の人を残してすべてを卵に返す。中央に五山を作り、西王母を主に据え、五山を取り巻く一州を黄海へ変じ、五人の神を龍王として五海へ封じる

 十二人の人が渡された枝には、三つの実が生り一匹の蛇が巻き付いていた。蛇が解けて空を持ち上げ、それぞれの実が落ちて土地と国と玉座となり、残った枝は筆になった。

土地→地籍と戸籍 国→律と法 玉座→仁道=麒麟 筆→歴史

十二国について

▪ 海客:虚海に流れ着く日本人。山客:金剛山に迷い込む中国人。

▪ 胎果:卵果がこちらの世界に流されて母親の胎内に着いて子として生まれた者。この場合、本来の姿ではなく両親に似た姿となる(いわば殻のようなもので、姿が歪むと表現されている)。

▪ 蝕:気の乱れによって生じる嵐のようなもの。これによって、十二国とこちらの世界が交わる。海客・山客や胎果はこの時に巻き込まれた者たち。

▪ 領主など役人は皆仙人(不老長寿)で天上にいる。

▪ 王宮も天上にある。

▪ 仙人は王が任命。

▪ 王は麒麟が選ぶ。それまではただの人だが、選ばれると神になる。

▪ 麒麟の卵果は蓬山に生る。

▪ 生命は木(里木)に実(卵果)として生る。

▪ 石油や石炭は存在しない。(文明があまり発達していない)

▪ 虚海を渡れるのは妖族か神仙。ただし身一つ。

▪ 宰輔→王の補佐をする相談役。台輔とも呼ばれる。

▪ 王の役割→妖魔を治めて怪異を鎮め、災厄から国を守る。

▪ 王の犯してはならない罪

 「天命に逆らって仁道に悖ること」「天命を容れずに自ら死を選ぶこと」「内乱を治めるためであろうと他国に侵入すること(王の請願によっての助力は可)」

▪ 麒麟の死=王の死だが、王の死≠麒麟の死

十二国の情報

▪ 有名な胎果

 延王、延麒、泰麒

▪ 泰麒は行方不明。一般には死亡したと思われている。名前は高里なんとかで、陽子と同じくらいの年齢。

▪ 十二国・範・柳・・恭・才・・舜・芳・漣

 青文字=登場した国。薄青緑=名前だけ出た国。

▪ 雁→500年、活気のある国 奏→600年、安穏とした国

麒麟

 孤高不恭の慈愛深い霊獣。王以外には膝を折らない。争いを厭い、血を恐れ、血の穢れによって病むことすらある。戦うことが出来ないため、身を守る使令(麒麟と契約して僕となった妖魔)を遣う。

 王には絶対服従。王の命令であれば麒麟の本性に背くことも行う。

麒麟と使令の契約=麒麟の死後、使令は麒麟の死体を食べることができる。

■慶について

 前王は女王。予王と呼ばれ、本名は舒覚。在位6年。景麒に恋したことで、国中の女が殺されたり追われたりしたため景麒が病んだ。大切な景麒を救うため、舒覚は退位した。が、舒覚の妹の舒栄が勝手に王を名乗り、それに塙王が手を貸している。

■水禺刀 

 慶の宝剣。剣は刃に幻を映す。過去や未来、千里の彼方まで映すことが出来るが、気を抜けばのべつまくなし幻を見せる。鞘は人の心の裏を読むが、こちらも気を抜けば主の心を読んで惑わす。剣と鞘はお互いを封じ合っているため、絶対に剣と鞘を離してはならない。景王しか扱えない。現在鞘が死んでいる(陽子が切ったから?)ため延王にも剣を鞘から抜くことができたが、いずれにせよ景王以外がこの剣で何かを切ることはできない。鞘についている珠は、握ると怪我、病、疲労の回復に役立つ。

 陽子が鞘を失くしてからは、剣の刃に元の世界の出来事が幻となって映し出されていた。その殆どは陽子にとってつらいものであったが、それは陽子が自分が怠惰であったことを自覚する切欠ともなった。また、鞘の方は蒼猿となって度々陽子の前に現れ、不安を言い暴く。これで自分の本心を確認することで、気持ちや思考の整理をしていった。

■陽子の特殊性(普通の海客や胎果と違うところ)

▪ 自動通訳

 本来はまったく別の言語(中国語に近い?)が使われているが、陽子には日本語に聞こえていた(松山に会うまでは言語が違うことに気付かなかった)。ただし通訳なので、聞こえる言葉と実際の言葉と異なることがある。陽子に聞こえる言葉は「日本」だが実際は「倭」と言っているなど(漢字を見た後は本来の「倭」と聞こえるようになる)。

▪ やたらと怪我の回復が早い。

 

■□感想■□

 シリーズ1作目、ということで何もわからない陽子と一緒に十二国の世界を知ることができます。世界観がかなり細かく設定されていて、そういった意味でもとても興味深いです。特に地理や行政単位、政治システムなどは、きっちり理解しなくてもある程度は覚えておいた方が良いと思います(最新刊読んだとき??となった)。おかげで、色々な十二国世界固有の言葉を違和感なく覚えられるようになっていて、あらためてこの作品のありがたさを感じました(新刊読んだ際、色々忘れすぎていて「?」となったことが度々あった)。そんなわけでメモの項目が多くなりました。登場人物がそんなに多くなくてよかった。

 感想はきっと前読んだときとは違うだろう、とか思っていましたが、あまり変わらなかった気がします。家族や教師たちの描写が当時以上に酷く感じたのは、時代のせいか私が年を取ったせいか、どちらだろう…。あと、景麒が理不尽すぎ(^-^;

 すごくメッセージ性の強い作品です。陽子というキャラクターはわりと思春期の女の子にとって共感しやすいのではないかと思います。

 陽子はすべてに於いて自分の意見を持たない(持たせてもらえなかった)女の子でした。あんな環境で育ったら当たり前だと思います。母親も大概ですが、父親が最悪です。書かれた当時はともかく、今時でこんな価値観の人っているのかと思いましたが、最近でもニュースで「髪を無理矢理黒に染めさせる」ことが問題になっていたことを考えると、そうでもないのでしょうね。なんにせよ、未練が残らないような世界でよかったと思います。むしろ、理解のある両親や、かけがえのない親友のいるなど、失いたくないものがある世界だったらつらすぎる…。

 「自分の居場所を見つける」と言った意味では、「魔性の子」とテーマが近いのかもしれません。「魔性の子」の場合は、「本来の自分のあるべき場所へ戻る」ですが。自分の居場所がないことすらはっきりと自覚していなかった陽子は、彼女自身が言っていたように愚かだと思います。でも、それが高里のように胎果だから居場所がなかったからなのか、陽子自身の怠惰が招いたことなのかはわかりません。陽子がもっと違った生き方をしていれば本当の友だちは存在していたのかもしれませんが、親に関してはどうだったのでしょう。両親の描写を見る限り、あまり陽子のことを愛していたようには思えません。両親が陽子を愛せないのが、胎果で何か本能的に違和感があったからなのか、ただ単に酷い親だったのかはわかりませんが、たぶん後者だと思います。

 この作品の一番好きだったのは楽俊でした。本当にできた人(半獣ですが)で、優しいけど甘やかさない、陽子にとって初めての親友。楽俊は陽子が自分の力で手に入れたかけがえのないものだと思います。彼が傍にいてくれたおかげで、陽子が前に進む勇気を持つことができたのです。前半これでもかというくらいロクデナシだらけだったので、読んでいる方もほっとします。容姿もそんな感じだし。

 あと、延王は自由な感じの人ですが500年も国を治めているだけあって、言葉に重みがありました。やっぱりかっこいい。延麒とのやり取りは楽しいです。この2人は500年も一緒にやっているだけあって、仲の良さ(?)が伝わってきます。それにしても延麒、民主主義って。日本の歴史をずっと見てきたのでしょうか。

 前半の暗い内容に対して、後半はそれをすべて浄化するような内容でした。ケイキの正体もわかり、陽子自身も人として成長してきれいに纏まっていたと思いました。というのも、最近読んだ「白銀の墟 玄の月」をどうしても思い出してしまい、比べてしまうのです。そしてこの頃はわりとファンタジーらしかったんだな、とも思いました。

 ホワイトハート版に比べて漢字が多くなっていました;読めなくはないけど、偶に「これで読み方合ってたかな」と思うことがありました。あと、イラストは一新されてます。ちょっと雰囲気が変わりましたが、こちらもきれいで好きです。