びんのなか

想い出話や感想文など。読書メモが多め。ネタバレだらけです。

十二国記(6)風の万里 黎明の空 つづき

 「風の万里 黎明の空」の続きです。前回あらすじと登場人物までしか書けなかったので、備忘録的メモと感想です。無駄に長いです。

 いちおう注意してはいますが、漢字の間違いがあったらごめんなさい。

 

  

■□メモ■□

■■ 世界観に関すること

□ 婚姻

 必ず同じ国の男女であること(戸籍を移動させるのはOK)。また、婚姻すると同じ里にいなければならない(片方が違う里にいた場合はどちらか一方に移動する)。

 通常婚姻は子どもが欲しい時のみにするらしい。伴侶が必要なだけであれば野合でいいらしい。

 王は婚姻できない。

□ 子どもを授かること

 夫婦が子供を願って里木の枝に帯を結ぶ → 催生玄君が子どもを欲しがっている人の名簿を作る → 西王母が受け取る → 天帝に親に相応しい者を選んでもらう →西王母が女神に命じて卵果を作らせる(送生玄君が子供のもとを捏ねて卵果にする →送子玄君が里木に運ぶ)

□ 社会

 子どもは20歳になると家を出る。本人が60歳になると土地も家も国に返さなければならない(望めば終生持つこともできる)。←…?この世界の平均寿命っていくつくらいなんでしょう。

 財産は相続できない。夫婦の片方が死んだらもう片方の財産になるが、残った者が死ねば国に返さなければならない。

 どんなに貧しくても国が食べさせてくれるようになっている。

□ 王の姓

 天が天命を改めるにあたって、同姓の者が天命を受けることはない。同じ姓の王が2代続くことはない。

 

■■ 朝廷

□ 冢宰:六官を纏める

□ 六官・・・実権あり

 天官:宮中の諸事

 地官:土地戸籍

 春官:祭祀

 夏官:軍事

 秋官:法令

 冬官:造作

□ 三公・・・太師、太傅、太保のこと。太師がトップ。

 宰輔の臣下。王に助言・諫言を行うが、政治への参与はできない。

 

■■ 十二国の情報まとめ

今回情報量の差はあれど、いちおう十二国すべて出てました。

□  慶(景王:陽子 麒麟:景麒)

 在位:数か月

 首都:堯天 王宮:金波宮

 冢宰:浩瀚 禁軍左軍将軍:桓魋(青辛) 太師:遠甫(松伯)

 初勅:伏礼を廃す(必要とされる時以外)

 

▪ 陽子の前3代無能な王が続いており、それがすべて女王だったため慶での女王に対する期待値が著しく低い。

▪ 発展途上。ようやく朝廷の整理が始まったところ。

▪ 桓魋は半獣だが、半獣を隔てる法の撤廃を実行できたのだろうか。

 

□ 雁(延王:尚隆 麒麟:六太(延麒))

 在位:500年

 首都:関弓 王宮:玄英宮

 冢宰:院白沢(「東の海神 西の滄海」で登場。斡由の側近みたいな存在だった人) 

 初勅:四分一令(公地を四畝開墾した者にそのうち一畝を与える)

 

▪ 非常に安定しているが他国からの荒民(なんみん)に苦慮している。

▪ 国が豊かすぎるため、他国からの荒民との貧富の差が大きい。

▪ 特産品は特になし。

▪ 山客・海客の待遇◎

▪ 火葬

 

□ 戴(泰王:驍宗 麒麟:高里(泰麒))

 在位:半年くらい?

 首都:鴻基(こうき) 王宮:白圭宮

 

▪ 王、麒麟ともに行方不明

▪ 争乱の渦中

▪ 芳に政変が起こる2年前(=5年前?)に驍宗が登極。

▪ 登極から半年後、王の崩御が伝えられるが、おそらく偽王(楽俊も戴に偽王が起ったことを知っていた。…?)

▪ 驍宗は半獣に戸籍を与えた。

▪ 特産品:宝玉(玉泉、金泉、銀泉が多数ある)

 

□ 芳(王:不在、麒麟:不在)

 前王(仲韃)の在位:30年

 首都:蒲蘇 王宮:鷹隼宮

 

▪ いちおう王を倒した月渓が国をまとめている。

▪ 峯麒の卵果が実ったはずだが、蝕によって流された…?(3年前。詳細不明)

▪ 必王(12~13代前の王)の頃に山客が来て寺を建て仏教を広めた。このため芳では火葬となっている。

 

□ 才(采王:黄姑 采麟:揺籃)

 在位:12年に満たないくらい

 首都:揖寧(ゆうねい) 王宮:長閑宮

 

▪ 黄姑は采麟にとって二代目の王。

▪ 黄姑は善政を敷き民に慕われている。

▪ 采王には公主がいたが登極前に亡くなった。

 

□ 恭(供王:珠晶 供麒)

 在位:90年

 首都:連檣(れんしょう) 王宮:霜楓宮

 

▪ かなり豊かな国

 

□ 柳(劉王、麒麟:?)

 在位:120年

 首都:芝草(?)

 

▪ 法治国家。民を戒める法より官を戒める法が多い(=官吏の腐敗を防ぐ)

▪ 堂々と賄賂を要求するなど、官吏の腐敗が進んできている。

▪ 妖魔が出没するようになっている。

▪ 国官の太子がいる。

 

□ 奏(宗王、宗麟)

 在位:600年

 

▪ 今作では鈴と清秀が船で通過しただけ。

▪ 十二国で一番豊かな国。

▪ 太子、公主がいる。

▪ 公主は官立の医院の長で、医療システムを作った。

▪ 山客・海客の待遇◎

▪ 火葬

 

□ 巧(王:不在 麒麟:?)

 前王の在位:50年

 首都:傲霜 王宮:翠篁宮

 

▪ 王が斃れ、国が荒れている。

▪ 公主は太子とともに夫役に就いている。

 

□ 漣(廉王、廉麟)

▪ 5~6年前争乱の最中であった。

▪ 廉王の初勅は「万民は健康に暮らすこと」→おおらかな人柄?

▪ 山客・海客の待遇◎

▪ 火葬

 

□ 範

▪ 祥瓊が生まれた頃から安定した国…ということなので40~50年以上の在位?

 

□ 舜

▪ 鈴と清秀が慶へ向かう時に名前だけ出てきた。

▪ 慶は舜から薬泉の水が運ばれてくる

 

 

→ 今のところ安定した国は<奏、雁、恭、範、才、(漣)>。漣については何も記述がありませんでしたが、王のイメージからしてたぶん安定していそう。

 不安定な国が<柳、慶>。意味合いは真逆ですが。これから(おそらく)どんどん傾いていく柳と、これから発展していくであろう慶。

 荒れている国が<戴、巧、芳>。

 全然わからないのが<舜>。

 

■■ その他

▪ 山客・海客によって、紙・陶磁器・印刷技術・医術が伝えられた。

▪ 行政単位について

 前回の記事で州候=知事、郷長=市長?みたいなことを書きましたが、念のため読み直したら<里→族→党→県→郷→郡→州>の順で大きくなっていくみたいです。郷長はどちらかというと、町長みたいなものなのかもしれません。政治系の知識が乏しくてすみません。

▪ 朱旌

 芸をしながら諸国を遍歴する芸人。

 

■□感想■□

 陽子が信頼のおける官吏を見つけて朝廷を整えるまでを、少女たちの心の成長とともに描かれていました。

 物語の目的は、陽子が自身の作りたい国の姿を明確にすることです。序盤の延王の助言から最後に至るまで軸がぶれることなく物語が進んで行き、もやもやすることなく読後感も良かったです。初勅も陽子らしかったです。景麒に負けていない陽子が素敵でした。

 今回は陽子だけが主人公ではなく、祥瓊、鈴といったかなり極端な思考の少女たちも主人公として活躍しました。序盤では祥瓊は傲慢、鈴は卑屈の典型のように見えました。2人は見事なくらい思考が逆なのに同じような道を辿っているのが面白かったです。黄姑や珠晶との出会いで何も変わらなかったことが(それどころか逆恨みしている)、2人の抱えているものの大きさを物語っていました。

 対照的に描かれていた2人ですが、本質の部分は同じです。自分しか見ていない、他人を見ない、客観的な自分がわからないのです。視野がすごく狭い人間。自分にとって都合の悪い現実は見ないので、指摘されても受け入れることが出来ない。…嫌な人間です。祥瓊や鈴は嫌な人間としてはっきりわかるように描かれていました。読者が彼女たちの問題点がよくわかるように。そしてわかりやすい形できちんと自分を見つめ直し成長していきます。でも、誰にもこういった部分あると思います。自分を哀れむことや自分は悪くないと思うこと。自分が傷つかないための防衛本能みたいなものだと思います。でも、決してそれは良いことではなくて、時には自分にとって都合の悪いつらいことと向き合わなければならない。もともとホワイトハートという少女向け文庫から出版されていたこともあり、メッセージ性の強い作品だったと思います。現実で生きていると、偶には逃げることも必要だと身に沁みますが。

 黄姑や清秀が指摘しているように、とにかく鈴は精神的に幼いのです。100年生きて全然成長していない彼女はすごいと思います。清秀に出会って少し成長したものの、基本的に短絡的な思考の持ち主のため、憎しみを抱けばすぐに行動を起こします。また思い込みも激しいため、一方的に裏切られたような気持になった彼女は景王に殺意を抱きます。その後夕暉に諭されたり、祥瓊に慰められたりして、徐々に冷静になっていくわけですが、こうやって人の話をちゃんと聞けるようになったのは清秀のおかげなんだろうと思うと切なくなります。乱が終わった頃には黄姑に感謝できるくらいに成長したので、よかったです。感情の起伏の激しい子でした。

 一方の祥瓊ですが、彼女もまたかなりひどかったです。とにかくプライドが高くて自分の過ちを認めない。自分は悪くない。そして贅沢が当たり前。自分の持っていたすべてを奪った月渓に激しい憎悪の念を抱きますが、自分に抱かれている無数の憎悪と結びつけることが出来ません。己の痛みと他者の痛みをまったく別次元のものとして捉えているので、いつまでたってもなぜ自分が恨まれているのか想像できないのです。楽俊によって懇切丁寧に説明されようやく理解し、今までの自分を大いに反省することが出来ました。鈴に比べたら冷静で視野も広いと思います。

 陽子は3人の中ではもっとも若い(生きている年数が短い)わけですが、やはり王。自分で問題点を見つけて解決するために行動します。陽子と他2人との違いは、自分で答えを見つけることが出来るところだと思います。今回も躊躇うことなく敵を薙ぎ倒していく姿はかっこよかったです。尚隆や驍宗といった今までメインで登場した王が自ら戦う人たちだったため、陽子が戦うことに違和感なかったのですが、黄姑や珠晶が戦うとは到底思えないので、王自ら戦うことが当たり前というわけではないのでしょう。女将軍がいる以上、そういった女王もいるはずですが。

 尚隆はなんとなく危うい感じがします。退屈なことが大嫌いそう。どうか雁が滅びませんように。他の国が不安定であるうちはたぶん大丈夫でしょうが。他の国すべてが平和になったら…と考えるとちょっと怖いです。六太は優しいですね。楽俊に陽子のことを信じてやろうと言っているところが特に好きでした。雁の2人は500年の付き合いになるだけあって、お互いものすごく自立してると思います。

 あと、珠晶。とにかく気が強い女の子。すごく頭のよい子です。自分の背負っているものの重さを知った上での贅沢な生活。労働者を労うこともできる、こんな社長だったら会社が発展しそう。珠晶が供麒に言った「哀れむ相手を間違えるな」という言葉は、尚隆も六太に同じようなことを言っていて、麒麟という生き物の難しさを感じました。

 とてもバランスの良い作品で、構成的には一番好きでした。十二国すべての情報が何かしら出ていたのも良かったです。ジグソーパズルのピースのように断片的な情報が少しずつ出てくるところがこのシリーズの面白さだと思っていますが、あらためて読み直すとこの作品の情報量の多さに驚きました。あちこちに伏線らしきものが散りばめられているので油断できません。

 ホワイトハート版のあとがきを読むと、作中とくに明記されていない多くの犠牲者たちへの想いが書かれていました。確かに、メインキャラだと清秀と蘭玉が死亡しただけでしたが、作中ではかなりの人々が死んだはずです。こういった想いが「白銀の墟 玄の月」に繋がったのでしょうか。