びんのなか

想い出話や感想文など。読書メモが多め。ネタバレだらけです。

くさび(星新一)

 ふと思い出したので。

 学生時代に星新一の本をよく読んでいました。この人の名前を初めて認識したのは、「底なしの沼」という作品です。たまたま塾の国語の教材で出ていたのがきっかけでした。そこから星新一の本を長い間読み漁っていました。大抵の作品にはオチがあって楽しめるし印象深い作品も数多くあります。

 そんな中、ずっと心の中で引っ掛かっている作品があります。「くさび」。何度読み返してもすっきりしない、もやもやが続きます。中学生くらいの時自分の読解力が足りないのかと思って何度も読み返しました。大人になって読み返してもやっぱりわからん…と思ってネットで検索してみたら、本当に「難解」な作品として有名だったみたいですね、これ。やっぱり私だけじゃなかったんだ。今って検索したら大抵のことがわかるので、本当に便利な世の中になったもんです。

 「くさび」とは、とある夫婦の間にできた赤ちゃんによって夫婦が完全に崩壊する話です。妻にとっては存在する赤ちゃんが夫には一切見えないために徐々に夫婦の間に亀裂が入ってしまい、最後に夫は精神が病んで死んでしまいます(直接の原因は交通事故)。で、なんでこの話がもやもやするかというと、夫が最後に死んでしまったからではなく、最後まで赤ちゃんが本当に存在していたかどうかはっきりしないからです。二人の間だけの話ではなく、医者の見解まで男性医師と女性医師で正反対です。いちおう最後に夫は赤ちゃんの存在を感じるのですが、それすらも精神が病んだことによるものなのかどうか読み手によってどうとでも取れるのです。そして、一番最後の婦警の言葉もさらに意味不明。読み終わった後、結局何だったの?とオチすらよくわからず、迷宮入りします。

 感覚的に言うと、赤ちゃんは「神様」みたいな存在っぽいです。信じる人にはみえるけど、信じていない人にはまったく見えない。最後の婦警の言葉から、私はやっぱり赤ちゃんは現実には存在しなかったのではないかと思っています。ただ、食事(最初は母乳だからいいとして)や成長して幼稚園に通うようになったら、どうなるんでしょう。

 何度か読んで思ったのは、この作品に深い意味はないのではないだろうかということ。「かすがい」となって夫婦の絆を強めるはずの子どもが、この作品では夫婦の間に亀裂を入れる「くさび」となってしまった。たぶん、それだけ。…と自分を(無理矢理)納得させています。意味ありげな描写(ヒント)があっても正解には辿り着けない。

 そんなわけで、「くさび」は星新一の作品の中のどれよりも心に残るものとなりました。