びんのなか

想い出話や感想文など。読書メモが多め。ネタバレだらけです。

帰還(ゲド戦記4)

 やりたいことが進まないです。最近はキリンのペーパークラフトを作り続けています。いつ終わるんだろう。デュオリンゴは、ヒヤリングで音が出ない不具合が頻発しています。どうしろというんだと毎回思います。

 

 

 

■ あらすじ

 …テナーが主人公だと、長いわりには物語の起伏が少ないため、あらすじ書くのが難しいです。

 

 荒廃しゆく世界を救うためゲドとレバンネンが旅をしている頃―。

 ゴントの中谷にあるかしの木農園には、夫に先立たれた女ゴハが住んでいた。ゴハには結婚して家を出た娘リンゴと、船乗りになって消息不明となっている息子ヒバナがいる。今はゴハは一人で農園を切り盛りしていた。

 ゴハは友人のヒバリに頼まれて、大やけどを負った少女を助ける。ゴハは少女を引き取り、テルーと呼ぶことにする。

 オジオンに呼ばれたゴハはテルーを連れて、山道を通りながらル・アルビのオジオンの家へ向かう。途中、四人組の男に遭遇したゴハは、テルーを抱えて逃げる。ようやくオジオンの家に辿り着いたゴハに、オジオンは「テナー」と呼ぶ。

 死の淵にいたオジオンは、テナーとともに森へ行く。そこで彼は「終わった。何もかも変わった」と言い、自分の真の名をテナーに告げて息絶えた。

 オジオンの葬儀の後、テナーとテルーはオジオンの家で生活していた。そんな中、竜のカレシンがやって来て、瀕死のゲドを置いて行く。

 テナーはゲドを家まで運び、看病する。ゲドはテナーに世界で起きたこと、ハブナーに王がいることを伝える。そして、自分にはもう魔法を使う力はないと言う。

 ゲドを求めてハブナーからの使いがやって来るが、力を失ったゲドは会うことを拒絶する。このためテナーはゲドを自分が住んでいた農園へ行かせる。

 ゲドが発った後、テルーは自分を焼いた男ハンディを見かけて怯える。テナーはテルーに絶対に彼に触れさせないと約束する。その後、ル・アルビの領主に仕える魔法使いアスペンがテナーを訪れ、強い憎悪を露わにする。アスペンに呪いをかけられたテナーは、テルーを連れて自分の家に帰ることにする。

 港でハンディに見つかったテナーとテルーは、船に乗っていたレバンネンに助けられる。レバンネンはロークの大賢人を探しているところだった。新しい大賢人は「ゴントの女」という預言(?)のみで、具体的なことは何も分からないらしい。

 レバンネンに送られて二人は農園へと帰る。ゲドは山で羊飼いをしているとのことだった。ある夜、テルーを襲った男たちが家に侵入する。偶々男たちの会話を聞いて追って来たゲドが、男の一人に大怪我を負わせて難を逃れる。男たちの一人はテルーの実の父親だった。

 ゲドと再会したテナーは、ゲドにここにいてほしいという。二人は漸く想い通じ合わせ夫婦となった。三人での生活を送っていたある日、テナーの息子ヒバナが帰って来る。しばらく四人で生活していたが、オジオンの家に住んでいた時に世話になったコケばばの具合が悪いという報せが入る。テナーはヒバナに農園と財産を渡して、ゲドとテルーとともにオジオンの家に向かう。

 もう少しで目的地ーというところで、テナーはゲドとともにアスペンに捕らえらる。呪いをかけられているため、抵抗することができないテナーはゲドを崖から突き落とそうとする。その瞬間、一人逃げていたテルーが呼んだカレシンが飛んで来て、テナーに掛かっていた呪いは解ける(アスペンは死んだと思われる)。

 カレシンはテルーを真の名「テハヌー」と呼び、自分の子どもだと言う。カレシンは彼女をずっと探していたらしい。テルーはテナーとゲドと生きることを選び、三人でオジオンの家へと帰るのだった。

 

 すみません。大事なところを端折りまくっています。ざっくり言うと、「テナーがテルーとゲドとともに新しい家族として生きていくまで」の物語です。そして、その中でテルーという謎めいた女の子の正体が明かされていきます。

 

■ 登場人物

* かなり多いので、主要(だと思われる)人物のみ。

▪ テナー(ゴハ)

 アチュアンの墓所の大巫女だった女性。ゲドにより連れ出されて自由を得た(はずだった)女性。

 オジオンから多くのことを学ぶが、「普通の女」の人生を選び、ヒウチイシと結婚した。リンゴとヒバナという二人の子がいる。

▪ テルー

 親とその仲間から(性的含む)虐待を受け、最終的には火に放り込まれてしまう。何とか回復するが、顔の右半分はケロイドとなり、右目は失われている。また、右手は四本の指がくっついて丸く固まってしまった。

 天地創造のことば(竜のことば)を話すことができる。人の姿をした竜(?)だと思われる。まじない師などからは得体の知れない恐怖に似た感情を抱かれている。

 年齢は6~7歳くらいだが、栄養状態が悪すぎて2歳くらいの体重しかない。

 真の名はテハヌー

▪ ゲド(ハイタカ

 元ロークの大賢人。前作で力をすべて使い果たして、魔法を使う力を失った。そんな自分を「惨め」だと感じている。

▪ レバンネン

 ハブナーの王。荒廃した世界を立て直すべく、色々改革を行っている模様。ロークの大賢人となる人物を探している。

▪ カレシン

 最年長の竜。テルー(テハヌー)を自分の子だと言う。

▪ オジオン

 ゲドとテナーの師。真の名はアイハル。ゲドとの再会は果たせなかった。テルーの正体を理解していたと思われる。

▪ コケばば

 ル・アルビに住むまじない女。当初はテナーとの関係は良くなかったが、徐々に良き相談相手となっていく。テルーも懐いており、コケばばもテルーを可愛がっているように思われる。

▪ アスペン

 ル・アルビの領主に仕える魔法使い。噂では、永遠の命を望む百歳近い現領主に、孫の命を吸い取って与えているらしい。テナーのことを忌み嫌っている。

▪ ツタ

 中谷のまじない女。テナーと打ち解ける気はまったくない。

▪ リンゴ

 ゴハの娘。結婚してヴァルマスに住む。一人で生活している母親を心配している。しっかり者。

▪ ヒバナ

 ゴハの息子。姉と違い、精神年齢が低そう。子どもがそのまま大人になったような男性。船乗りを廃業して、農園に帰って来た。

▪ ヒバリ

 ゴハの友人。

▪ ブナノキ

 ヴァルマスに住むまじない師。オジオンの弟子の弟子。

▪ 四人組

 ハンディ、シャグ、ヘイクの三人の男性と、セニニ(女性)の四人?オジオンの家に向かう途中に出会ったのは四人組の男とあったが…。テルーはヘイクとセニニの子どもらしい。ハンディはヘイクの兄弟か(テルーのことを姪と言っていた)。セニニは三人から物乞いをさせられたりと、かなり酷い扱いを受けており、最終的には殺されてしまう。男三人は捕まって殺人罪で裁判にかけられた。

 

■ 設定など 

▪ この世界は、男性中心の社会。魔法使いは男性にのみ許された職業である。このため、ロークの賢人は男性のみで構成されている。

▪ 魔法使いは性行為をしない。

→ レバンネンの父親は魔法を使っていた。他にも前作までは結婚して子どものいる魔法使いが登場していたが…??

▪ テナーがアルハだった頃の世話人マナンは宦官だった。

▪ 九賢人は大賢人を失い、意見がまとまらず、ばらばらになっている。

▪ 九賢人の一人、「呼び出しの長」のトリオンは黄泉の世界から帰って来なかったため、レバンネンが代行している(大賢人を選ぶには九人必要である)。

→ 「さいはての島へ」の終盤、九賢人全員そろってゲドたちを迎える描写があったはずだが…。

 

■ 感想 

*だらだらと書いているので、長いです。否定的な感想も書いています。この作品が好きな方はご注意ください(適当に読み飛ばすか、読まないでください)。

 

 かなり微妙な気持ちになった続編でした。上記に挙げたような、前作までとの矛盾点が気になってしまいます。(マナンが宦官だったというのは、自然だと思いますが)。

▪ フェミニズム

 かなりフェミニズム色の強い作品となっていて、登場する男性のほとんどが不快な性格をしています(さすがにオジオン、ゲド、レバンネンにこういった描写はありません)。とにかく女性蔑視がひどい。アスペンのように悪意のある人物もそうですが、風の長やブナノキの場合、悪意がないからこそ、尚性質が悪いように思えます。ヒバナも典型的な男尊女卑キャラで、昭和~平成の亭主関白を地でいっています。この世界では、女性は男性より価値のない劣った存在であるという価値観のようです。このため、女性を見下していることが当たり前のことすぎて、「差別」という自覚すらないのでしょう。主人公であるテナーの視点で物語が進行することもあって、全編通して見下され続けるので、少しくどく感じてしまいました。この辺りは、女性と男性で感想が変わってくるのでしょうか。

▪ 特別ではなくなったゲドとテナー

 今作では今まで特別な存在だったテナーとゲドが「普通の女」「普通の男」になったことも着目点だと思います。テナーはオジオンから多くのことを学び、それを生かすこともできたはずでしたが、「普通の女」として人生を歩む選択をしました。つまり、それは結婚をして子どもを産み育てる、ということです。もちろん、テナーなりの理由があったわけですが、私からすると「もったいない」と感じました。

 一方のゲドは力を失い、魔法を使えない「普通の男」となりました。そして、そうなって漸くテナーと結ばれます。ゲドは「一人前の男」となったわけです。性格的にも、前作ではオジオンのようなすべてを達観したような感じでしたが、今作では自分に自信がないような性格となっています。まあ、今まで当たり前にできたことができなくなったわけなので、不安にもなるでしょうが。

▪ やや大人向けの表現

 今作では、テナーとゲドの性行為以外にも、テルーが強姦されていて処女ではなかったりと、かなり踏み込んだ表現が多く見られました(直接的な描写はありません)。男女の違いについても、作中色々述べられていました。そういえば、この世界の魔法使いは、禁欲が求められる僧侶みたいなもののようです。ゲド自身も、恋愛的なことにはかなり疎い感じでした。魔法を使う人は、禁欲以前にそもそも性欲なさそう。

▪ 世界のこれから

 テルーは性的暴行以外にもあらゆる虐待を受けていて、その内容がひどすぎて読んでいて辛くなります。暴力はふるうは、食事は与えないは、挙句の果てには火に放り込むなんて、人間のやることではないと思います。ただ、戦時中であったり、貧困であったり、混沌とした世界では、人間が人間でなくなることも現実です。アースシーでも、世界が力を失って荒廃が進んでいました。テルーのような子どもが、きっと他にもたくさんいたのでしょう。

 レバンネンが王に立ったことで、世界は再び平和な方向へ軌道修正されていきます。彼は行政的な改革により、世界を安定へと導こうとしています。ロークも崩壊寸前だし、魔法に依存しない世界になっていくのでしょうか。レバンネンは魔法を否定する存在ではありませんが、今後この世界での魔法のあり方が変化していく予感はします。

 ロークの賢人たちに顕れた預言の「ゴントの女」とは、きっとテルーのことでしょう。オジオンはテルーの教育は「ロークではだめだ」と言いました。テルーの本質を見抜いた上での言葉だったのでしょうが、出会ったのが遅すぎました。もう少しオジオンが長生きしてくれたらよかったのに。

▪ その他

 ゲドが魔法を失ったことを「惨め」だと感じていたのは意外でした。前作では、すべてを受け容れての行動だと思っていました。自分の最後の使命を果たした後は、のんびり余生を送るつもりだったのかと。オジオンの死に間に合わなかったことは、とにかく残念でした。本当に甘くなかった。それにしても、ゲドは今回も瀕死で療養していましたね。前作ラストではもう少し回復しているのかと思っていました。

 テルーはカレシンの子ども…ということは、人間の姿をしていても、竜と同様にものすごい長寿なのでしょうか。彼女は、あまり喋らないこともあり、何を考えているのかがわかりづらいキャラクターでした。最後にテナーとゲドと一緒にいることを選んだので、ちょっと安心しました。ちゃんとテナーの愛情が伝わっていて、よかったと。

  あれだけ強大な力を持ったゲドが、「普通の人間」(竜のことばが話せるからそうとも言えないか?)になったことは寂しく感じましたが、これまでの壮絶な経験を考えると、テナーとの穏やかな生活も悪くないと思えます。そして、ゲドの代わりに、今度はテルーが新たな主人公になっていく予感がします。テルーはかなり強い力を持っていそうです。

 個人的には、作中でコケばばとのやり取りが一番好きでした。嫌なおばあさんかと思っていたら、途中から可愛らしくなってきました。テルーも懐いていたし、きっと本質的に通じる部分があったのでしょう。

 

 今作は前作からかなり時間が空いての発表となったこともあってか、かなり雰囲気が変わったと思います。前作までは哲学的な作品だと思っていましたが、いきなりフェミニズムが前面に押し出されていて驚きました。

 ただ、テナーがヒバナと決別して新しい家族との一歩を踏み出したこと、テナーを苦しめるアスペンがテルー(というかカレシン)によって滅ぼされたことは、物語上のテナーに対する女性差別の一つの結末のように思えました。世界の価値観が変わっていなくても、テナーは今度こそ自分の望む人生を手に入れたのです。

 そういうわけで、物語としては従来通りきれいに終わっているので、読後感は悪くないです。途中、読んでいてちょっとしんどかったですが。テルーの正体は、少しずつヒントが出されて最後に明かされるので、この辺りも楽しめました。

 全体的にはフェミニズム色に覆われてストーリーそのものが霞んだ印象でした。物語の起伏もそんなにないので、あまり面白いとは思えませんでいた。

 一番面白かったのは「影との戦い」です。これは本当に面白かったです。二作目の「こわれた腕環」は起伏の少ないストーリーでしたが、先が気になる面白さがありました。三作目の「さいはての島へ」もまあまあ面白かったですが、こちらは哲学的すぎて難しく感じました。

 一作目で登場したカラスノエンドウやノコギリソウの再登場を願っていましたが、まったく登場しませんでした。カラスノエンドウなら、どんなゲドでも受け入れてくれると思うのですが。好きなキャラクターだったので残念でした。

 

 何が言いたいのかわからないところもあるかと思います。そこまで面白かったわけではないのに、何故こんなに長くなったのでしょう…。

 ここまでお読みいただいた方、本当にお疲れさまでした。それから、ありがとうございます。