びんのなか

想い出話や感想文など。読書メモが多め。ネタバレだらけです。

影との戦い(ゲド戦記1)

 久し振りの読書。ずっと前から読もう読もうと思っていた本。本棚で眠っていました。私が持っているのは単行本です。

 

 あらすじ…というか、自分用メモ。全然まとまってません。一応、章ごとに区切っています。想像以上に長くなりました。

 

 

■ あらすじ

1.霧の中の戦士

 ゴント山の“十本ハンノキ”という村で生まれたダニー少年。彼は偶々伯母がまじないを使って山羊を呼び寄せているのを目撃する。ダニーが伯母の唱えていた言葉をそのまま口にすると、山羊はダニーにどんどん集まって来て、しまいには彼は何十頭という山羊に囲まれてしまう。それを見た伯母は、ダニーの魔法の才能を見出し、自分の知る限りの魔法を教える。そして、ダニーに“ハイタカ”というあだ名をつけた。ダニーはあっという間に魔法の腕を上げていく。

 ある時、ゴントは強大な力を持つカルカド帝国の侵略を受けるが、ダニーの魔法の力で退けることに成功する。ダニーは力を使い果たし、身動きも取れないほどになってしまう。“沈黙のオジオン”により救われたダニーは、オジオンの弟子となり“ゲド”の名を与えられる。

2.影

 オジオンの弟子となったゲドだが、特に彼から教わることもなく日々を過ごしていく。オジオンのいう“修行”を理解できないゲドは物足りなさを感じる。薬草探しをしている時に出会った領主の娘に唆されたゲドは、オジオンの「知恵の書」を持ち出して<死霊を呼び出す>呪文を唱える。そこに現れたのは<影>だった。恐怖に囚われたゲドだったが、戻ってきたオジオンにより魔法は解かれる。

 オジオンに、ロークへ行って魔法を学ぶ選択肢を与えられたゲドは、オジオンの元を去り、ロークで学ぶことを選ぶ。

3.学院

 学院に着いたゲドは、学院長の“大賢人ネマール”と面会する。そこにやって来たカラスはネマールが去った後も残り、ゲドを睨んで言葉を発してから去っていく。

 学院で知り合ったヒスイとカラスノエンドウ。ヒスイはあからさまにゲドを馬鹿にしており、ゲドもまたヒスイに対して敵対心を露わにしていた。カラスノエンドウとは気が合うようだった。

 ゲドはある課題の最中に出会った”オタク“という小動物に真の名“ヘグ”を見出し、連れて行くことにする。

 魔法を学ぶ日々、ある時オー島の領主と妃が学院を訪れる。ヒスイは魔法を披露し妃を喜ばせるが、それを見るゲドは妬ましい感情を抱く。

4.影を放つ

 ゲドの優秀さは学院でも知れ渡るようになっていた。学院で行われる祭りの日、ヒスイの挑発を受けたゲドは、「死んだ人間の霊」を呼ぶ呪文を唱える。その瞬間現れた影はゲドに襲い掛かるが、ネマールによって追い払われる。しかし、ゲドは重傷を負い、ネマールは力を使い果たして命を落としてしまう。

 顔に大きな傷を残したものの、なんとか回復したゲドは、ネマールの後任となったジェンシャーに、ゲドが呼び出した影は彼の「無知と傲慢」であると告げられる。ゲドは一がら魔法を学び直すことになる。

 魔法使いとして故郷に帰るというカラスノエンドウは、ゲドに本名を教えるという、最大の贈り物をして別れを告げる。ゲドもまた、自分の名前をカラスノエンドウに教える(ゲドは「ハイタカ」の名前で呼ばれている)。

 ゲドもまた、以前ほどではなくともある程度力を取り戻し、自分の放った影を求めて学院を去ることを決意する。

5.ペンダーの竜

 ロー・トーニング島では、卵を孵したベンダーの竜が目撃されるようになり、恐れを抱いた人々は、ローク学院に助けを求めた。要請を受けたジェンシャーに、ゲドは自分が行くと申し出る。

 魔法使いとして、島の人々の生活を守っていたゲドは、ある時船大工の子どもを救おうとして、黄泉の国へ足を踏み入れてしまう。ヘグのおかげで呼び戻されたゲドは、影が自分を狙っていることを実感する。そして、島を去って竜を退治することを決意する。

 巧みな言葉でゲドを惑わそうとする竜に対して、ゲドは竜の真の名を呼んで縛ることに成功し、島に近づかないよう誓わせる。

6.囚われる

 ロー・トーニングを後にしたゲドは、サードで出会った男に「テレノン宮殿」へ行くよう告げられる。オスキルへ向かうことにしたゲドは、船で一緒になったスカイアーにテレノン宮殿まで案内してもらうことになる。しかし、スカイアーは影に喰われてその身を乗っ取られていた。ゲドは影から逃げ出し、目の前にあった門の中に飛び込んだ。

7.ハヤブサは飛ぶ

 ゲドはテレノン宮殿で目を覚ます。傍にヘグの姿はなかった。彼を助けたのは、かつて学院を訪れていたオー島の領主の妃セレットであった。領主はベンデレスクといって、一帯を治めているという。ゲドはセレットに、宝石<テレノン>が眠る地下へ案内される。その石はあらゆることを教えてくれるという。しかし、ゲドは石に身を委ねることを否定する。そこへベンデレスクが現れ、セレットの真の目的はゲドを利用してテレノンを支配するだったことがわかる。ゲドとセレットは逃げることになる。セレットの正体は、オジオンの元にいた時に出会った領主の娘で、ゲドが影を放った元凶だったのだ。

 逃げるゲドはヘグの遺体を見つける。そこに生えていた草の葉から魔法の杖を作り出す。黒い生き物に追われる二人だったが、セレットはカモメに、ゲドはハヤブサに姿を変える。セレットは黒い生き物の餌食となってしまったが、ゲドは逃げ切る。

 ひたすら飛び続けて身も心もハヤブサとなってしまったゲドは、ついにオジオンの手首に止まる。オジオンはハヤブサがゲドであることを悟り、元の姿に戻す。そして、オジオンはゲドに影と「向きなおる」よう告げる。ゲドはオジオンから杖を受け取り、旅立った。

8.狩り

 海上での対決を考えたゲドは、舟で影を呼び出す。しかし、影を見失い、波にのまれてしまう。なんとか辿り着いた小島には掘立小屋があり、そこには年老いた男女が住んでいた。心身ともに疲弊しきったゲドは、しばらく身を寄せることにする。二人の男女は言葉も通じず、どうやら二人でずっとこの孤島で生きて来たらしい。老婆の方は、ゲドに心を開いて世話を焼いてくれるようになる。そして、ゲドに片割れとなった腕輪を渡す。回復したゲドは再び海に出て、三度影と対峙するが、両者はすでに「追う者と追われる者」の関係ではなくなっていた。ただ互いに逃げられない、切っても切れない関係というものになっていた。疲れ切ったゲドはようやく村を見つける。

9.イフィッシュ島

 村で体力を回復させ、舟を準備したゲドは、立ち寄ったイズメイの町でカラスノエンドウと再会する。カラスノエンドウはイズメイのあるイフィッシュ島全土を担当する魔法使いだった。

 カラスノエンドウはゲドを自分の家に呼ぶ。そこには彼の弟のウミガラスと、妹のノコギリソウがいた。ウミガラスとはあまり打ち解けられないゲドだったが、ノコギリソウには気安さを感じていた。ゲドの話を聞いたカラスノエンドウは彼に同行すると申し出る。二人は影との決着をつけるため旅立つ。

10.世界のはてへ

 航海を続ける二人は、最果ての島アスタウェルへ着く。村の老人は、そこより東には何もないという。しかし、ゲドは影の逃げる先に気付き、さらに東へ進むことをカラスノエンドウに告げる。二人はひたすら東を目指し、ゲドはとうとう影と対決する。そして、ゲドは己の分身である影を受け入れ、完全な一つの自分となったのだった。ゲドはカラスノエンドウにすべてが終わったことを告げる。二人はノコギリソウ(とウミガラス)が待つイズメイへ帰った。

 

■ 主な登場人物

▪ ゲド

 通称ハイタカ。非常に高い能力を持つ魔法使い。所謂天才。高慢な性格で、謙虚さのかけらもない性格だった。その高慢さが生み出した過ちにより、多大な犠牲を払うことになる。顔の左半分に大きな傷跡が残る。

▪ オジオン

 ゲドの師。“沈黙のオジオン”と呼ばれる大魔法使い。穏やかで優しい人物で、ゲドを温かく見守ってくれる。

▪ ネマール

 ローク学院の学院長で大賢人。非常な高齢。オスキルのカラスが傍らにいる。ゲドが呼び出した影を追い払うが、力を使い果たして息を引き取る。

▪ ヒスイ

 ハブナー島、イオルグの領主の息子。背が高い若者で、いかにも特権階級者といった感じ。田舎者のゲドを常に見下し、何かにつけて挑発してくる。ゲドが影を放つきっかけを作った張本人。

 結局学院では杖を貰えず、オー島のトクネの領主のおかかえのまじない師になったらしい。

▪ カラスノエンドウ

 本名はエスタリオル。ローク学院で出会ったゲドの親友。年齢はゲドより2~3歳年上と思われる。肌の色は黒褐色で見るからに洗練されていない感じだが、実はそれなりに裕福な家で育った。三人兄妹の長男。どんな時でもゲドのことを受け容れてくれる広い心の持ち主。魔法使いとしても、かなり優秀。

▪ ジェンシャー

 ネマールの後任の新しい大賢人。東海域出身で、肌は黒い。ネマールよりは若そう。過ちを犯したゲドを諭す。

▪ セレット

 テレノン宮殿に住む領主の夫人。白い肌に黒い髪の、とても美しい容姿をしている。実はル・アルビの領主の娘で、母親はオスキルの魔女。ゲドに影を呼び出すよう唆した。ゲドを利用して力を手に入れようとしていた。

▪ ベンデレスク

 オー島テレノン領主。かなり高齢で、ろうのような白い顔、痩せている。魔法を使うことができる。妻の裏切りに激昂する。

▪ ノコギリソウ

 カラスノエンドウの妹。14歳くらい。美しく澄んだ目をしている。おとなしそうだが、ゲドに対しては遠慮がない。旅立つゲドと兄の帰りを待つ。

▪ ウミガラス

 カラスノエンドウの弟で、ノコギリソウの兄。ゲドと同い年の19歳。あまり苦労せずに生きてきた模様。端正な顔立ちで、活気溢れている。ゲドとは互いに劣等感を抱き合っているようだ。

▪ ロークの九賢人

 さまざまな術の訓練を担当する長たち。風の長、手わざの長、薬草の長、詩の長、姿かえの長、呼び出しの長、名付けの長、様式の長、守りの長がいる。守りの長は学院の門番をしている。九人の長によって新しい大賢人が選ばれる。

 

■ 世界観

 アースシーという架空の多島海域の物語。魔法の力が人々の生活を支えている。まじない師では杖を持つことはできず、魔法使いの資格を得ることで杖を持つことができる。

 すべてのものには真の名があり、その名を知ることで対象物を縛ることができる。そのため、本名を明かすことは自分の生命を相手が握ることと同じとなる。

 

 挿絵にアースシーの地図が載っています。色々な地名が出てくるので、地図を見ながら読んだ方が、より楽しめると思います。…が、地理的なことが苦手なので、その辺は軽く流しながら読みました。複雑すぎます。地理、歴史とともにかなりしっかりとした世界観となっています。

 

 

■ 感想

 ゲドの心の成長の物語。ゲドは、天才的な能力を持ちながらも、かなり人間的に未熟な人物として描かれていました。彼は自分の才能に自信を持ち、魔法を使うという目に見えるものを欲するあまり、本質的なものを理解しようとしていませんでした。オジオンや長達の言葉はゲドには伝わりません。ゲドは結局、自分の犯した過ちを知ることで、自分の負の部分と向き合うことになります。そして、大きな犠牲を伴いました。ゲド自身には消えない傷が残り、ネマールは死んでしまいます。「死んだほうがよかった」というゲドの言葉が痛々しかったです。

 ゲドは人に恵まれていると思いました。オジオンも、ジェンシャーや長達たちも、皆ゲドが間違っても温かく見守り続けてくれます。賢人となればやはり人間性も大切なのでしょう。ゲドに道を示すオジオンには、深い愛情を感じました。ゲドもまた、オジオンが拠所となっているようでした。

 そして、カラスノエンドウ。彼は何があってもゲドに変わらぬ友情を示してくれます。とにかく心が広い。つらい旅の中でのカラスノエンドウとの再会は、読んでいてほっとしました。

 オジオンとゲド、カラスノエンドウとゲド、どちらも強い信頼関係で結ばれていて、「無償の愛」そんな言葉がしっくりくる関係だと思いました。どんなにつらい時でも、誰かそういう人が一人でもいてくれれば、たぶん大丈夫です。ゲドは自分に向けられる愛情に、しっかり応えることができる人物だったからこそ、良い人たちに恵まれたのかな、とも思います。

 一番悲しかったのは、オタク(ヘグ)との別れ。ナウシカのテトのようなキャラで、ずっと傍にいると思っていたので、まさか死んでしまうとは思っていませんでした。死んでしまっただろうとわかっていても、その後遺体を見つける場面は、「死んだ」という事実を突きつけられて余計につらかったです。

 あれだけゲドの心をかき回したヒスイは、結局まじない師止まりだったみたいです。思ったより小者でした。ゲドはどうしてあんな小者に嫉妬心や憎しみを増幅させたのでしょう。ゲドの中に巣食う影のせいだったのでしょうか。

 終盤に登場したノコギリソウには特別な感情が芽生えていたようですが、どうなるのでしょう。ウミガラスとの関係も気になるところです。

 

 今回の「影との戦い」は序章に当たる部分だと思われます。色々伏線が張ってあるので、今後どうなるのか気になるところです。

 全体的に非常にきれいにまとまっていて、RPGとしてゲームになっても面白いのではないかなと思ってしまいました。「真実の名前」や「均衡」といった設定も、馴染み深いものだと思います。各章見どころがあり、最初から最後までテンポよく話が続いていくので、とても読みやすかったです。登場人物も魅力的でした。

 老女からもらった片割れの腕輪は続編への伏線のようです。今回はゲドの成長に焦点が当たっていましたが、今後はカルカド帝国を巻き込む戦いとなっていくのでしょうか。個人的にはアーク島の“赤い魔法使い”というのが気になります。歌になっているくらいだから、故人ですかね。