びんのなか

想い出話や感想文など。読書メモが多め。ネタバレだらけです。

十二国記(8)図南の翼

 何かと落ち着かない日々が続いています。職場では使い捨てマスクを如何に長持ちさせるかが話題になっています。まさかこんな日が来るなんて。

 

 エピソード6。「風の万里 黎明の空」で強烈な印象を残した珠晶が主人公。ずっと詳細が不明だったあの国がようやく出てきます。そして、あの人がまさかの出世(?)を遂げていました。

 今回は登場人物がわりと少なめ。

 

 

  

 ■□あらすじ■□

 王が斃れて27年。大富豪の娘、珠晶は家を飛び出して昇山を決意する。黄海へ向かう途中、困っていたところを利広という青年に助けられる。その後、家から持ち出してきた騎獣を奪われるものの、最果ての街まで辿り着く。そこで出会った猟尸師の頑丘を蓬山に連れて行くよう強引に雇う。

 令乾門を通り黄海に入ったところで利広と再会する。彼は珠晶に興味を抱き同行することになる。頑丘の指示に従い黄海を進む珠晶だったが、彼の考え方に不満を抱いていた。とうとう頑丘に対して堪忍袋の緒が切れた珠晶は彼を解雇して、昇山者の1人室季和に同行する。季和と行動を共にするうちに己の過ちに気付いた珠晶は、季和のもとを離れ、彼に置き去りにされた随従たちを率いて先に進む。そして彼らとともにこの区域に生息する妖魔を倒すことに成功するが、その際珠晶ははぐれてしまう。

 妖魔に襲われかけた珠晶は利広と頑丘に助けられるが、頑丘が怪我を負う。利広は二人を残して助けを呼びに行く。二人は黄海の守護者<犬狼真君>に助けられ、迎えに来た利広と再会する。そして利広から少し遅れて供麒が迎えに来たのだった。

 

■□登場人物■□

■ 珠晶(しゅしょう)

 主人公。12歳。とても頭が良く、とても子どもとは思えないような思考回路の持ち主で、正義感と責任感が強い。高慢で気の強い性格なうえ、まだ幼いが故に視野が狭いところがあり、納得できないこと対して怒りを露わにする。が、理論的に考えることができるので、きちんと納得できさえすれば素直に受け入れる。

■ 頑丘(がんきゅう)

 猟尸師。柳出身。黄朱であることに誇りを持っている。あまり多くを語らない。騎獣に名は付けないが、駮に真君の名をもらう。

■ 利広(りこう)

 物言いは穏やかだが、何を考えているのか分からない青年。実は奏の太子。放浪癖がありあちこち行っているため、奏は他の十一国の実情を正確に把握できている。星彩という名の騶虞を連れている。

■ 犬狼真君

 黄海の守護者。天仙。正体は「東の海神 西の滄海」に登場した更夜。黄朱たちにとっては唯一縋がることができる者。

■ 室季和(しつきわ)

 昇山者。今回の昇山者の中で最も多くの荷と随従を持っているが、剛氏は持っていない。典型的な金持ちの愚か者。

■ 聯紵台(れんちょだい)

 昇山者。雁で商売をしている。室や剛氏と反目することが多い。プライドが高く剛氏に頼ることをしたがらない。室よりはまとも。

■ 近迫(きんはく)

 剛氏。侠気があり十数名の剛氏の頭的存在で、剛氏としての経験も長い。

■ 鉦担(しょうたん)

 室季和の随従。徒歩であったため、妖魔の襲撃の際に置き去りにされた(主人は馬車で逃げた)。

 

■□メモ■□

■ 黄朱1

▫ 猟尸師(りょうしし)

 黄海で騎獣にする妖獣を狩る者のこと。彼ら自身や黄海を出入りする者は<朱氏>と呼ぶ。

▫ 剛氏

 昇山者を護衛する者。朱民で朱氏と同じく黄海に入るが、朱民ではない者に雇われて生活しているため、朱民の中では朱氏の方が格上にあたるらしい。

▫ 朱旌(しゅせい)

 たびげいにん。定住せずに諸国を巡って芸をしたりものの売り買いをする浮民。朱民ともいう。

▫ 朱民

 朱氏や剛氏のこと。浮民の親に朱氏や剛氏のところへ売られた子どもが朱氏や剛氏となる。売別名、黄民。総じて黄朱の民ともいう。

■ 黄朱2

▫ 黄朱の里

 黄海に定住する者たちが築いた里。彼らに里木(子どもが生る木)を授けたのが犬狼真君。

▫ 黄朱の里の里木

 黄朱でない者が触れると枯れてしまう呪いをかけられており、真君は里木のことを黄朱以外に知らせてはならないとした。このため黄朱は里を見つけた者を殺してでもこの誓約を守ろうとしている。

■ 犬狼真君(けんろうしんくん)

 伝説的な存在となっているが、現れたのが300~400年前とそこまで古い存在ではないらしい。<天仙>なので、人と交わってはいけないらしい。…。

 <更夜>はいつ、どういう経緯で天仙になったのか。本人曰く、天仙は飛仙みたいなものらしい。(*飛仙とは国の政に関与しない仙のこと。国の政に関与するのは地仙)天帝に近いところにいるような感じだが(「玉京もよく御存知だ」などと言っている)…??

 この時点で陽子の登極90年くらい前ということなので、更夜が黄海へと姿を消したのが400年くらい前。300年くらい前には尚隆が令艮門の番人に更夜を探すよう伝えているが、この時は雁の仙籍に名前があったらしい。<犬狼真君>でも仙籍は雁にあるのだろうか。そして彼の友人の妖魔<ろくた>はどうなったのか。今作では連れている様子はなかったが。

* あらためてざっと振り返ってみたが、<天仙>と呼ばれているのは今のところ碧霞玄君くらい。

■ 天伯(てんはく)

 令乾門(黄海への入り口)を守る霊獣。禁を犯して黄海に入ろうとする者を雷で打ち、その魂魄を取って喰らうらしい。老爺の姿に転化して安闔日に門を開ける。

■ 奏

▫ 首都:隆洽(りゅうこう) 王宮:清漢宮(せいかんきゅう)

▫ 宗王

 櫓先新(ろせんしん)。元・港町の舎館(やどや)の亭主。五十がらみの恰幅のよい大きな男。鷹揚で明晰。

 ただし、<宗王>としての権は一家5人で等しく有している。合議制を取っており、先新が意見を取り纏める。

▫ 宗麟

 字は昭彰。銀を帯びた金髪。

▫ 宗王(先新)一家

 后妃(宗后妃):明嬉 

  3人の子どもを育てただけあってしっかり者の妻。

 太子(英清君):利達 

  長男。聡明で落ち着いている。

 太子(卓朗君):利広 

  次男。自由奔放。20歳はじめくらい。

 公主(文公主):文姫

  末妹。おてんば娘。18歳。官立の医院の長。

 

 ■□感想■□

 今回は昇山する王の立場から描かれていました。その主人公が12歳の女の子。さすが王だけあって、その辺の子どもとは一線を画しています。珠晶はとにかく頭が良くて、物事をよく見ている。とはいえ、やはり幼く、自分の正義感や価値観で物事を測ってしまいます。彼女は自分が頭の良いことを知っており、高慢で自信過剰なところがあって、一歩間違えるとこまっしゃくれた、嫌な子です。ですが、彼女の場合、自分の過ちを素直に認めて謝る強さがあります。彼女の頭の良さは、自分とまったく違った境遇の者の背景を知って、さらにその意味を想像することが出来るところだと思います。貧しい者の辛さを他人事で終わらせずに、自分が裕福であることの責任を知っているのです。まあ、祥瓊に嫌悪感を抱くのも当然でしょう。他作品でもそうですが、主人公の成長がきちんとわかりやすく描かれているので、読んでいて楽しいです。

 珠晶が見捨てられた随従たちを率いて難敵の妖魔を倒すところは、彼女の強いリーダーシップと頭の良さが発揮されていて、すごく楽しいエピソードでした。室季和と別れた理由が珠晶らしくて良かったです。あと、怪我を負った頑丘とのやり取りが好きです。彼女に隠し事は無理だと思います。

 さて、この作品の見どころとしては、勿論頑張る珠晶なわけですが、その他では更夜の登場と、一作目から話題には上がっていたもののいまいち詳細が不明だった奏について漸く言及されたことではないでしょうか。

 頑丘の駮に更夜の名を貰ったように、六太の名を貰ったあの妖魔はどうしているのでしょうか。今回は登場しませんでしたが。まさか死んだということはないはず。それと、犬狼真君となった彼は黄海の外には出ないのでしょうか。尚隆が約束を守ったことを知っていたとしても、斡由の墓には参ってなさそう(知る術があったのかは不明ですが)。一体彼に何があったのか。

 そして初めて明かされた奏の内情。宗王そのものは勿論1人だけれど、実質5人でその役目を果たしているという、他にはない形を取っています。家族全員が単に仲が良いだけでないのがいいですね。自分の背負っている責任の重さを十分に知った者たちだからこそ、こういう形が成立するのだろうな。利広の珠晶に対する厳しい言葉は重みがありました。

 このシリーズは王と麒麟を色々な角度から描かれているのも興味深いです。1作目→麒麟が迎えに来た王、2作目→昇山者を待つ麒麟、3作目→王を迎えに行った麒麟、6作目→昇山する王(実際は昇山する前に迎えが来た)。

 王と麒麟については色々気になるところがあるので、そのうち整理してみたいです。

 今回はメモ項目で<黄朱>について結構書いておきました。なぜかというと、「白銀の墟 玄の月」で重要なキーワードとなっていた(と思う)から。きっともう一度読めばもうちょっと内容が理解できる…かも??

 ホワイトハート版がめちゃくちゃ分厚くて驚きました。