びんのなか

想い出話や感想文など。読書メモが多め。ネタバレだらけです。

十二国記(9)華胥の幽夢

 エピソード7。短編集です。あまり内容覚えてなかったので、新鮮な気持ちで読めました。前に読んだときは「黄昏の岸 暁の天」の後だったため、これまた違和感が。確かに時系列的にはこの順番なのかもしれないけれど。

 「丕緒の鳥」と違って王や麒麟(というか国そのもの)に焦点が当たっています。

 一応気を付けていますが、漢字の間違いがあったらごめんなさい。変換が大変…;

 

 

 

■■ 冬栄(戴/驍宗登極後)

 泰麒は何も役に立てないでいる自分を歯痒く思っていた。そんな矢先、泰麒は驍宗から漣へ使節として遣わされる。

 漣の王宮<雨潦宮(うろうきゅう)>へ到着した泰麒たちは、奥の園林で農作業をしていた青年<鴨世卓>と出会う。彼が廉王であった。世卓は自分の仕事は農夫であり、王は役目であるという。泰麒は彼に麒麟の役目と仕事とは何かと問う。

 戴へ戻った泰麒に与えられたのは、驍宗のいる正殿のすぐ近くに建てられた住まいであった。何かにつけ性急すぎる驍宗の傍で彼の重石になってほしい、と告げられる。泰麒は自分の仕事を理解できた気がした。

 

□ 登場人物

▫ 泰麒

 字は蒿里。驍宗の役に立ちたいと願う健気な幼い麒麟。11歳くらい。

▫ 驍宗

 泰王。泰麒の主。武勇に優れ人望も篤い人物で、非常に強い覇気の持ち主。

▫ 正頼(せいらい)

 泰麒付の傅相(ふしょう)。私生活上の諸事から政務にわたる全て面倒を見てくれる人。じいや。首都・瑞州(ずいしゅう)の令尹(さいしょう)。元からの驍宗の部下。

 漣へ遣わされた泰麒に同行。

▫ 阿選(あせん)

 禁軍右軍将軍。前王の頃からの禁軍将軍で驍宗と双璧をなす人物だった。驍宗同様、人望、武勇ともに優れているが、驍宗のような怖ろしいまでの覇気はないため、泰麒にとっては物怖じしなくて済む相手。

 漣へ遣わされた泰麒に同行。

▫ 霜元(そうげん)

 瑞州師左軍将軍。上背のある偉丈夫で、どことなく品格のある落ち着いた物腰の人物。「騎士」のイメージの人らしい。元驍宗軍の師帥(しきかん)。

 漣へ遣わされた泰麒に同行。

▫ 潭翠(たんすい)

  泰麒付の大僕(ごえい)。無口で沈着冷静。滅多なことで慌てたりしない。

 漣へ遣わされた泰麒に同行。

▫ 巌趙(がんちょう)

 禁軍左軍将軍。巨漢。元からの驍宗の部下。

▫ 李斎(りさい)

 瑞州師将軍。女性。飛燕という騎獣を持つ。

▫ 宣角(せんかく)

 大司徒。

▫ 鴨世卓(おうせいたく)

 廉王。生粋の農夫で、王宮の奥で農作業をしている。恐ろしくおおらかな人物。

▫ 廉麟

 漣の麒麟。王としてはかなり非常識な部類に入る世卓をサポートするしっかり者。

 

□ メモ

▫ 王宮内の「近道」

 下官しか使わないような小道や裏道、閉められた宮殿や府第(やくしょ)の庭先などを通る。正頼に泰麒はこの近道を教えてもらっている。

▫ 漣の争乱

 この時点では落ち着いているらしい。

▫ 漣について

 首都:重嶺(じゅうれい) 王宮:雨潦宮(うろうきゅう)

 宝重:呉剛環蛇(ごごうかんだ)

 

□ 感想

 一番内容を覚えていない作品でした。が、一番覚えておけばよかったと思える作品でした。あまりにも廉王のインパクトが強すぎて、泰麒の印象が薄くなっていた…というか、泰麒の物語だったことすら覚えていませんでした;「白銀の墟 玄の月 」を既に読んでいるので、非常に切なく感じました。温かで優しい時間が確かに存在していた。そう思うと、余計に悲しい。

 

 

■■ 乗月(芳/「風の万里 黎明の空」の少し後)

 月渓が峯王を討って4年の月日が流れる。彼は依然として仮王として玉座に就くことを拒んでいた。

 ある時、慶より月渓宛ての親書を携え使者として青辛が訪ねて来る。しかし、自分は景王からの親書を受け取る立場にはないと受け取りを拒否する。困惑した青辛に、冢宰の小庸は事情を説明する。しかし、親書の目的が祥瓊に関わることであったため、小庸は再度月渓に親書の受け取りを促すが、やはり受け取ることはなかった。

 青辛の宿泊先が街の宿屋であったため、月渓は青辛を自分の官邸に泊める。青辛との語らいの中で、月渓は自分の本心に気付く。そして小庸もまた月渓の本心を知り、その上で二通の親書を月渓に渡す。親書を読んだ月渓は玉座に就くことを決意するのだった。

 

□ 登場人物

▫ 月渓

 恵州候。自らの手で討った前峯王・仲韃を崇拝していた。

▫ 小庸

 芳の冢宰。月渓が玉座に就くことを心から願っている。

▫ 青辛

 慶の禁軍将軍。

 

□ メモ

▫ 仲韃

 清廉潔白で一分の汚れも許せないような人物。一方、自分が清い心を持っているが故に、人を疑うことを知らず后妃の裏の顔を見抜くことが出来なかった。

▫ 慶の半獣

 「風の万里 黎明の空」で疑問だった桓魋(青辛)が半獣であったにも拘わらず、なぜ州師将軍であったのか(慶では半獣は官吏になれなかった)―。答:麦候が戸籍をいじったから(朝廷が腐敗しすぎていてどうせバレないだろうと)。なるほど。

▫ 祥瓊

 慶の女史(王の近辺に仕えて執務の手助けをする最下級の文官)を務めている。

 

□ 感想

 月渓が決断するまでの話でした。月渓の仲韃に対する深い想いが描かれていました―が、読んでいて月渓がものすごく無責任な人に感じられました。いや、ちゃんと理由はあったわけですが。あまりにも頑なすぎて、途中いらいらしてしまいました。

 こんなこと書いていてあれですが、月渓は非常に優秀で人柄も申し分ない人です。官吏や民の希望を一身に受けるくらいに。このあとの「華胥」に登場する砥尚のことを考えると、それはもう。いずれちゃんと峯麒(?)に選ばれて玉座に就いてほしいです。

 青辛たちに街の宿に泊まるよう指示した陽子の心配りが素敵でした。

 

 

■■ 書簡(慶/陽子の即位の儀式前)

 雁の大学で学ぶ楽俊のもとに陽子から便り(喋る鳥)が届く。元号を決めたこと、王宮での生活、巧へ様子を見に行って楽俊の母親に会ったことなどが語られていた。そして即位の儀が来月に決まったのでできれば来てほしいとあった。

 楽俊は陽子への返事として、雁での生活や陽子へのアドバイス、母親のことでの礼の言葉を贈る。そして、即位の儀には会いに行くことを告げる。

 

□ 登場人物

▫ 陽子(景王)

 王宮での生活に慣れるので精一杯の新米王。国の威儀や王の威信が理解できない元女子高生。

▫ 楽俊

 鼠の半獣。雁の大学に通っている。非常に優秀。一番の成績で入学した。大学では「文帳」と呼ばれている。

▫ 鳴賢

 大学に通う楽俊の友人。

▫ 玉葉

 陽子の身の回りの世話をする女官。

▫ 景麒

 慶の麒麟。王としての威厳を持たない陽子と衝突することが多い。

 

□ メモ

▫ 巧

 この時点で塙麟が死亡し、蓬山に塙果が生った。塙王は危篤。

 

□ 感想

 陽子も楽俊も弱いところを見せずに背伸びしているけれど、お互いそんなことはお見通し。二人の依存しない関係がいいなあと思います。

 陽子の謙虚さや気配りができるところが好きです(さっきも書きましたが;)

 

 

■■ 華胥(才/前王の時代が終わる頃)

 砥尚が登極して20余年―。采麟は失道の病に罹っているが、何が間違っているのかが分からず、朝廷ではただ焦燥感だけが募っていった。そんなある日王父で太師の大昌が殺害され、王弟で太保の馴行が姿を消す。

 一体何が起こったのか―。謎が深まる中、朱夏と夫で冢宰の栄祝は謀反の疑いを掛けられ、謀反に協力したとされた采麟とともに奏へと国外追放となる。奏で彼らを出迎えた文姫は宗王のもとに来ないかと勧めるが、栄祝はこれを断り朱夏もそれに倣う。采麟を預けて朱夏たちは才に戻る。

 才では砥尚の迷走ぶりに拍車がかかり、確実に朝廷が沈みつつあった。そして、馴行の遺体が見つかる。朱夏の義弟青喜は一連の出来事には宝重<華胥華朶>が関係しているのではないかと考える。朱夏の言葉で真相に辿り着いた青喜だったが、その真相は朱夏を絶望させる。

 朱夏が栄祝に真実を問うている中、砥尚の禅譲の知らせを受ける。砥尚の残した遺言を聞いた青喜は義母の慎思の言葉を思い出す。すべてわかっていた慎思は自分たちは償っていかなければならないと告げるのだった。

 

□ 登場人物

▫ 朱夏

 大司徒。高斗時代からの砥尚を支えてきた。

▫ 栄祝

 冢宰。朱夏の夫で砥尚とは従兄弟同士。

▫ 砥尚

 采王。破格の早さで大学に進み、わずか2年で修了という非常に優秀な人物。当時の扶王と対立する徒党を率いて高斗と名乗り、扶王が斃れた後に采麟の選定を受ける。

▫ 青喜

 慎思に育てられた孤児。頭が良い。

▫ 慎思

 栄祝の母で、砥尚にとっては叔母。太傅。柔和で聡明な人格者。砥尚の母親代わりでもあり、多大な影響を与えた。一部の臣下には<黄姑>と呼ばれている。

▫ 大昌

 砥尚の父で太師。名高い人格者。慎思の兄。

▫ 馴行

 砥尚の弟。太保。兄と対照的に朴訥とした慎ましい人柄。

▫ 采麟

 才の麒麟。砥尚を選定した時はわずか8歳だった。成獣となった年齢は不明。

▫ 文姫

 奏の公主。

 

□ メモ

▫ 扶王

 砥尚の前王。治世の末期にはかなり荒んでいた。鈴をいびり抜いていた梨耀は彼の愛妾だった。

▫ 華胥華朶

 采の宝重。宝玉でできた桃の枝で枕に挿して寝ると花が開き、華胥の国(=理想の国)の夢を見せる。ただし、この理想の国とは決して<理想郷>ではなく、あくまでも使用者にとっての理想の国である。つまり、この宝重は国のあるべき姿を見せるのではなく、使用者の理想を形にして見せるものである。

▫ 王の姓

・婚姻するとどちらかの籍に入り、子どもは必ず統合された籍にある姓を継ぐ(本人たちの姓はそのまま)。つまり兄弟姉妹の姓は同じ。

・天が天命を革めるにあたって同姓の者が天命を受けることはない

→ 王が斃れた後子どもがその位を継ぐことはない

ここで疑問が。

1. 慶で予王(舒覚)の妹が王を名乗っていたが、そもそも姓が同一である以上偽王であることは明白なのでは。なのに、何故慶では偽王かどうかで意見が分かれたのか。(今更ですが;)

2. 砥尚の後に選定を受けたのは慎思であるわけだが、砥尚と慎思は同姓ではないのか。

…私の読解力不足?

▫ 王の選定

 砥尚と慎思は同時に存在していたが、采麟が選んだのは砥尚。本作を読む限り、最初から砥尚と慎思では格が違ったように感じられる。優れた人間が必ずしも選ばれるわけではないだろうが、天が<王>を決めるのはどのタイミングなのだろうか。

 

□ 感想

 「黄姑」の過去が明かされました。ミステリーっぽかったです。青喜が一人で解決していましたが。主人公は朱夏ですが、残念ながらほとんど活躍していません。青喜に導かれただけです。なんというか、ふつうの人。そんな印象でした。でも、朱夏があまり役に立たなかった理由がちゃんとあったわけですね。彼女が賢い人だとこの物語が成立しなかったと思います。青喜に説かれるまで何も気付いていなかった朱夏が哀しかったです。

 砥尚の残した遺言がすべてだったのでしょう。砥尚は慎思の影響を受けたわりには肝心なところを理解していなかった…と思うと何かものすごく残念でした。結局慎思の考えを一番理解していたのは青喜でした。色々うまくいかないものです。どうでもいいですが、この「責難は成事にあらず」って国会への皮肉みたい。

 それにしてもこの国を惑わしたのは華胥華朶だとしか思えません。これさえなければ、もしかしたらもっと別の道があったような気がしました。慎思ならきっと必要のないものだと思います。

  

 

■■ 帰山(柳/「風の万里 黎明の空」の後)

 柳の様子を見に来ていた利広は、そこで風漢と出会う。彼もまた柳の様子を見に来ていたのだ。二人は柳の終焉を確信していた。そして永い間に見てきた数多の王朝の存亡について語らう。

 風漢と別れ、利広は家族全員が揃う清漢宮に戻る。利広は世界の情勢を報告し、それをもとに宗王一家は為すべきことを決めていくのだった。

 

□ 登場人物

▫ 利広

 宗王の太子。次男。王宮にはほとんどおらず、世界中を旅している。情報収集担当。

▫ 風漢

 延王。利広とは傾きかけた国でよく出会うが、お互い正式に名乗っていない(素性は知っている)。

▫ 先新

 宗王。まとめ役。

▫ 明嬉

 后妃。しっかり者の母。助言者。

▫ 利達

 太子。長男。采配役っぽい。

▫ 文姫

 公主。末妹。てきぱきと仕事のできる人。

 

□ メモ

▫ 世界情勢

奏:600年。安定。

雁:500年。安定。

範:300年。安定。

柳:120年。そろそろ終焉?

恭:90年。安定。芳を支援している。

巧:王不在。妖魔が大量発生してひどい状態。

戴:王不在(?)で偽王が立っているらしい。妖魔が大量発生してひどい状態。

慶:1年未満(?)。落ち着きつつある。

芳:王不在。仮朝。じわじわ沈みつつあるが、なんとか踏みとどまっている。

舜:40年。少し安定を欠くが踏みとどまりそう。

▫ 保翠院

 浮民救済施設。奏全土にある。

▫ 宗王一家の特技

 全員同じ筆跡で文字が書ける。

▫ 劉王

 名は助露峰。どういういきさつで王となったかは不明。元は地方役人だったらしい。どこか冴えない印象の人物(らしい)。先王から露峰の登極まで20数年経っていた。

▫ 柳

 最初の10年くらいで王朝が整うと国は安定するが、露峰はそれに失敗しているような感じだったらしい。しかし、なぜか法が整備され300年は保ちそうなくらい軌道に乗っていった。

 現在、なぜか露峰は自らの敷いた法を壊し始めている(?)。利広は露峰が玉座にいない(=実権を放り出している)のではないかと考えている。

 

□ 感想

 柳の謎が深まった作品。とにかく得体のしれない不気味さを感じました。これ読んだ当時は、いずれ柳の詳細が明らかになることを楽しみにしていたわけですが、…どうなんだろう…;なんか放置されそう。舜についてはほとんど諦めています。

 利広と延王だからこそできる会話は興味深かったです。神みたいなものでありながら本質は人であるということが、王という存在を不確かなものにしているのだろうな。

 宗王一家の団結力は頼もしい限りです。世界の調整役みたい。ここはなんとなく大丈夫そうですが、雁は読むたびに不安になります。最後のあの漢文みたいなので雁の終焉が書かれたら嫌だ…。

 

 

■■ 雑感

 「黄昏の岸 暁の天」までのまとめ的な一冊だと思っていました。それまでの作品を補完するような。今回こちらを先に読んだので、次の感想も変わりそうです。

 麒麟が選ぶ王ってなんだろう…と思います。漣ではそこに一つの答えがあった気もしますが、才では余計にわからなくなりました。そもそも昇山というシステムがどれくらい意味があるのかも疑問です。恭なんて昇山者を待つより自分で探しに行った方がよほど国のためだっただろうし。それ以前に向いてない人を選ぶこともあるわけで、そこには何か意味があるのでしょうか。

 うろ覚えですが、陽子もこの世界が思ったほどファンタジックではないみたいなことを考えていた気がするし、話が進むごとにこの世界の「天」に対する疑問が増えていきます。

 そういえば(子どもの)泰麒と珠晶って1つくらいしか変わらないのですね。とてもそうは思えないです。泰麒が幼いのか、珠晶がしっかりしすぎているのか。年齢といえば、黄姑もけっこうおばあちゃんだと思っていましたが、思ったよりは若い(?)ような気がしました。余談ですが、なんで「姑」?と思って調べたら、「父の姉妹。おば」という意味があるそうです。勉強になりました。