オズ11作目。といってもオズはあんまり関係ない感じでしたが。オズの登場人物はどちらかというとゲスト出演っぽいです。
ーあらすじー
とても美しくて豊かな島国ピンガリーは、ある時北方の双子島レゴスのとコレゴスに攻め込まれます。略奪と破壊の限りを尽くされ、国王や島民たちはすべて奴隷として連れて行かれてしまいました。運よく見つからなかったインガ王子は、お忍びで訪れていたリンキティンク王と喋るヤギのビルビルを見つけます。そして、王子は一族に伝わる3つの魔法の真珠を持ち出し、リンキティンク王とビルビルとともに連れ去られた両親と島民を助けるため、北の国を目指します。
レゴスに着いたインガは魔法の真珠のおかげで、あっさり制圧します。ゴス王は妻コル女王がいるコレゴスへと逃げました。一方、インガは眠っている間に大切な真珠を入れていた靴を2つとも失くしてしまいます。これによって無力となったインガは、コル女王に捕えられコレゴスへと連れて行かれます(王子が無力であることは女王は知らない)。
炭焼きのニコボブは、偶々見つけたインガの靴を拾って娘のゼラに贈ります。プレゼントされた靴を履いてゼラは、女王のもとへ蜂蜜を届けに来ました。女王に仕える身となっていたインガは、ゼラと靴を取り換えて魔法の真珠を取り戻します。そして、レゴスとコレゴスの両方を制圧して、ピンガリーの島民を解放するのでした。
ところが残念なことに、ゴスとコルがインガの両親キチカット王とガリー王妃を人質として連れ去ります。彼らはノーム王に人質を絶対に逃がさないよう閉じ込めておいてほしいと頼んだのです。
ノーム王のもとに訪れたインガ達は、罠によって殺されかけますが、魔法の真珠のおかげて難を逃れます。とはいえ両親を解放することもできず、ただ時間だけが過ぎていくだけでした。そんな折、遠く離れたオズでこの様子を見ていたドロシーが魔法使いとともに助っ人として現れます。そしてインガの両親は解放され、一行はオズのエメラルドの都へと迎えられるのでした。
ー登場人物ー
インガ:主人公。ピンガリーの王子。聡明で勇敢な心優しい少年。
リンキティンク王:とても楽観的で自由奔放なリンキティンク国の王様。笑うことが大好きで、いつも笑って歌っている。
ビルビル:偏屈者の喋るヤギ。リンキティンク王の相棒(?)。ガリガリらしいが、リンキティンク王を乗せても平気なので、かなりの力持ち。
ニコボブ:レゴスの炭焼き。正直者で仕事ができる有能な人物。ピンガリーの宮廷の侍従長官となり、あらゆる事業を取り仕切る。
ゼラ:ニコボブの娘。勇気があって優しい女の子。
キチカット王:ピンガリーの王でインガの父。心配症ではあるが、賢く善良な王様。
ガリー王妃:インガの母。
ゴス王:レゴスの王。野蛮な悪党。
コル女王:コレゴスの女王で、ゴス王の妻。こちらも残忍な性格で、ゴス王に比べて悪知恵が働く。
カリコ:ノーム王。ラゲドー(前ノーム王)ほどではないが、ちょっと悪者っぽくなっている。合理的で政治的手腕にも長けた人物。
ドロシー:正義感の強い女の子。気も強い。
魔法使い:有能な魔法使い。ビルビルの正体を見抜いた。
オズマ:心優しいオズの支配者。とても親友想い。
グリンダ:最強の魔女。ビルビルにかかっていた魔法を解いた。
ーその他ー
☆3つの魔法の真珠
ピンガリーの王家に伝わる秘宝。所持している者だけに効果がある。ピンガリー王家の者に限って効果があるわけではないので、誰が持っていても効果がある。
<ピンクの真珠>・・・あらゆる危難から身を守る。
<青の真珠>・・・どんな力でも楯突くことができない強力な力を与える。
<白い真珠>・・・賢明な助言を与える(要は真珠が喋って導いてくれる)。
「矛盾」という言葉を思い出したのは私だけではないと思う。ピンクの真珠を持った人に青の真珠を持った人が攻撃したらどうなるんですかね…。
☆死の砂漠
オズの周りを囲む砂漠。生きている者が通ることはできない。妖精の力か魔法を使わない限り。…グリンダの魔法はどうなったんだろう。
-感想ー
毎回冒頭部に作者ボームによる作品紹介みたいなのがあるのですが、そこでも触れられているように、今回はオズとほぼ別物のような物語となっています。最終的にはオズの国へたどり着き、盛大な晩餐会でみんなが顔をそろえるわけですが、そこまでの過程は同じ世界観の別の物語、といってもいいくらいでした。また、最後に主人公たちがみんなそれぞれの場所へと帰ってしまうのも、いつものオズとの違いだと思います。
「オズのかかし」もどちらかというと別の物語みたいでしたが、今回は「オズ」に辿り着くのが本当に終盤で、それまではオズ関連のものは一切登場しません(オズと同じ世界観であることは始めの方に書かれている)。
物語自体は「故郷を滅ぼされた主人公が魔法のアイテムを使って故郷と両親を取り戻す」といったもので、わりとよくある感じのものです。それでも、美しい国が無残に破壊されていく場面は心が痛みました。そして、魔法の真珠を1度失うところも意外性がなくてもハラハラします。主人公のインガは真面目な優等生タイプで、比較的感情移入しやすいキャラクターでした。そんなわけで、ノーム王やドロシーが登場するまでは、それなりに楽しめるシンプルな冒険物語となっていました…リンキティンク王がいなければ。この作品の個性的な面白さは、タイトルにもなっているリンキティンク王なくしてはありえません。
リンキティンク王は傍迷惑なところもありますが、情に厚く意外と冷静な判断ができる大人です。そのため、インガの足を引っ張ることはほとんどありません(靴を失くした件ではインガにも落ち度はあった)。むしろ、大事な時には決してミスを犯さない人でした。絶望の淵にいるインガの傍にいてくれたのが、非常識なレベルの陽気さをもったこの王様で本当によかったと思いました。始めのほうは、うわーなんか自由すぎてめんどくさい人だ、とか思ってましたが、コル女王やノーム王を相手に機転の利いたやり取りをやってのけるあたりでは、この人の賢さが表れていました。
物語の終盤、ドロシーが登場してノーム王に囚われたインガの両親を解放する、という展開は、オズシリーズとしては納得のいくものでしたが、1つの独立した物語としては正直微妙な気がしました。ずっとインガが頑張っていたことを考えると、ちょっとなあ…と。まあ、オズシリーズなので、いいんですけどね。今回のカリコは「オズのオズマ姫」の頃のノーム王(ロークワット)のようでした。尤も、ゴス・コル夫妻の嘘を見抜きながらも取引をするところや、契約の履行を覆そうとしないところなどは、前王よりも支配者として優れていると思いますが。
ほぼオズとは関係のないところで物語が進んで行ったこともあったせいか、他作品との矛盾点やツッコミどころもほとんどなかったと思います。今回はオズの視点からすると、あくまでも世界で起こった出来事の1つ、だったのでしょう。なので、オズの世界観に何の影響も及ぼしませんでした。オズ要素はいかにも付け足しといった感じでしたが、それよりもビリーナが登場しなかったことが残念でした。ノーム王が出たならビリーナも出てほしかったです…。
(7/12 追記)
タイトルの「オズのリンキティンク」って変だなと思っていたら、原題は“Rinkitink in Oz”でした。