びんのなか

想い出話や感想文など。読書メモが多め。ネタバレだらけです。

オズのブリキの木樵り

 オズシリーズ10作目。ブリキの木樵りが主役。助っ人にあらず。どちらかというとホラー寄りだったと思う。ポリクロームが大活躍でした。

 

 

 

ーあらすじー

 ブリキの木樵りの城を訪れた少年ウートに、ブリキの木樵りは自分の身の上話をしてやります。その流れで元婚約者ニミー・エイミーに会うため、かかし、ウートとともに旅に出ます。

 ブリキの木樵りの変なプライドの為に、エメラルドの都を避けて通るルートを選んで、北のギリキンの国を通ることにしました。ルーンの国を抜けて、とてつもなく大きな城を見つけた一行は、城の中にうっかり入ってしまいました。その城には、恐ろしい魔法を使うユープ夫人が住んでいたのです。ユープ夫人の魔法でブリキの木樵りはブリキのフクロウに、かかしは藁のクマに、ウートは緑色のサルに姿を変えられてしまいます。先に捕らえられてカナリアに変えられていたポリクロームとともに城を脱出した一行は、マンチキンの国にあるジンジャーの家に行きます。

 一方ブリキの木樵りの旅立ちから様子を見ていたオズマとドロシーは、木樵りたちを助けるため、ジンジャーの家へと向かいます。そして、オズマの魔法により、それぞれ元の姿に戻るのでした。

 こうして当初の目的通り、木樵りたちはニミー・エイミーの家へと向かいます。その途中で、木樵りそっくりのブリキの兵隊が錆びついて動けなくなっているのを助けます。彼は、ファイター大尉といって、彼もまたニミー・エイミーの婚約者だったのです。そして、彼がブリキの兵隊になってしまった理由も、ブリキの木樵りと同じようなものでした。ファイター大尉も加わって、ニミー・エイミーの家に行きますが、彼女の家には誰もいませんでした。

 事情を何か知っているのではないかと、一行はブリキ職人クー・クリップの家を訪れます。クー・クリップによると、ニミー・エイミーはマンチ山に住んでいるそうです。

 マンチ山に着いて、ようやくニミー・エイミーとの再会を果たしますが、既に彼女はチョップファイトという、ブリキの木樵りとファイター大尉の生きている頃の体のパーツを寄せ集めて作られた合成人間と結婚していたのです。

 旅の目的を一応果たし、ポリクロームは空に帰り、ブリキの木樵りたちは一旦エメラルドの都へ行きます。盛大にもてなされたあと、ウートは再び旅に出ました。オズマは、ファイター大尉についてはギリキンの未開の人々を治めるよう派遣することにしました。そして、木樵りとかかしはウィンキーの城へと帰ったのでした。

 

ー登場人物ー

ブリキの木樵り:本名ニック・チョッパー。結構ナルシスト。恋心を失い、ニミー・エイミーのこともずっと忘れていた。

かかし:ブリキの木樵りの大親友。今回も彼の知恵はほとんど役に立たなかった。

ウート:流れ者の少年。退屈な故郷を出て、あちこち放浪している。自分の要求はしっかりするが、誰かを困らせるようなことはしない。常識人。

ポリクローム:好奇心旺盛で賢い虹の妖精。妖精なので、そこそこ魔法が使える。いつも踊っている。

オズマ:オズの支配者。妖精のお姫さま。かなり強い魔法が使える。

ドロシー:オズマの親友。素朴で優しい女の子。冒険好き。

ジンジャー:かかしの心強い友人。とても器用で、かかしのメンテナンスをしてくれる。きつめの性格だが、根は優しい。

ファイター大尉:ブリキの木樵り同様、ニミー・エイミーに恋をしたがために魔女に魔法で結果的にブリキ人間になった。彼もまた、ブリキ人間になったことで恋心を失った。

クー・クリップ:ものすごく有能なブリキ職人。とても厄介なものを作り上げた。

チョップファイト:クー・クリップが悪い魔女の所持品だった<魔法のノリ>で作った合成人間。材料はブリキの木樵りとファイター大尉の切断された体のパーツ。腕が足りなかったため片腕はブリキでできている。とても厄介な性格の持ち主。

ニミー・エイミー:ブリキの木樵りとファイター大尉の元恋人。とても美しいマンチキンの娘。<東の魔女>と同居していた。かなり独特の感性の持ち主。

ミセス・ユープ:「オズのつぎはぎ娘」に登場した巨人ユープの妻。強力な魔法を使うユークーフー(魔法を使う種族の一種?)。人のよさそうな大女だが、非常に冷酷な性格をしている。

 

ーその他ー

☆ニミー・エイミーと東の魔女

 「オズの魔法使い」ではニミー・エイミーは老婆と暮らしており、老婆が東の魔女に頼んでブリキの木樵りとの結婚を妨害しようとした。東の魔女とは暮らしていない。

☆ブリキの木樵りのニッケルメッキは?

 確かニッケルメッキを施されて錆びなくなったはずだが…?(オズのエメラルドの都)

☆オズの国

◇年をとらない

 かつては砂漠に囲まれた封じられた国に過ぎなかったが、ある時妖精の女王ラーラインが魔法をかけて、国の統治者として妖精を一人残して行った。それからオズはおとぎの国となり、そこに住む者は誰も年をとらない。

◇絶対に死なない

 体が切断されても細切れになっても、それぞれが生きている(恐ろしすぎる;)。

☆魔法使いの9匹のコブタ

 旅の途中で出会ったブタノ夫妻が昔立ち寄った魔法使いに譲ったらしい。「オズと不思議な地下の国」では、魔法使いが<チンマリ島>産のコブタを、船乗りがロサンゼルスまで届けてもらったとなっている。

☆魔法使いと妖精

 魔法を使うことを禁じられているオズの世界だが、妖精はもともと魔法を使える種族なので対象外らしい。

 

ー感想ー

 そんなに登場人物の数は多くなかったように思います。物語としては、<ブリキの木樵りの昔の恋人に会いに行く>を旅の目的としていましたが、前半の大きな山場ミセス・ユープのエピソードが強烈すぎて、当初の目的自体を忘れかけました。後半でしっかりと目的を果たしましたが。

 ミセス・ユープ。今までの悪役とは一線を画す恐ろしい女性。彼女の厄介なところは、強力な魔力に加え、頭が良いこと。恐れるものがなく無自覚な残酷さでブリキの木樵りたちの逃げ道を断って追い詰めるところなんて、サイコホラーみたいでした。

 もう一つの見どころとしては、ブリキの木樵りそっくりのブリキ人間ファイター大尉の登場でしょう。性格は木樵りに比べてややおおざっぱな感じがします。二人とも、元恋人ニミー・エイミーに対する恋心を失っているわけですが、義務感から結婚をしようと考えています。本来恋敵となるはずの二人ですが、彼女に対する恋愛感情が一切ないため、むしろ相手に押し付けたい感じになっています。女性にとってこんな失礼なことはありません。こんな相手なら、願い下げです。とはいえ、ニミー・エイミー自体がかなり個性的な性格なので、まったく問題ありませんでした。ブリキ人間になっても気にしないくらい愛情深い、というよりはかなり現実的で恋愛に夢見るタイプで決してなさそう。…元からそんな性格だったのか、木樵りと兵隊のせいでそうなったのかは分かりませんが(もともときつい性格ではあったらしい)。とりあえず不幸になった人がいなくてよかったです。

 今回、世界観の恐ろしさが際立っていた気がしました。永遠に年をとることなく死なないこと―夢のような話のように書かれていますが、自分が細切れになってもそれぞれが生きていることが本当に素晴らしいことなのかは、甚だ疑問です。実際、チョップファイターのようなトラブル(?)もあるわけですし。また、赤ちゃんは赤ちゃんのまま、老人は老人のままーこちらもぞっとします。永遠に変化のない(精神的には成長する)世界は、なんとなくRPGを思い出しました。この世界で新たな生命の誕生はあり得るのでしょうか…?