びんのなか

想い出話や感想文など。読書メモが多め。ネタバレだらけです。

オズのかかし

 オズシリーズ9作目。どんどん感想が長くなっている気がする…。読んでくださっている方、本当にありがとうございます。もっと簡潔に書けたらいいのですが;

オズのかかし オズの魔法使いシリーズ

オズのかかし オズの魔法使いシリーズ

 

 

 

ーあらすじー

 トロット(女の子)と親友キャプテン・ビル(おじいさん)は、渦潮に飲まれて洞窟の中に連れて行かれます。そこで出会った不思議な飛行生物オークとともに洞窟を脱出して、人の悪口しか言えない男の住む島に出ます。島を後にした一行は<モーの国>で永遠の迷子ボタン・ブライトと出会い、オズのカドリングの国の端にあるジンクスランド王国に辿り着いたのでした。オークとは一旦ここで別れます。

 ジンクスランドにはレイコク王という冷酷な王様がいて、金持ちの男グーグリ・グーと姪のグロリア姫を結婚させるため、彼女の恋人である庭師のポンとの仲を引き裂こうとしていました。ちなみに正当な王位継承者はグロリア姫です。

 このゴタゴタで魔女の魔法によりキャプテン・ビルはバッタにされ、グロリア姫は心を凍らされて感情を失います。その頃、グリンダは<魔法の本>でトロットたちの困った状況を知り、かかしをジンクスランドへと送り込んでいました。かかし(というより戻ってきたオーク)の活躍で、魔女に魔法を解かせることに成功します。そして無事グロリア姫が女王となるのでした。

 グリンダと同様にオズマもトロットたちの様子を見ていました。そして、オークと別れてカドリングにいるトロットたちを、ドロシーとベッツィは迎えに行きます。エメラルドの都に着いた彼らは、オズの愉快な仲間たちに歓迎されます。そして、長い旅の末、(ボタン・ブライトを除いて)ようやく落ち着くことができたのでした。

 

ー登場人物ー

トロット:主人公。勇敢でしっかり者。以前にも他作品(オズシリーズに非ず)で冒険を経験していたらしく、非現実的な出来事にも動じない。妖精の祝福を受けているため、災難からも護られているらしい。カリフォルニア出身。

キャプテン・ビル:トロットの保護者であり親友。片足が義足。思慮深い。元船乗り。

ボタン・ブライト:永遠の迷子。トロット達とは別の冒険からの知り合い。口癖だった「わかんない」は言わない。今回はちゃんと会話が成立している。フィラデルフィア出身。

オーク:軽いノリだが仲間想いのいいヤツ。あらゆる場面で大活躍。

かかし:自由気まま。とても親しみやすい性格で、みんなから好かれている。今回はまったくといっていいほど役に立たなかった(むしろ足を引っ張っていた)。

キユウ:他人のあら捜しばかりしている心の貧しい人。

コブコブマン:<モーの国>に住む全身コブだらけの男。陽気でマイペース。

レイコク王:ジンクスランド王国の現国王。恐怖政治を敷き、国民から恐れられている。前王を亡き者にして王座を奪った。元は前王の総理大臣。

グロリア姫:レイコク王の姪で、前々王の娘。心優しく美しい姫君。父は前々王。

ポン:グロリア姫の恋人。庭師だが本当は前王の息子。優しくて気弱な若者。

カッタメ:悪い魔女。多額の報酬を要求して王の依頼を受ける。最後はかかし(が使ったグリンダの魔法)によって無力化された。

グリンダ:オズマと同様あらゆることに気を配っている<よい魔女>。絶大な魔力を持つ。

オズマ:オズの絶対的支配者。同世代の女の子の友人が増えて楽しそう。

ドロシー:オズの王女。あくまでも普通の少女。朗らかな性格。

ベッツィ:内気で、不思議な出来事になかなか馴染めないでいるらしい(そんなばかな)。ドロシーと仲良し。

魔法使い:多方面でオズマをサポートしている。

木挽き台の馬:相変わらず疲れ知らず。今回も迎えの馬車を引いた。

 

ーその他ー

☆オズの国の知名度

 トロットもオズのことを知っていた。オズは有名なおとぎの国として広く認知されているらしい。

☆トロットの両親

 あとがきによると、キャプテン・ビルは同じく船乗りだったトロットの父親と友人同士で、片足を事故で失ってからトロットの母親のところで下宿することになった。まったく両親については出てこないので詳細は不明だが、この作品に関して言えばトロットとキャプテン・ビルの2人で生きてきたようにも思える。

☆モーの国

 レモネードの雨が降り、ポップコーンの雪が降る。あとがきによると国中がお菓子でできた国らしい。

☆ジンクスランド王国の王位継承問題

 シンセツ王の娘がグロリア姫。グロリア姫が姪であるので、レイコク王はシンセツ王の弟(または兄)と思われる。ということは、本来ならシンセツ王の大臣だったユウモウ王ではなくレイコク王が王位に就く方が妥当なのでは?むしろ元大臣が王になった後に大臣となったレイコク王の方が立場的には気の毒。レイコク王の性格が災いして周囲の同意が得られなかったのか、シンセツ王が予めレイコク王には王位を譲らないと宣言していたのか。

☆閉ざされていたはずのオズの国

 外の世界だけでなく、おとぎの国からも隔絶されていたはずのオズ。今回トロットたちはあっさり砂漠を越えられた。グリンダの魔法が綻びてきたのだろうか。妖精の祝福を受けたトロットがいたから…とか?

 ☆赤い馬車

 真珠やルビーが散りばめられている元荷馬車。木挽き台の馬が引いている。固有名詞で当たり前のように登場したが、過去に出てきた記憶がない…。

→ どうやら「オズのエメラルドの都」から出ていたみたいです(2019/10/2 追記)

 

ー感想ー

 穏やかで優しい雰囲気の物語。序盤は一切オズのメインキャラクターが登場しないこともあって、別の冒険物語を読んでいるようでした。

 トロットとキャプテン・ビルのコンビは、いいバランスだったと思います。トロットは勇気があってしっかり者。キャプテン・ビルは慎重に行動する、責任感のある大人です。この2人ならどんなことでも乗り越えられそう。

 また、久し振りに登場したボタン・ブライトは、以前と全然印象が違いました。前に出てきたときは、困った幼い男の子だったのですが、今回はちょっとつかみどころのない不思議な男の子といった感じです。容姿もとにかく天使のように愛らしいイメージでしたが、今回は特にそういった描写はありませんでした。なんか、迷子というアイデンティティ以外はもはや別人。

 ジンクスランドの騒動で面白かったのは、ポンの描写がザンネンだったこと。容姿についても特に優れたような描写はなく、性格もいわゆるヘタレです。実際トロットも彼のどこがいいのか、いまいち理解できていなかったようでした。オークもグロリア1人で十分だと思っていたようですし。完璧なキャリアウーマンと平凡でとりえのない夫…ドラマなどでよく見る、そんな構図が浮かびました。

 タイトルにもなっていた<かかし>は、チクタク以上に役に立ちませんでしたが存在感はありました。自分から灰になりに行ったようなものでしたよ。オークが来てくれてよかったね。最初の頃はオークのことをちょっと空気読めないヤツだなーなんて思っていましたが、最後の方なんか本当にかっこよかったです。

 とはいえ、かかしののんびりした雰囲気は、物語のテンポによく合っていたと思います。決して退屈ではなく、むしろあっという間に読めました。辿り着く場所がそれぞれとても個性的で、エピソードも面白かったです。悪者たちもしっかり懲らしめられましたし。オズマやグリンダの手助けの加減も丁度良い感じでした。