びんのなか

想い出話や感想文など。読書メモが多め。ネタバレだらけです。

懐かしのゲーム(4)幻想水滸伝

 すごく好きでした。今でも好きです。

 弟がFF9をやっていたのを見て、RPGやりたいっと思って買ったのがきっかけです。中古ゲームを適当に探して見つけたのが「幻想水滸伝Ⅱ」。タイトルを何となく聞いたことがあったのと、イラストがきれいだったことで選びました。

 やり始めて思ったのが、なんかこれ前作からの続きなんじゃ…。そりゃ「Ⅱ」なんだからそうなんでしょうが。絶対に「Ⅰ」からやるべきでした。本当に。登場人物たちが懐かしそうに会話しているのを、かなり疎外感を感じながら見ていました。

 

幻想水滸伝Ⅰ>

 Ⅱからやり始めたこともあって、イラストの違いにちょっとびっくりした気が。こちらの方も味があって好きです。Ⅱをやっててまったくわからなかった「坊ちゃん」が主人公です。かなり重いストーリーで、ハッピーエンドにはなりません。個人的には108星揃わない方のエンディングの方が好き。主人公の背負ってしまったものの重さと切なさが伝わってきます。仲間はたくさんいるけれど、ものすごく孤独な主人公でした。

 キャラクターは物語の性質上、大人が多く登場します。仲間の中で主人公の親友ポジションのキャラクターはいませんね。こういったところが余計に彼の孤独を強く感じました。テッドのエピソードは何度見ても悲しいです。過去の村に行った時に流れる音楽が余計に悲しい。

 印象的だったのはエルフのシルビアが仲間になるシーン。主人公たちのことは怖いけどキルキスが信じるものなら信じられる、みたいなことを言っていた彼女がすごく愛おしかったです(うろ覚えなのでちょっと違うかもしれませんが)。あと、ラスボス戦前のタイ・ホーとヤム・クー(とキンバリー)の会話が面白くて好きでした。ちなみに好きなキャラクターはクレオです。最終戦にも連れて行きました。

 

幻想水滸伝Ⅱ>

 Ⅰに比べてあらゆる面で大幅にボリュームアップした続編。ストーリーも複雑になり、登場人物たちのキャラクターや人間関係も厚みがありました。ドット絵も表情豊かでかわいいです。

 主人公はⅠに比べてやや幼さの残る少年といった印象。こちらの方が優しくて精神的に逞しい気がします。義姉のナナミのおかげでか、あまり孤独な印象はありません。とはいえエンディングによって彼の人生が大きく変わるので、孤独となるかどうかはプレイヤー次第かも。ノーマルエンディングはかなり切なかったです。

 ストーリーも好きですが、キャラ達が本当に楽しめる作りになっていました。あらゆる会話パターンを試したくなるし、目安箱や探偵への依頼も全部見たくなります。サイドストーリーやサブイベントも充実していたし、そういった意味でも本当に面白かったです。

 ある意味もっとも印象に残ったのはルカ。ものすごく強烈なインパクトの持ち主で、ラスボスより明らかに遥かに目立ってました。めちゃくちゃ強くて、あっさり全滅したため本当にこれ倒せるのかと疑ってしまいました。それまでの戦闘でそんなに苦労することがなかったから尚更しんどかった…。

 

<幻想水滸外伝>

 Vol.1と2、両方プレイしました。OPアニメは良かったのですが…。ゲームの出来以前にテキストADVというものが私には向いていないと思いました。途中までやって放置していましたが、Ⅲにデータが引き継げるということで攻略サイトを駆使してクリアしました(引き継いだからと言ってそんなにお得感はない)。

 

幻想水滸伝Ⅲ>

 前作から色々な意味で大きく変わった作品。賛否両論あったみたいです。私は十分楽しみました。仲間が集結してからラストまでが駆け足すぎでしたが。それまでが丁寧に描かれていた分、落差が激しすぎました。ええっ、もう終わり?みたいな。そんなわけでストーリーも終盤付近までは良かったと思います。ラストに関しては不満ではありませんが、もう少し捻ってほしかったです。システム自体は楽しかったです。あと、OPアニメがすごく良かった。

 キャラクターについては、主人公たち一行というかメインキャラたちは本当に丁寧に描かれていたと思います。なので、それぞれに感情移入しやすくて、トーマスを含め、どの章の主人公も好きでした。一方、旧作からの引継ぎキャラは正直微妙でした。わざに引継ぎキャラ作らなくてもよかったのでは…?と。たとえば、星辰剣出るならもうちょっとビクトールの話題出してほしかったし、せめてシエラが出てくれれば…といった感じです。個人的にはメグの娘が出るくらいなら、ヒックスとテンガアール(あるいは彼らの子ども)が出てほしかったです。自分の思いとはちょっとずれがありました。

 

 Ⅳ以降はやっていないので、よく分かりません。シリーズ自体完結していないのが残念です。回収されていない伏線があるので、完結してほしかった(ⅣとⅤやってない私が言うのもなんですが)。

 

幻想水滸伝 ティアクライス

 ナンバリングタイトルとは全く世界観を別とした新作。幻想水滸伝なので108星集めとか本拠地システムなどはあります。

 このゲーム、母の暇つぶし用に買ったため私自身はプレイしていません。母の隣でサポートする程度だったので、全部見たわけでもありません。でも、隣で見ていて面白かったです。ストーリーもきれいにまとまっていたと思います。ただ、声がついていてびっくりしました。

 主人公はかなり自己主張が強かったです(悪い意味じゃありません)。主人公を支えてくれる幼馴染たちもいるし、そういった意味では今までの主人公のたちよりだいぶ恵まれてるなと思いました。

 

オズまとめ(1)

 オズシリーズ14冊全部読んだ感想と考察(?)を。主に「エメラルドの都」くらいまで。

■□感想■□

 (たぶん)20年以上前に読んだせいか、ほとんど内容を覚えていませんでした。いや、本当に読んだのか疑わしいレベルで。

 あらためて読み直すと、いろんな意味で面白かったです。とにかく作品ごとにツッコミどころが多くて、他作品との矛盾点だらけでした。設定がころころ変わっているので、あまり深く考えてはいけないと思いつつも、やはり気になります。そのあたりを自分なりの適当な想像で補うと楽しいと思います。それにしても、「ええっ…どういうこと?」を感じずに済んだ作品て、ほぼなかったような…。敢えて言えばリキティンクくらいか。特に「オズのエメラルドの都」でいったん完結したせいか、「オズのつぎはぎ娘」以降はパラレルワールドではないかというくらい設定が違いました。

 

  オズシリーズを一言でいえば「おもちゃ箱」でした。とても色とりどりで楽しいものがたくさん入っている、そんな感じです。作品それぞれが独立した個性をもっていて、ドロシー以外の視点で語られている番外編や外伝的作品も多いです。また、作品自体の構成も複数のパターンがあるので、そこまでマンネリ感を感じませんでした。

 作品全体の共通点としては「ハッピーエンド」これに限ります。すべてが丸く収まって、みんな幸せになります。悪いものは懲らしめられ、正しい道へと導かれます。ご都合主義といえばそれまでですが、そこがオズの素晴らしいところだと思います。

 また、女性が強く描かれているのも特徴かと。あまり気弱なキャラクターは出てきません(ぱっと思い出すのって、「オズのチクタク」に登場したバラの王女くらい?)。大抵の女性キャラは気が強くてさっぱりしています。ネコやメンドリなど、人間でないものまで、みんな気が強く、自立しています。一方の男性陣は、どちらかというと穏やかな性格のキャラクターが多いです。が、よくわからないところでプライドが高い。たいてい変なこだわりで言い争っているのは男性(人間以外含む)キャラクターです。

 オズシリーズはあまり押しつけがましい教訓のない作品で、子どもが読むことを念頭に置かれているためか、とても素直で優しい世界です。登場人物たちは裏表のない性格で、複雑な思考回路の持ち主もいません。その一方で、社会的な問題については考えさせられる場面が多く見受けられました。子ども向けにデフォルメされてはいますが、作品ごとに何かしらの問題提起がありました。1900年~1920年にわたって書かれたこのシリーズは、日本ではまだ明治時代~大正時代(!)だったようです。それでも今でも十分通用するような問題が多く、時代関係なく同じような問題があるんだなと感じました。

 第1作目の「オズの魔法使い」がすごく有名ですが、それ以外ではいったん完結した「オズのエメラルドの都」までが比較的知られているのではないでしょうか(「オズと不思議な地下の国」「オズへつづく道」は番外編みたいなものなので除く。この2作は当初翻訳もされていなかった)。ディズニー版の映画では「オズの虹の国」「オズのオズマ姫」が元になっているし、私が子供の頃に放送していたアニメは「オズのエメラルドの都」までを再編したような内容だったみたいです。

 ここでちょっとアニメ版の思い出について。あまりにも昔に見たので、あまり憶えていませんが、とにかくオズマがかわいくなかったことにショックを受けた記憶があります。持っている本の挿絵のオズマが美少女だったので、かなり期待していたのですが…。たぶん面白かったはず。最後まで見たはずなので。

 「オズの魔法使い」は別格ですが、それ以外だと「オズのエメラルドの都」までであれば「オズのオズマ姫」が好きです。ドロシーとオズマの合流や、ノーム王初登場など重要イベントが多く、前2作の登場人物がほとんど登場します。何より大好きなビリーナが大活躍するのです(後半ほとんど登場しなくなったのが本当に残念)。物語自体もテンポよく楽しめました。

 

■□考察■□

■ オズの国

 地球上の何処かにおとぎの国があって、その中の国の1つがオズ。何処にあるかは不明だが、地図上には存在しないと思われる。イメージとしては「まっくら森のうた@谷山浩子」。

 オズの国の住人(はじめからオズに存在している者)がすべて細胞レベルで不老不死なうえ、動物が喋ることができる。ただし、これは「おとぎの国」でもオズだけのようで、周辺国にこういった特性があるわけではない。なので、バラ王国へたどり着いたロバのハンクは喋ることができなかったし(オズのチクタク)、ピンガリー島のインガ達には死が存在する(と思われる。少なくとも不老ではない)。(オズのリンキティンク)そうなると、インガやリンキティンクが何年後かにオズを再び訪れた場合、インガ達だけが年をとっていて、オズの住人はそのまま…ということになるのだろうか?

 外の世界から来た者については、いちおう不老となるが不死であるかどうかはわからない。子供向けの作品なのでアレだが、おそらくオズには生殖行為は存在しないのではないだろうか。そうでなければ人口過密状態に陥ってしまうだろうし、成長というものが存在しない世界において必要がないように思われる。きっとラーラインの魔法によってオズの国は得たものも大きかったけれど、失ったものもそれなりにあったのではないだろうか。それにしても永遠に赤ちゃんであるとか、その成長しない赤ちゃんを育て続ける母親とかってある意味怖い。

■ おとぎの国

 あらゆる不思議なものが存在する世界。人間や動物には分類できないような不思議な生物が数多く存在している。その中には魔法を使うことができる者、不老不死やものすごく長寿な者などがいる。おそらく妖精ははじめから不老不死の存在。

■ オズマ

 少なくとも「オズのエメラルドの都」までは妖精の設定はなかったと思う。ポリクロームもそうだが、「オズのブリキの木樵り」で当たり前のように魔法を使っていてびっくりした(ポリクロームは「オズのチクタク」で妖精であると明言されていたが)。

 当初の設定では、オズ王家の末裔。ちゃんと父(と祖父)がいた。しかし、その後ラーラインがオズの支配者として置いて行った妖精という設定に。

■ オズマの魔法

 登場してしばらくは魔法が使える感じではなかったので、魔法を使う能力はあったけれど、はじめは知識や技術が足りない状態だったのだろう。“オズマ”に戻るまではずっと普通の人間の男の子だったから。

■ オズの歴史(私の妄想なのであまり真剣に受け取らないでください;)

1.おとぎの国の砂漠の中心にオズという国があった。この国はオズ王家によって治められていた。

2.ある時4人の魔女が王を誘拐して王位を剥奪し、東西南北にオズを分割した。王は北のモンビによって幽閉された。その後、王の息子(と妻)も幽閉された。

3.北と南はよい魔女がわるい魔女を斃して、支配権を剥奪した(依然王とその息子は幽閉されたまま)。

4.オマハから<魔法使い>がやって来て、エメラルドの都をつくりオズを統一した。

5.オズの前支配者について知った<魔法使い>がモンビを訪れた。モンビは真実を語らず、知らぬ存ぜぬを貫き通していた(罰せられることを恐れたから?)。

6.前王の息子の妻は子ども(=オズマ)を身籠っていた。その頃、偶々上空を通りがかった妖精の女王ラーラインがオズを「理想郷」に変えることにした。そのためには妖精の支配者が必要だと考えたラーラインは、オズの正統な支配者の血を引く胎内にいるオズマを妖精とした。

7.オズマが生まれてオズは理想郷となった。オズマが生まれたことを知ったモンビはオズマと両親、祖父を殺すことにした。オズマは妖精であるため殺すことができず、人間の男の子に変身させ、妖精の力を封印することが精々だった。そして、オズは「完全な理想郷」ではなくなってしまい、(不老)不死の効果は停止した。このためオズマの両親たちは殺されてしまった。(少なくとも何年かは不老不死の世界だったと思われる。ブリキの木樵りがブリキ人間になったくらいだから)

8.ドロシーが竜巻でオズの国へやって来て、西と東の悪い魔女が消滅する。<魔法使い>は外の世界へと帰り、かかしがオズの支配者となる。<オズの魔法使い

*この頃のオズには「死」が確実に存在していた。「オズの魔法使い」は結構残酷な描写が多い。

9.ジンジャーによるクーデターでかかしが王座を剥奪される。その後、グリンダによってオズマが元の姿に戻り、妖精の力を取り戻したことで、オズは再び「理想郷」となる。<オズの虹の国>

10.ドロシーが嵐の海原から再びオズへやって来て(厳密にいうとエヴの国だが)、オズマと出会う。ドロシーとオズマは親友となり、ドロシーはオズの王女となる。<オズのオズマ姫>

11.ドロシーが地震で三度オズへ(最初に着いたのはおとぎの国の別の場所)。この冒険で<魔法使い>と再会。<魔法使い>はオズの住人となる。<オズと不思議な地下の国>

12.ドロシーがオズマの誕生日パーティーに呼ばれる。ここで出会ったモジャボロがオズの住人となる。<オズへつづく道>

13.ドロシーがオズマに頼んでヘンリーおじさん、エムおばさんとともにオズの住人となる。以前打ち負かしたノーム王が復讐を企てたため、グリンダによってオズは外の世界から(周囲の国からも?)隔絶される。<オズのエメラルドの都>

 

 

 

 

 

 

オズのグリンダ

  オズシリーズ14作目。こちらで最終作となります。あとがきによると、作者のボームは死の直前までかかってこの作品を書き上げたとのことでした。そんなわけで、完結ではないようです。

オズのグリンダ オズの魔法使いシリーズ

オズのグリンダ オズの魔法使いシリーズ

 

 

 

ーあらすじー

 グリンダを訪れたドロシーとオズマは、<魔法の本>でスキーザーとフラットヘッドが争っていることを知ります。オズの支配者として争いを止めるため、オズマはドロシーと2人だけでこっそり未知の国へと旅立ちます。

 フラットヘッドたちの最高執行官サイ-シツから話を聞いたうえでオズマは、争いを止めるよう忠告します。しかし、耳を貸さないサイ-シツはオズマとドロシーを捕えようとします。一瞬の隙をついて逃げ出した2人はスキーザーの国へ向かいます。

 スキーザーたちの女王クーイーオーと面会したオズマは、自分たちが両者の争いを仲裁するために来たことを伝えます。クーイーオーもサイ-シツと同様にオズマの話を聞き入れず、オズマとドロシーは捕らえられてしまいます。そして、2人は世話をしてくれることになったレディ・オーレックスから、争いの本当の原因を聞いたのでした。

 フラットヘッドたちの攻撃に備えて、スキーザーたちの住むドームは島ごと湖中に沈められました。クーイーオーは潜水艇で攻撃に出ます。ところがサイ-シツと対峙したクーイーオーは、ダイヤモンド・スワンに変身させられてしまいます。このため、クーイーオーは魔法を使うことができなくなり、彼女の魔法で沈められた島は浮上することができず、湖中に閉じ込められたのです。

 2人の危機を知ったグリンダは緊急でオズの重要人物たちを招集し、対策会議を開きます。話し合いの結果、グリンダたちはスキーザーの魔法の島へ行くことにしました。

 潜水艇に取り残されていたスキーザーの若者エルヴィックは、クーイーオーの魔法で3匹の魚となっていた<魔法の達人>に導かれ、ユークーフーの<赤毛のリーラ>を訪れます。そしてリーラの魔法で<魔法の達人>たちは元の姿に戻ったのです。

 <魔法の達人>たちの協力もありグリンダたちは、魔法の島を浮上させてオズマとドロシー(とスキーザーたち)を救出することに成功します。そして、スキーザーとフラットヘッドの争いも終わり、平和がもたらされたのでした。

 

ー登場人物ー

*主要なキャラクターだけです。多すぎた…。オズの救出隊メンバーは<その他>の項に記載しています。

ドロシー:主人公。活発で好奇心旺盛な女の子。オズマとは大親友。

オズマ:オズの支配者。絶対的存在ではあるはずだが、オズマの存在自体を知らない者たちも多い。とても強い魔力を持った妖精。非常に高い理想をもっていて妥協を許さない。

グリンダ:オズでもっとも力のある魔女。沈着冷静で、オズマの忠実で有能な部下。

魔法使い:グリンダの弟子。優秀な魔法使い。

サイ-シツ:フラットヘッドの支配者。自己中心的な性格で、権力を振りかざしている。脳ミソ缶を3つ取り込んでいるため、他のフラットヘッドより頭が良い。

ローラ:サイ-シツの妻で魔女。脳ミソ缶を4つも持っていたため、強い力を持つ魔女であったが、クーイーオーによって黄金のブタに変えられてしまった。

クーイーオー:スキーザーの女王。傲慢で冷酷。非常に研究熱心で優秀な発明家の魔女。ダイヤモンド・スワンの姿が気に入ったため、何事に対する興味も失った。

レディ・オーレックス:聡明なスキーザーの女性。クーイーオーのお気に入りだったため、多くの情報を持っている。救出された後は新たなスキーザーの女王となった。

エルヴィック:スキーザーの若者。クーイーオーとともに潜水艇に乗っていた兵士のリーダー。誠実で機転が利く。

スクラップス:つぎはぎ娘。陽気で落ち着きがなく、自由な言動で周囲を困惑させることもあるが、非常に頭が良い。今回も彼女の知恵が役立った。

赤毛のリーラ:ユークーフー(魔法使いの一種らしい)で変身の名人。滅多に本当の姿に戻ることはない。他人に干渉されることもすることも嫌う。ひねくれているが、悪人ではない。

魔法の達人:フラットヘッドを治めていた3人の美しい少女たち(フラットヘッドではない)。魔法を使ってフラットヘッドだけでなくスキーザーにも、さまざまな恩恵を与えていた。クーイーオーの策略で魚の姿へと変えられてしまった。(これが原因で、スキーザー、フラットヘッドそれぞれを傲慢な独裁者が治めるようになった。)

 

ーその他ー

☆銀の王笏

 オズマが魔法を使うための王笏。攻撃や防御もできる武器でもある。

☆魔法の指輪

 ドロシーがグリンダから渡された指輪。危険な状態にあることをグリンダに知らせることができる。

☆魔法のベルト

 身につけたものをあらゆる危難から守ってくれる。他にも色々できるが、今回は特にベルトの魔法が役に立つことはなかった。

☆オズマ

 妖精の女王ラーラインがオズをおとぎの国へと変えた時、オズを治める妖精を1人措いて行った。それがオズマ。(シリーズ序盤のオズマの父、祖父の話は…??)

☆グリンダのチャリオット

 空飛ぶチャリオット。白鳥が引いていたはずだが、今回はなぜかコウノトリだった。

☆フラットヘッド

 魔法の山に住んでいる。頭が真っ平らで脳ミソの収容スペースがないので、脳ミソの缶詰をポケットに入れている。脳ミソの缶詰はラーライン(妖精の女王)がオズをお伽の国としたついでにくれたらしい。

☆スキーザー

 魔法の島の建てられたガラスのドーム内の都市に住んでいる。ドームや内部の大理石の建物は<魔法の達人>たちによって作られた。身体的な特徴は特にないと思われる。

 

☆オズマの相談役

 かかし、ブリキの木樵り、スクラップス、モジャボロ、チクタク、カボチャ頭のジャック、キャプテン・ビル、ヒキノバシ・ウォグル・ムシノスケ、ヘンリーおじさん、オズの魔法使い

*相談役以外の救出隊同行者

 ベッツィ、トロット、ボタン・ブライト、オジョ、ガラスのネコ、臆病ライオン

 

ー感想ー

 前作「オズの魔法くらべ」のほのぼのとした雰囲気と違って、ややシリアスな内容となっていました。今回もほぼオズに住む主要人物はほとんど登場していました。

 オズの片隅にある国に平和をもたらすお話です。争っているスキーザーとフラットヘッド両国とも支配者だけが強い力を持っていました(国民は虐げられている)。特にスキーザーの場合、クーイーオーがいなければ魔法で動いていた仕掛けのすべてが使えず、島が沈んだままとなってしまいます。一部(というか1人)が大切な情報などを独占していると、その人の身に何かあった場合、後どうしたらいいんだって話の典型例のようでした。

 この物語のテーマの一つとして、「魔法が万能ではない」ということがあると思います。魔法がすべて「無」から生み出されるわけではなく、仕掛けや道具が必要となっていて、方法がわからなければ使うことも解除することもできません。そういったことが今作では特に強調されていたように感じられました。

 スキーザーの国の文明は近代的で(動力源が魔法であったとしても)機械が多用されています。そういったことを発明したクーイーオーはかなり進歩的な人物で、伝統的な魔女のイメージのグリンダとは対照的でした。グリンダの有能さは、魔法というよりむしろ、冷静な判断力や統率力といった形で表れていました。

 また、ドロシーとオズマの2人が一緒に行動するのは「オズのオズマ姫」以来ではないでしょうか。そもそもオズマがエメラルドの都の宮殿から離れることがあまりないので、当たり前なのですが。オズ全土の支配者としてその責務を全うしようとしているオズマと、あくまでも普通の少女ドロシーの違いがはっきりと描かれていて、オズマに比べてドロシーは(考え方が)かなり幼く思えました。

 全体としてはきれいにまとまっていて、中だるみすることなく楽しめました。3人の<魔法の達人>たちのエピソードは、どれもおとぎ話らしくて好きです。潜水艇などの近代的な要素と伝統的なおとぎ話の要素がほどよく混ざっていたと思います。ただ、オズの住人たちの不思議で面白い会話はあまりなかったので、そこが少し残念でした。

 

 

 

 

  

オズの魔法くらべ

  オズシリーズ13作目。冒頭の作者のことばやあとがきに書かれていますが、作者のボームは病に冒されながら作品を執筆していたようです。

オズの魔法くらべ (ハヤカワ文庫NV)
 

 

ーあらすじー

 マンチキンの少年キキ・アルーはこっそり変身の魔法を盗み出し、国を飛び出してあちこちの国を渡ります。そしてエヴの国で元ノーム王のラゲドーと出会います。ラゲドーに唆されて、キキはオズへ攻め込む手伝いをすることにしたのです。

 そんなわけで、キキはラゲドーとともに<ごたまぜ・けもの>ラ=サ=ワ(ラゲドー命名)に変身して、ギリキンにある森のググ王(ヒョウ)を訪れます。ラゲドーはググにオズに攻め込むよう焚きつけます。

 その頃、オズマ姫のバースデープレゼントとして、トロットは魔法の島にある魔法の花を、ドロシーはサルを10匹ほど手に入れようと考えていました。トロットはキャプテンビルとともに、ガラスのネコの案内で魔法の島へと向かいます。一方、ドロシーは魔法使いとともに、臆病ライオンと腹ぺこタイガーに乗ってギリキンの森へと向かいます。

 なんとか魔法の島へとたどり着いたトロット達は、ここで思わぬ災難に遭います。トロットとキャプテン・ビルの足から根が生えて島から離れられなくなってしまったのです。ガラスのネコは助けを呼びにオズの宮殿へ戻ります。

 ググの森へやって来たドロシー達はググ王に会って、サルを貸してほしいと頼みます。その様子を見て動揺したキキは魔法を使ってドロシー達だけでなく、ググ王まで違った姿へと変身させます。その後、魔法使いがキキの魔法を盗み聞いて元の姿に戻り、キキとラゲドーを木の実に変えてしまいました。そしてググとの交渉の末、ドロシー達はサルを借りることができました。

 ドロシー達を追って来たガラスのネコに話を聞いたドロシー達は、トロット達を助けに行きます。無事島から離れることができたトロットたちは、<魔法の花>を手に入れることができました。

 エメラルドの都の宮殿ではオズマのパーティーが盛大に催され、トロットやドロシーのプレゼントも各々のプレゼントを贈ったのでした。そして、彼らの冒険談を聞いたオズマは、木の実となった彼らを元の姿に戻すよう告げます。元の姿に戻ったキキとラゲドーは<忘却の水>を飲んで、すべてを忘れてしまったのでした。

 

ー登場人物ー

ドロシー:主人公。行動力があり機転が利く女の子。

トロット:ドロシーの友人。まっすぐな性格。

魔法使い:ドロシーとは古い付き合いの友人。数々の冒険を共にしてきた。陽気な老人で、様々な魔法を使うことができる。

キャプテン・ビル:トロットの親友。片足が義足の年老いた船乗り。温厚で冷静な大人。

臆病ライオン:穏やかで優しいライオン。

腹ぺこタイガー:良心をもっているため常に飢えている。

ガラスのネコ:ガラスでできた美しいネコ。ピンクの脳とルビーの心臓を持っていて、うぬぼれが強く冷たい性格。おだてに弱い。ものすごいスピードで世界のあちこちを駆け回っている。

グリンダ:最高位の魔法使い。美しい大人の女性。

キキ・アルー:父親が優秀な魔術師のマンチキンの少年。根性悪で小心者だが、頭は良くないため一人で何かができるわけではない。警戒心は強い。

ラゲドー:元ノーム王。オズの国への強い憎しみを持つ。弁の立つ策略家だが、思慮の浅さと気の短さが災いしてうまくいかない。

ググ:ググの森の支配者。冷静で公正な判断をする。クマ、灰色類人猿、ユニコーンの3頭が相談役。

ひとりぼっちのアヒル:色とりどりの羽毛を身にまとう孤高のアヒル。魔術が使える。

 

 

ーその他ー

☆ガラスのネコ

 「オズのつぎはぎ娘」のラストで、魔法使いが<ピンクの脳>から<透明の脳>に入れ替えて、つつましく行儀のよいネコになったはずだったのでは…?明らかに性格が以前より悪くなっている上に、こんなに行動的ではなかった気がする。

☆オズの国での外の世界から来た人たち

  永遠に生きることができるか、病気にかからないのかは今のところ不明。オズマでさえわからないらしいので、ドロシー達はとりあえず注意深く守られる。

☆グリンダの魔法の本

 オズの国の“人々”が何事かをすると本に書き込まれる。鳥やけものが何かをしても書き記されない。

 ☆ラ=サ=ワ

 ライオンの頭と、サルの体と、ワシの翼と、先っぽに金の球飾りのついたロバのしっぽを持つ<ごたまぜ・けもの>。

ー感想ー

 前作「オズの消えたプリンセス」の方が「魔法くらべ」だった気もしますが…。それはともかく、今回もドロシーが主人公の「オズの国」でのお話です。

 見どころとしては、まずは悪役でお馴染みのラゲドー。国を追い出されたようです。カリコに追い出されたのか、ラゲドーが自ら出ていったのかは分かりませんが。本当に懲りない人です。

 トロットとキャプテン・ビル、ドロシーと魔法使い、といった2組の少女とおじさん(老人?)コンビが冒険に出るわけですが、それぞれに個性があって面白かったです。キャプテン・ビルはどっちかというとトロットの保護者っぽいですが、魔法使いはドロシーの相棒といった感じです。

 ガラスのネコは存在を忘れかけていたので、こんなに活躍するとは思っていませんでした。やや「つぎはぎ娘」の頃とはキャラクターが変わっていますが、やはりユリカとは相性が悪いようです。

 興味深かったのはググの森のけものたちです。ググは王としてけもの達を治めています。このググ王は支配者というより統治者と言った印象でした。相談役の3頭は個性的で、ユニコーンが単純で好戦的な性格であるのに対し、クマは慎重で保守的、灰色類人猿は平和主義者。争いごとが起きれば、それに対する罰を協議して決定します。また、オズに攻め込むといった重要な決定には森のけもの全員を参加させて、それぞれが自分で考えて答えを出すよう言い渡します。最終的な判断はググが下すのでしょうが、かなり民主的だと思いました。独裁的なオズ(ググの森もオズの一部だが、オズの支配からは独立していてお互い不干渉みたい)とは対照的です。けもの達のほうが民主的というのがなんだか面白いです。そもそも民主的な国って今までに登場しなかった気がします。

 今回オズシリーズとしては目立った特色がなかったように思います。オズマの誕生日プレゼントを手に入れる冒険の裏側でラゲドーがオズへの復讐を企て、最後は忘却の水を飲んですべてを忘れる流れは「オズのエメラルドの都」と似ていました。「エメラルドの都」に比べて、危機感がなくほのぼのとしていますが。ラゲドーとキキは初めからお互いをまったく信用しておらず、いつか出し抜いてやろうと考えています。そんな信頼関係のなさから、計画自体が失敗に終わります(このあたりのラゲドーとキキのやり取りは面白いです)。ラゲドーと違い、キキの中途半端さは大それたことをやるのに向いてなかったのでしょう。何も分からないうちにすべてを失ったと思うとちょっと憐れ。ドロシー達もわけがわからなかったでしょうが。

 誕生日パーティーに数多くのキャラクターが集まってオズマを祝う場面は、とても華やかで楽しいものでした。本当にレギュラーというか、オズに住んでいるキャラクターはほとんど登場していました。スクラップスがグリンダの隣、というのが可笑しかったです。こういう場面ってイラストが見たいなあ。

オズの消えたプリンセス

 オズシリーズ12作目。今回は久し振りに“オズ”です。ドロシーが大活躍でした。

 

オズの消えたプリンセス (ハヤカワ文庫NV)

オズの消えたプリンセス (ハヤカワ文庫NV)

 

 

 

ーあらすじー

 ある日オズマが忽然と姿を消します。そして、オズマの部屋からは<魔法の絵>も。それどころか、グリンダの<魔法の本>やその他の魔法の道具や薬、魔法使いの魔法の道具一式が入ったかばんも、何もかもが無くなっていたのです。

 そんな一大事にとあって、さっそくオズマ捜索隊が組まれ、それぞれ各方面へと出発します。ドロシーは、ベッツィ、トロット、魔法使い、ボタン・ブライト、スクラップス、臆病ライオン、ハンク、木挽き台の馬、ウージイとウィンキーへ探しに行くことにしました。途中でこっそりついて来たトトも合流します。

 その頃、ウィンキーの国のはずれに住むクッキー職人のケーキの大切な洗い桶もなくなっていました。ケーキは国で一番の知恵者(と思われている)カエルマンとともに洗い桶探しの旅に出ます。

 ドロシー達はウィンキーの未開の土地を進みながらオズマの行方を探します。なかなか手掛かりが見つからない中、ハークの都でドロシー達は有力な情報を得ます。以前ハークには靴職人のウグという魔術師がいたそうなのです。この人物がオズマや魔法の道具の数々を盗んだに違いないと考えた一行は、ウグのもとへと向かうことにしました。

 一方、カエルマンとケーキはクマ・センターの王ラベンダー・グマとピンクのコグマのおかげで、探している洗い桶は靴職人ウグが持ち去ったことが分かります。ケーキの必死の頼みで、ウグのもとへ行くのにクマ王とピンクのコグマが同行してくれることになりました。

 そして、ウグの城へ向かうドロシー達とカエルマン達がとうとう鉢合わせました。お互いの事情を話し合った上で、両者は協力することにしたのです。

 妨害に遭いながらも何とかウグのもとに乗り込んだ一行でしたが、またもやウグの魔法で危機に陥ります。ドロシーが魔法のベルトを使ってこの危機から脱すると、さらにドロシーは魔法のベルトの力でウグをハトに変えます。ところが、ハトに変身したウグは、ケーキの洗い桶を使って逃げてしまいます。

 ピンクのコグマのおかげでオズマも見つかり、奪われた魔法とウグの魔法の道具のすべてを持って、一行はようやくエメラルドの都への帰還を果たします。洗い桶は、かかしと木樵りが偶然手に入れて持ち帰ってきました。ウグはというと、心を入れ替えてハトのままで生きていく決意をしたのでした。

 

ー登場人物ー

ドロシー:主人公。カンサス出身。オズマの親友でオズの王女。数々の冒険を経験しているだけあって、ちょっとやそっとのことでは動じないしっかり者。

ベッツィオクラホマ出身。ドロシーより1つ年上。

トロット:カリフォルニア出身。ドロシーより1つ年下。

オズマ:みんなに慕われるオズの支配者。たいへん美しい妖精の少女。

グリンダ:オズマに仕える<よい魔女>。膨大な魔法の知識を持つ。

魔法使いオマハ出身。グリンダとともにオズの国で魔法を使うことが許されている。

ボタン・ブライトフィラデルフィア出身。しょっちゅう迷子になっている。

スクラップス:自由奔放なつぎはぎ娘(パッチワークの人形)。実は頭が良い。

トト:ドロシーの愛犬。今回は普通に喋っている。自己主張が強い。

臆病ライオン:自分で臆病だと思い込んでいるライオン。穏やかで優しく思慮深いが、トトに対しては結構ドライ。

木挽き台の馬:オズマの愛馬(?)。シリーズ通して大活躍。冷静。

ハンク:ベッツィの親友のロバ。気が短くて愚かなところがある。

ウージイ:四角い箱の集合体のような不思議な生き物。スクラップスと仲がいい。

カエルマン:高慢で野心家のカエル。<真実の池>に入ってしまい、本当のことしか言えなくなった。

ケーキ:イップ人のクッキー職人。代々受け継がれている洗い桶がなければ美味しいクッキーが焼けないらしい。洗い桶が最優先事項。清々しいくらい自分のことしか考えていない(でも憎めない)。カエルマンとはいいコンビ。

ラベンダー・グマ(クマ王):クマ・センターを治めている。王笏で見たいものの幻を映すことができる。

ピンクのコグマ:ネジを巻くと喋る。過去に起きた事実なら何でも教えてくれる。

ウグ:元々ハークの都に住んでいた靴職人。魔術師だった曾祖父の資料を研究して魔術の腕を上げた。

かかしとブリキの木樵り:親友同士。お互い生身でないこともあって、とても気が合う。

 

ーその他ー

☆オズの国の住人と外の世界の住人

 オズの住人は原則不老不死。病気にもかからない。実際、オジョが「ぼくをやっつけてしまうことはできないよ」と言っている。一方、魔法使いによると「わしらは自分たちで気をつけなくては」と言っているので、外から来た者は年は取らないが死なないわけではないらしい。

☆魔法のベルト

 ノーム王から取り上げたもの。使い方さえわかれば色々できるらしい。ドロシーが知っていることは、身に着けている者の身を守ってくれること、1日に1つ願いをかなえてくれること、変身させること(たぶん無制限)。

☆トロットの指輪

 海で困ったことがあれば人魚を呼んで助けてもらえる。

☆ケーキの洗い桶

 宝石をちりばめた黄金の洗い桶。呪文を唱えると大きくなってオズの好きなところへ移動することができる。

☆オズマ捜索隊

*グリンダが指名。何とも微妙なグループ分け。キャプテン・ビルは留守番。

マンチキン

 オジョ、ナンキーおじさん、ピプト博士

 → 馴染みの国だから(確かに。危険には向かない)

■カドリング

 かかし、ブリキの木樵り

 → 勇敢で疲れ知らずだから(ウィンキーではないのか)

■ギリキン

 モジャボロ、モジャボロの弟、チクタク、カボチャ頭のジャック

 → 危険がいっぱいだから(…??モジャボロ兄弟は外の世界出身だけど大丈夫?)

■ウィンキー

 ドロシー、あとはおまかせ(あらすじ参照)

 → (カドリングの方が危ないからというグリンダの配慮だろうか)

☆色々な国

■イップの国

 ウィンキーのはずれにある台地にある国。イバラの茂みで囲まれている。

■アザミ族の住む都

 幻の石壁に囲まれた都。身体の中が純金で内張りされていてアザミを食べる一族が住む。長はココ=ローラム。機械仕掛けのドラゴン型チャリオットが自慢。

■ハークの都

 巨人たちを従える痩せっぽちのハーク人が住む。ハーク人はゾソーゾという薬を飲んで大変な力持ちになっている。

■クマ・センター

  ぬいぐるみ(たぶん)のクマたちが住んでいる。

 

-感想ー

 「オズのエメラルドの都」以来、久し振りにエメラルドの都が物語の中心となっています。主人公もドロシーです。その他、ベッツィやトロット、魔法使い、ボタン・ブライト、スクラップスなどが登場して、かなり豪華な顔ぶれとなっています。今回は、冒険物語というよりはサスペンスに満ちた物語でした。国の中心で起きた大事件(オズマの行方不明と魔法道具の消失)と国のはずれで起きた小さな事件(クッキー職人の洗い桶紛失)という、一見何の関係もなさそうな2つの出来事。それぞれの視点で物語が進んで行って合流する展開は、わくわくしました。また、敵の正体が途中まで明かされなかったり、オズマの居場所のヒントが出されていたりと、先が気になる展開となっていました。

 久し振りにドロシーが活躍したのも嬉しかったのですが、それ以上に臆病ライオンがメインで登場してくれたのが嬉しかったです。「オズの魔法使い」のメインキャラクターの中で一番影が薄いライオン。かかしやブリキの木樵りの強い個性に押されていまいちぱっとしない印象でしたが、今回はしっかりとスポットライトが当たっていました。トトがライオンに相談(?)しても、返答が辛辣です。「悩むのは勝手だけど、ボクには関係のないことだ。巻き込まないでくれ」ーみたいな感じで。人生経験豊かな大人と子どもの会話みたい。トトは幼いイメージ。臆病ライオンだけでなく、トト、ハンク、ウージイ、木挽き台の馬といった人間以外のキャラクターの会話が多いのが楽しかったです。かかしとブリキの木樵りは本当に仲良しで、会話もほのぼのとしていました。

 興味深い会話と言えば、スクラップスがカエルマンに「洗い桶なら別のものを使えばいいじゃない」みたいなことを言った時の返答として、カエルマンは「なぜきみたちは別の支配者を立てないのか。いなくなった人の方がいいからだろう。それと同じで(ケーキは)自分の洗い桶がいいんだ」と言います。それ以前にドロシー達がハークの大皇帝から「あなたたちが賢明なら国のために新しい支配者を選ぶだろう」との忠告を受ける場面があったので、なおカエルマンの言葉が重く感じられました。ちなみに、トトもなぜか大切なうなり声を失います。こちらはまったく気に留められていませんでしたが。

 悪役として登場したウグは、ハークの大皇帝が言うように「厳密な意味での悪党ではない」です。野望自体が悪意から生まれたわけではなく、目的を達成する手段が悪事だということで。どっちにしろ、たいそう迷惑な悪党でした。ハトになって反省して、元の姿に戻ることを自ら拒否したところは、今までの悪役との大きな違いだと思います。

 それよりいつも思うことですが、オズ(というよりはエメラルドの都)の危機管理意識ってものすごく低いです。警備がザル。しかも、オズの支配者といっても、支配されていることすら知らない者たちの多いこと。原則性善説によって成り立っているオズの世界は、危険に対する防衛手段をほとんど講じていません。いろんな意味で大丈夫じゃない気がします…。

 読んだのが昔すぎて、ほとんど覚えていない中で、今回は珍しく「洗い桶」と「ハト」だけは記憶にありました。ドロシーがへウグを<平和のハト>ではなく<ハト>に変身させたところはものすごく印象的だったのでしょう。ここだけはちゃんと覚えてました。それにしても黄金で宝石が散りばめられた洗い桶って、めちゃくちゃ重そう…。調理器具でもないのに、なんでこれがあったらクッキーがうまく焼けるのか。

 

 

オズのリンキティンク

 オズ11作目。といってもオズはあんまり関係ない感じでしたが。オズの登場人物はどちらかというとゲスト出演っぽいです。

 

 

ーあらすじー

 とても美しくて豊かな島国ピンガリーは、ある時北方の双子島レゴスのとコレゴスに攻め込まれます。略奪と破壊の限りを尽くされ、国王や島民たちはすべて奴隷として連れて行かれてしまいました。運よく見つからなかったインガ王子は、お忍びで訪れていたリンキティンク王と喋るヤギのビルビルを見つけます。そして、王子は一族に伝わる3つの魔法の真珠を持ち出し、リンキティンク王とビルビルとともに連れ去られた両親と島民を助けるため、北の国を目指します。

 レゴスに着いたインガは魔法の真珠のおかげで、あっさり制圧します。ゴス王は妻コル女王がいるコレゴスへと逃げました。一方、インガは眠っている間に大切な真珠を入れていた靴を2つとも失くしてしまいます。これによって無力となったインガは、コル女王に捕えられコレゴスへと連れて行かれます(王子が無力であることは女王は知らない)。

 炭焼きのニコボブは、偶々見つけたインガの靴を拾って娘のゼラに贈ります。プレゼントされた靴を履いてゼラは、女王のもとへ蜂蜜を届けに来ました。女王に仕える身となっていたインガは、ゼラと靴を取り換えて魔法の真珠を取り戻します。そして、レゴスとコレゴスの両方を制圧して、ピンガリーの島民を解放するのでした。

 ところが残念なことに、ゴスとコルがインガの両親キチカット王とガリー王妃を人質として連れ去ります。彼らはノーム王に人質を絶対に逃がさないよう閉じ込めておいてほしいと頼んだのです。

 ノーム王のもとに訪れたインガ達は、罠によって殺されかけますが、魔法の真珠のおかげて難を逃れます。とはいえ両親を解放することもできず、ただ時間だけが過ぎていくだけでした。そんな折、遠く離れたオズでこの様子を見ていたドロシーが魔法使いとともに助っ人として現れます。そしてインガの両親は解放され、一行はオズのエメラルドの都へと迎えられるのでした。

 

ー登場人物ー

インガ:主人公。ピンガリーの王子。聡明で勇敢な心優しい少年。

リンキティンク王:とても楽観的で自由奔放なリンキティンク国の王様。笑うことが大好きで、いつも笑って歌っている。

ビルビル:偏屈者の喋るヤギ。リンキティンク王の相棒(?)。ガリガリらしいが、リンキティンク王を乗せても平気なので、かなりの力持ち。

ニコボブ:レゴスの炭焼き。正直者で仕事ができる有能な人物。ピンガリーの宮廷の侍従長官となり、あらゆる事業を取り仕切る。

ゼラ:ニコボブの娘。勇気があって優しい女の子。

キチカット王ピンガリーの王でインガの父。心配症ではあるが、賢く善良な王様。

ガリー王妃:インガの母。

ゴス王:レゴスの王。野蛮な悪党。

コル女王:コレゴスの女王で、ゴス王の妻。こちらも残忍な性格で、ゴス王に比べて悪知恵が働く。

カリコ:ノーム王。ラゲドー(前ノーム王)ほどではないが、ちょっと悪者っぽくなっている。合理的で政治的手腕にも長けた人物。

ドロシ:正義感の強い女の子。気も強い。

魔法使い:有能な魔法使い。ビルビルの正体を見抜いた。

オズマ:心優しいオズの支配者。とても親友想い。 

グリンダ:最強の魔女。ビルビルにかかっていた魔法を解いた。

 

ーその他ー

☆3つの魔法の真珠

 ピンガリーの王家に伝わる秘宝。所持している者だけに効果がある。ピンガリー王家の者に限って効果があるわけではないので、誰が持っていても効果がある。

<ピンクの真珠>・・・あらゆる危難から身を守る。

<青の真珠>・・・どんな力でも楯突くことができない強力な力を与える。

<白い真珠>・・・賢明な助言を与える(要は真珠が喋って導いてくれる)。

 「矛盾」という言葉を思い出したのは私だけではないと思う。ピンクの真珠を持った人に青の真珠を持った人が攻撃したらどうなるんですかね…。

☆死の砂漠

 オズの周りを囲む砂漠。生きている者が通ることはできない。妖精の力か魔法を使わない限り。…グリンダの魔法はどうなったんだろう。

 

-感想ー

 毎回冒頭部に作者ボームによる作品紹介みたいなのがあるのですが、そこでも触れられているように、今回はオズとほぼ別物のような物語となっています。最終的にはオズの国へたどり着き、盛大な晩餐会でみんなが顔をそろえるわけですが、そこまでの過程は同じ世界観の別の物語、といってもいいくらいでした。また、最後に主人公たちがみんなそれぞれの場所へと帰ってしまうのも、いつものオズとの違いだと思います。

 「オズのかかし」もどちらかというと別の物語みたいでしたが、今回は「オズ」に辿り着くのが本当に終盤で、それまではオズ関連のものは一切登場しません(オズと同じ世界観であることは始めの方に書かれている)。

 物語自体は「故郷を滅ぼされた主人公が魔法のアイテムを使って故郷と両親を取り戻す」といったもので、わりとよくある感じのものです。それでも、美しい国が無残に破壊されていく場面は心が痛みました。そして、魔法の真珠を1度失うところも意外性がなくてもハラハラします。主人公のインガは真面目な優等生タイプで、比較的感情移入しやすいキャラクターでした。そんなわけで、ノーム王やドロシーが登場するまでは、それなりに楽しめるシンプルな冒険物語となっていました…リンキティンク王がいなければ。この作品の個性的な面白さは、タイトルにもなっているリンキティンク王なくしてはありえません。

 リンキティンク王は傍迷惑なところもありますが、情に厚く意外と冷静な判断ができる大人です。そのため、インガの足を引っ張ることはほとんどありません(靴を失くした件ではインガにも落ち度はあった)。むしろ、大事な時には決してミスを犯さない人でした。絶望の淵にいるインガの傍にいてくれたのが、非常識なレベルの陽気さをもったこの王様で本当によかったと思いました。始めのほうは、うわーなんか自由すぎてめんどくさい人だ、とか思ってましたが、コル女王やノーム王を相手に機転の利いたやり取りをやってのけるあたりでは、この人の賢さが表れていました。

 物語の終盤、ドロシーが登場してノーム王に囚われたインガの両親を解放する、という展開は、オズシリーズとしては納得のいくものでしたが、1つの独立した物語としては正直微妙な気がしました。ずっとインガが頑張っていたことを考えると、ちょっとなあ…と。まあ、オズシリーズなので、いいんですけどね。今回のカリコは「オズのオズマ姫」の頃のノーム王(ロークワット)のようでした。尤も、ゴス・コル夫妻の嘘を見抜きながらも取引をするところや、契約の履行を覆そうとしないところなどは、前王よりも支配者として優れていると思いますが。

 ほぼオズとは関係のないところで物語が進んで行ったこともあったせいか、他作品との矛盾点やツッコミどころもほとんどなかったと思います。今回はオズの視点からすると、あくまでも世界で起こった出来事の1つ、だったのでしょう。なので、オズの世界観に何の影響も及ぼしませんでした。オズ要素はいかにも付け足しといった感じでしたが、それよりもビリーナが登場しなかったことが残念でした。ノーム王が出たならビリーナも出てほしかったです…。

 

(7/12 追記)

 タイトルの「オズのリンキティンク」って変だなと思っていたら、原題は“Rinkitink in Oz”でした。

オズのブリキの木樵り

 オズシリーズ10作目。ブリキの木樵りが主役。助っ人にあらず。どちらかというとホラー寄りだったと思う。ポリクロームが大活躍でした。

 

 

 

ーあらすじー

 ブリキの木樵りの城を訪れた少年ウートに、ブリキの木樵りは自分の身の上話をしてやります。その流れで元婚約者ニミー・エイミーに会うため、かかし、ウートとともに旅に出ます。

 ブリキの木樵りの変なプライドの為に、エメラルドの都を避けて通るルートを選んで、北のギリキンの国を通ることにしました。ルーンの国を抜けて、とてつもなく大きな城を見つけた一行は、城の中にうっかり入ってしまいました。その城には、恐ろしい魔法を使うユープ夫人が住んでいたのです。ユープ夫人の魔法でブリキの木樵りはブリキのフクロウに、かかしは藁のクマに、ウートは緑色のサルに姿を変えられてしまいます。先に捕らえられてカナリアに変えられていたポリクロームとともに城を脱出した一行は、マンチキンの国にあるジンジャーの家に行きます。

 一方ブリキの木樵りの旅立ちから様子を見ていたオズマとドロシーは、木樵りたちを助けるため、ジンジャーの家へと向かいます。そして、オズマの魔法により、それぞれ元の姿に戻るのでした。

 こうして当初の目的通り、木樵りたちはニミー・エイミーの家へと向かいます。その途中で、木樵りそっくりのブリキの兵隊が錆びついて動けなくなっているのを助けます。彼は、ファイター大尉といって、彼もまたニミー・エイミーの婚約者だったのです。そして、彼がブリキの兵隊になってしまった理由も、ブリキの木樵りと同じようなものでした。ファイター大尉も加わって、ニミー・エイミーの家に行きますが、彼女の家には誰もいませんでした。

 事情を何か知っているのではないかと、一行はブリキ職人クー・クリップの家を訪れます。クー・クリップによると、ニミー・エイミーはマンチ山に住んでいるそうです。

 マンチ山に着いて、ようやくニミー・エイミーとの再会を果たしますが、既に彼女はチョップファイトという、ブリキの木樵りとファイター大尉の生きている頃の体のパーツを寄せ集めて作られた合成人間と結婚していたのです。

 旅の目的を一応果たし、ポリクロームは空に帰り、ブリキの木樵りたちは一旦エメラルドの都へ行きます。盛大にもてなされたあと、ウートは再び旅に出ました。オズマは、ファイター大尉についてはギリキンの未開の人々を治めるよう派遣することにしました。そして、木樵りとかかしはウィンキーの城へと帰ったのでした。

 

ー登場人物ー

ブリキの木樵り:本名ニック・チョッパー。結構ナルシスト。恋心を失い、ニミー・エイミーのこともずっと忘れていた。

かかし:ブリキの木樵りの大親友。今回も彼の知恵はほとんど役に立たなかった。

ウート:流れ者の少年。退屈な故郷を出て、あちこち放浪している。自分の要求はしっかりするが、誰かを困らせるようなことはしない。常識人。

ポリクローム:好奇心旺盛で賢い虹の妖精。妖精なので、そこそこ魔法が使える。いつも踊っている。

オズマ:オズの支配者。妖精のお姫さま。かなり強い魔法が使える。

ドロシー:オズマの親友。素朴で優しい女の子。冒険好き。

ジンジャー:かかしの心強い友人。とても器用で、かかしのメンテナンスをしてくれる。きつめの性格だが、根は優しい。

ファイター大尉:ブリキの木樵り同様、ニミー・エイミーに恋をしたがために魔女に魔法で結果的にブリキ人間になった。彼もまた、ブリキ人間になったことで恋心を失った。

クー・クリップ:ものすごく有能なブリキ職人。とても厄介なものを作り上げた。

チョップファイト:クー・クリップが悪い魔女の所持品だった<魔法のノリ>で作った合成人間。材料はブリキの木樵りとファイター大尉の切断された体のパーツ。腕が足りなかったため片腕はブリキでできている。とても厄介な性格の持ち主。

ニミー・エイミー:ブリキの木樵りとファイター大尉の元恋人。とても美しいマンチキンの娘。<東の魔女>と同居していた。かなり独特の感性の持ち主。

ミセス・ユープ:「オズのつぎはぎ娘」に登場した巨人ユープの妻。強力な魔法を使うユークーフー(魔法を使う種族の一種?)。人のよさそうな大女だが、非常に冷酷な性格をしている。

 

ーその他ー

☆ニミー・エイミーと東の魔女

 「オズの魔法使い」ではニミー・エイミーは老婆と暮らしており、老婆が東の魔女に頼んでブリキの木樵りとの結婚を妨害しようとした。東の魔女とは暮らしていない。

☆ブリキの木樵りのニッケルメッキは?

 確かニッケルメッキを施されて錆びなくなったはずだが…?(オズのエメラルドの都)

☆オズの国

◇年をとらない

 かつては砂漠に囲まれた封じられた国に過ぎなかったが、ある時妖精の女王ラーラインが魔法をかけて、国の統治者として妖精を一人残して行った。それからオズはおとぎの国となり、そこに住む者は誰も年をとらない。

◇絶対に死なない

 体が切断されても細切れになっても、それぞれが生きている(恐ろしすぎる;)。

☆魔法使いの9匹のコブタ

 旅の途中で出会ったブタノ夫妻が昔立ち寄った魔法使いに譲ったらしい。「オズと不思議な地下の国」では、魔法使いが<チンマリ島>産のコブタを、船乗りがロサンゼルスまで届けてもらったとなっている。

☆魔法使いと妖精

 魔法を使うことを禁じられているオズの世界だが、妖精はもともと魔法を使える種族なので対象外らしい。

 

ー感想ー

 そんなに登場人物の数は多くなかったように思います。物語としては、<ブリキの木樵りの昔の恋人に会いに行く>を旅の目的としていましたが、前半の大きな山場ミセス・ユープのエピソードが強烈すぎて、当初の目的自体を忘れかけました。後半でしっかりと目的を果たしましたが。

 ミセス・ユープ。今までの悪役とは一線を画す恐ろしい女性。彼女の厄介なところは、強力な魔力に加え、頭が良いこと。恐れるものがなく無自覚な残酷さでブリキの木樵りたちの逃げ道を断って追い詰めるところなんて、サイコホラーみたいでした。

 もう一つの見どころとしては、ブリキの木樵りそっくりのブリキ人間ファイター大尉の登場でしょう。性格は木樵りに比べてややおおざっぱな感じがします。二人とも、元恋人ニミー・エイミーに対する恋心を失っているわけですが、義務感から結婚をしようと考えています。本来恋敵となるはずの二人ですが、彼女に対する恋愛感情が一切ないため、むしろ相手に押し付けたい感じになっています。女性にとってこんな失礼なことはありません。こんな相手なら、願い下げです。とはいえ、ニミー・エイミー自体がかなり個性的な性格なので、まったく問題ありませんでした。ブリキ人間になっても気にしないくらい愛情深い、というよりはかなり現実的で恋愛に夢見るタイプで決してなさそう。…元からそんな性格だったのか、木樵りと兵隊のせいでそうなったのかは分かりませんが(もともときつい性格ではあったらしい)。とりあえず不幸になった人がいなくてよかったです。

 今回、世界観の恐ろしさが際立っていた気がしました。永遠に年をとることなく死なないこと―夢のような話のように書かれていますが、自分が細切れになってもそれぞれが生きていることが本当に素晴らしいことなのかは、甚だ疑問です。実際、チョップファイターのようなトラブル(?)もあるわけですし。また、赤ちゃんは赤ちゃんのまま、老人は老人のままーこちらもぞっとします。永遠に変化のない(精神的には成長する)世界は、なんとなくRPGを思い出しました。この世界で新たな生命の誕生はあり得るのでしょうか…?