びんのなか

想い出話や感想文など。読書メモが多め。ネタバレだらけです。

オズの魔法くらべ

  オズシリーズ13作目。冒頭の作者のことばやあとがきに書かれていますが、作者のボームは病に冒されながら作品を執筆していたようです。

オズの魔法くらべ (ハヤカワ文庫NV)
 

 

ーあらすじー

 マンチキンの少年キキ・アルーはこっそり変身の魔法を盗み出し、国を飛び出してあちこちの国を渡ります。そしてエヴの国で元ノーム王のラゲドーと出会います。ラゲドーに唆されて、キキはオズへ攻め込む手伝いをすることにしたのです。

 そんなわけで、キキはラゲドーとともに<ごたまぜ・けもの>ラ=サ=ワ(ラゲドー命名)に変身して、ギリキンにある森のググ王(ヒョウ)を訪れます。ラゲドーはググにオズに攻め込むよう焚きつけます。

 その頃、オズマ姫のバースデープレゼントとして、トロットは魔法の島にある魔法の花を、ドロシーはサルを10匹ほど手に入れようと考えていました。トロットはキャプテンビルとともに、ガラスのネコの案内で魔法の島へと向かいます。一方、ドロシーは魔法使いとともに、臆病ライオンと腹ぺこタイガーに乗ってギリキンの森へと向かいます。

 なんとか魔法の島へとたどり着いたトロット達は、ここで思わぬ災難に遭います。トロットとキャプテン・ビルの足から根が生えて島から離れられなくなってしまったのです。ガラスのネコは助けを呼びにオズの宮殿へ戻ります。

 ググの森へやって来たドロシー達はググ王に会って、サルを貸してほしいと頼みます。その様子を見て動揺したキキは魔法を使ってドロシー達だけでなく、ググ王まで違った姿へと変身させます。その後、魔法使いがキキの魔法を盗み聞いて元の姿に戻り、キキとラゲドーを木の実に変えてしまいました。そしてググとの交渉の末、ドロシー達はサルを借りることができました。

 ドロシー達を追って来たガラスのネコに話を聞いたドロシー達は、トロット達を助けに行きます。無事島から離れることができたトロットたちは、<魔法の花>を手に入れることができました。

 エメラルドの都の宮殿ではオズマのパーティーが盛大に催され、トロットやドロシーのプレゼントも各々のプレゼントを贈ったのでした。そして、彼らの冒険談を聞いたオズマは、木の実となった彼らを元の姿に戻すよう告げます。元の姿に戻ったキキとラゲドーは<忘却の水>を飲んで、すべてを忘れてしまったのでした。

 

ー登場人物ー

ドロシー:主人公。行動力があり機転が利く女の子。

トロット:ドロシーの友人。まっすぐな性格。

魔法使い:ドロシーとは古い付き合いの友人。数々の冒険を共にしてきた。陽気な老人で、様々な魔法を使うことができる。

キャプテン・ビル:トロットの親友。片足が義足の年老いた船乗り。温厚で冷静な大人。

臆病ライオン:穏やかで優しいライオン。

腹ぺこタイガー:良心をもっているため常に飢えている。

ガラスのネコ:ガラスでできた美しいネコ。ピンクの脳とルビーの心臓を持っていて、うぬぼれが強く冷たい性格。おだてに弱い。ものすごいスピードで世界のあちこちを駆け回っている。

グリンダ:最高位の魔法使い。美しい大人の女性。

キキ・アルー:父親が優秀な魔術師のマンチキンの少年。根性悪で小心者だが、頭は良くないため一人で何かができるわけではない。警戒心は強い。

ラゲドー:元ノーム王。オズの国への強い憎しみを持つ。弁の立つ策略家だが、思慮の浅さと気の短さが災いしてうまくいかない。

ググ:ググの森の支配者。冷静で公正な判断をする。クマ、灰色類人猿、ユニコーンの3頭が相談役。

ひとりぼっちのアヒル:色とりどりの羽毛を身にまとう孤高のアヒル。魔術が使える。

 

 

ーその他ー

☆ガラスのネコ

 「オズのつぎはぎ娘」のラストで、魔法使いが<ピンクの脳>から<透明の脳>に入れ替えて、つつましく行儀のよいネコになったはずだったのでは…?明らかに性格が以前より悪くなっている上に、こんなに行動的ではなかった気がする。

☆オズの国での外の世界から来た人たち

  永遠に生きることができるか、病気にかからないのかは今のところ不明。オズマでさえわからないらしいので、ドロシー達はとりあえず注意深く守られる。

☆グリンダの魔法の本

 オズの国の“人々”が何事かをすると本に書き込まれる。鳥やけものが何かをしても書き記されない。

 ☆ラ=サ=ワ

 ライオンの頭と、サルの体と、ワシの翼と、先っぽに金の球飾りのついたロバのしっぽを持つ<ごたまぜ・けもの>。

ー感想ー

 前作「オズの消えたプリンセス」の方が「魔法くらべ」だった気もしますが…。それはともかく、今回もドロシーが主人公の「オズの国」でのお話です。

 見どころとしては、まずは悪役でお馴染みのラゲドー。国を追い出されたようです。カリコに追い出されたのか、ラゲドーが自ら出ていったのかは分かりませんが。本当に懲りない人です。

 トロットとキャプテン・ビル、ドロシーと魔法使い、といった2組の少女とおじさん(老人?)コンビが冒険に出るわけですが、それぞれに個性があって面白かったです。キャプテン・ビルはどっちかというとトロットの保護者っぽいですが、魔法使いはドロシーの相棒といった感じです。

 ガラスのネコは存在を忘れかけていたので、こんなに活躍するとは思っていませんでした。やや「つぎはぎ娘」の頃とはキャラクターが変わっていますが、やはりユリカとは相性が悪いようです。

 興味深かったのはググの森のけものたちです。ググは王としてけもの達を治めています。このググ王は支配者というより統治者と言った印象でした。相談役の3頭は個性的で、ユニコーンが単純で好戦的な性格であるのに対し、クマは慎重で保守的、灰色類人猿は平和主義者。争いごとが起きれば、それに対する罰を協議して決定します。また、オズに攻め込むといった重要な決定には森のけもの全員を参加させて、それぞれが自分で考えて答えを出すよう言い渡します。最終的な判断はググが下すのでしょうが、かなり民主的だと思いました。独裁的なオズ(ググの森もオズの一部だが、オズの支配からは独立していてお互い不干渉みたい)とは対照的です。けもの達のほうが民主的というのがなんだか面白いです。そもそも民主的な国って今までに登場しなかった気がします。

 今回オズシリーズとしては目立った特色がなかったように思います。オズマの誕生日プレゼントを手に入れる冒険の裏側でラゲドーがオズへの復讐を企て、最後は忘却の水を飲んですべてを忘れる流れは「オズのエメラルドの都」と似ていました。「エメラルドの都」に比べて、危機感がなくほのぼのとしていますが。ラゲドーとキキは初めからお互いをまったく信用しておらず、いつか出し抜いてやろうと考えています。そんな信頼関係のなさから、計画自体が失敗に終わります(このあたりのラゲドーとキキのやり取りは面白いです)。ラゲドーと違い、キキの中途半端さは大それたことをやるのに向いてなかったのでしょう。何も分からないうちにすべてを失ったと思うとちょっと憐れ。ドロシー達もわけがわからなかったでしょうが。

 誕生日パーティーに数多くのキャラクターが集まってオズマを祝う場面は、とても華やかで楽しいものでした。本当にレギュラーというか、オズに住んでいるキャラクターはほとんど登場していました。スクラップスがグリンダの隣、というのが可笑しかったです。こういう場面ってイラストが見たいなあ。