びんのなか

想い出話や感想文など。読書メモが多め。ネタバレだらけです。

十二国記(4)東の海神 西の滄海

 エピソード3。延王と延麒の物語です。あらすじがいつも以上に雑です。話の順序がちょっと違うかもしれません。

 

■□あらすじ■□

 尚隆が延王として登極してから20年。ようやく雁の復興が軌道に乗り出した頃、漉水(元州に向かって流れる大河)の治水を早急に進める必要があった。そして元州できな臭い動きがあるという情報を尚隆は掴んでいた。そんな問題が上がっていた矢先、六太(延麒)が幼い頃に知り合った妖魔と生きる少年更夜に元州へ連れ去られる。更夜は元州州候の息子、斡由の臣下だった。

 漉水の治水が一向に進まないことから、王に不満を持った斡由は六太に王の全権を委ねる官を作るよう要求する。六太は斡由の言い分に一定の理解を示すものの、権力の譲渡については否定する。一緒に攫われた赤ん坊と牧伯(王の勅命による州候の監督)の驪媚を人質に、六太は更夜に角を封じられ囚われの身となる。

 元州からの要求を受けた尚隆は、それを拒否して元州の制圧を図る。兵を募りつつ、漉水に堤防を作るよう指示するのだった。一方の六太は、驪媚の犠牲により角の封印が破られる。再度更夜は封印を施すが、その位置は少しずれており、六太は血の穢れに病みながらも使令を呼ぶことが出来るようになっていた。

 女官に逃がしてもらった六太は、元州の兵に潜り込んでいた尚隆に救出される。その頃分が悪くなってきた元州では、斡由に対する不信感が漂い始めていた。焦燥感に駆られた斡由は、あろうことか王の命によって作られた堤を切るよう兵に命じる。

 斡由の本性を見た六太は、斡由に関弓へ戻ると告げる。斡由は尚隆に断罪される。断罪後背を向けた尚隆に斡由は切りかかったが、その瞬間六太と更夜がそれぞれの使令と妖魔の名を叫ぶ。そして斡由は六太の使令に喉笛を噛み切られる。更夜は妖魔が尚隆を襲うことを止めたのだ。この二人の行動が尚隆と斡由の勝敗を決し、尚隆は斡由の首を切る。

 尚隆は更夜に必ず妖魔と共生できる場所を作ると約束する。更夜は黄海で妖魔とともに待つと言って去って雁を去る。その後雁では乗騎と家禽に妖魔を含めるようになる。

 

* メインストーリーはこんな感じです。六太と尚隆の生い立ちや出会い、延王になるまでの話がこの間に組み込まれています。

 

■□登場人物■□

尚隆

 本名小松三郎尚隆。胎果で元は瀬戸内の小国の若主。村上に国も民も全て滅ぼされ、自身も死ぬ間際で六太に救われる。六太の「国がほしいか」との問いに「ほしい」と答え、延王となる。自由気ままでいいかげんそうに見えて、実は非常に有能な人物。行動的で頻繁に街に下りては情報収集をしている。

六太

 延麒。胎果で、4歳の頃、親に捨てられて死にかけていたところに迎えが来て蓬山へ帰還する。13歳で成長が止まり成獣となるが、精神年齢も13歳のままのようである。生い立ちの影響か豊かな国を強く願っているものの、「王」は国を滅ぼす者だと信じていたため、王を選ぶことを拒絶していた。主と同様、しょっちゅう朝議をすっぽかしている。不真面目なところもあるが、頭は良い(はず)。

 使令は悧角(黒い三尾の狼)、沃飛(白い翼、蛇の尾、鷲の下肢を持つ鱗に覆われた女怪)、その他。

■更夜

 親に捨てられ、妖魔(「大きいの」と呼んでいたが、後に「ろくた」と名付ける)に育てられた少年。妖魔は人を襲うため、人間と接することなく生きていた。偶然出会った六太に「更夜」と名付けられる。その後、斡由に保護され官(射士=警護の長官)となったため仙籍に入る(見た目は15~16歳くらい?)。妖魔と生きる自分を初めて理解してくれた斡由を盲目的に信頼している。

■ろくた

 更夜の育て親の天犬と呼ばれる妖魔。

■斡由

 表向きは非常に有能で人徳もある人物。ただし、自分の失敗を認めることができない性格のため、大きな矛盾を抱えている。失敗の原因がすべて自分以外にあると思い込み、汚い仕事を言外にさせる狡さがあるが、本人は自覚していない。

■朱衡(しゅこう)

 尚隆の側近。尚隆に与えられた別字は「無謀」。色白で痩身の優男。言葉遣いは丁寧。

■帷湍(いたん)

 尚隆の側近。尚隆に与えられた別字は「猪突」。気が短いが、律儀。おそらく朱衡と同じくらいの年齢。

■成笙(せいしょう)

 尚隆の側近。尚隆に与えられた別字は「酔狂」。褐色の肌を持つ痩身で小柄な若い男。優秀な軍人。

■驪媚(りび)

 尚隆に遣わされた元州の牧伯。女性。

■白沢(はくたく)

 元州州宰。斡由の部下。道理を弁えた人物。

■亦信(えきしん)

 成笙の部下(?)で更夜と出掛ける六太に護衛として付いて行ったが、「ろくた」に喰われる。

■毛旋(もうせん)

 成笙の元部下。尚隆の命により一時的に大司馬に就く。

 

■□メモ■□

■延王の騎獣

 「たま」という騶虞。

■世界を渡る

 麒麟のみなら大した災害にはならないが、王が渡ると大災害になるらしい。

■奏のうわさ

▪ 宗王は知恵者である

▪ 宗麟は玲瓏たる美女

▪ 市の統制に面白いことをやっている

■前延王

 梟王と呼ばれていた。当初は善政を敷くが、道を踏み外し斃れる。

麒麟の寿命(?)

 梟王が斃れた後、次の麒麟は新たな王を見つけられず、30余年の天寿が尽きてしまった。

 

■□感想■□

 番外編的なお話。ストーリーは重めですが、尚隆と六太が主人公ということもあり、テンポよく読めました。

 とにかく尚隆の有能さが際立っていました。普段はいいかげんで仕事もさぼりまくっているのに、実は改革の機を窺っていたとか、策略家の面を持っています。また、人を見る目もあるので、優秀で信頼のおける者であれば位など関係なく側に置き、周到に昇進させます。自分が王でいられるのは民がいるからだ、という考えは国を守る王として説得力があると思いました。

 一方、六太ですが、彼は尚隆がどうのというよりは「王」というものを信じていませんでした。尚隆が更夜に放った言葉は、むしろ六太に響いたと思います。この件があったからこそ、六太は延王・尚隆を信じたのでしょう。なんにせよ、六太が軽率だった…。彼が迂闊に更夜に付いて行きさえしなければ、死なずに済んだ人たちがいたわけですから。驪媚については六太の件がなくても殺されていたかもしれませんが、少なくとも亦信と赤ん坊、六太を逃がしてくれた女官は死ななかったはずです。

 今回の敵役となった斡由(と更夜)ですが、この2人と尚隆&六太との違いというか対比が面白かったです。

 無能そうで(?)実は切れ者の尚隆と、有能そうで実はたいしたことなかった斡由。それぞれに付く六太と更夜の違いも対照的で、尚隆を王として信じきれない六太と、斡由の歪みに目を背けて盲目的に信頼する更夜。

 斡由は傲慢で自分が誰よりも優れていると信じて疑わないおめでたい人物で、そんな彼のために六太を平気で傷つける更夜には終始いらいらしました。斡由の教育の賜物か、道理も弁えた礼儀正しい少年(いちおう官だし)…ですが、精神的にはかなり幼い印象でした。そんな彼をあっさり切り捨てられる斡由は本当にクズでした。六太のことを何だかんだ言って大切にしている尚隆とは大違いです。

 すべてが終わった後、尚隆が六太に厳しい言葉を掛けます。そしてその後に約束した言葉は温かいものでした。こんな頼りがいのある王に出会えた六太は幸せだと思います。「王」を選んでも必ずしもその人が善王とは限らないわけですから。斡由じゃありませんが、天の意志って何なんでしょう…。

 全体としては過去を織り交ぜながら物語が進んで行き、面白くわかりやすい内容だったと思います。登場人物たちも個性的で、会話も楽しめます。特に尚隆の側近3人組。この作品の面白さはこの3人組のおかげ、と言っても過言ではないくらいです。斡由は小者過ぎた気がしますが。ただ、驪媚の行動だけはちょっと納得できなかったです。驪媚が犠牲になって麒麟の角の封印を解いたところで、六太は血に病んでしまうだけということはわかっていたはずです。そうなると使令も呼べないし、いずれにせよ逃げられないのでは…?と思いました。封印にしても結局再度施されるということは予想できなかったのでしょうか。それとも驪媚は、尚隆が命を懸けるに値する人物であることを六太に伝えたかった…とか??一緒に死んでしまった赤ん坊がかわいそうでした。

 前作ではあくまでも豊かな雁が描かれていましたが、この国の悲惨さは慶や戴より酷かったのかもしれません。尚隆が道を踏み外さないよう祈るばかりです。

 最後にホワイトハート版との違い(?)について。完全版の側近3人組のイラストが自分のイメージとちょっと違いました。おそらく帷湍かと思うのですが、えらいおっさんで「えっ!?」となりました。3人とも若いと思っていたので。ホワイトハート版は朱衡以外顔がわからないので、気にならなかったのかもしれません。