びんのなか

想い出話や感想文など。読書メモが多め。ネタバレだらけです。

ナルニア国物語(5)馬と少年

 ナルニア国物語5作目。今までと違って、ナルニア(というか異世界)の住人が主人公です。

馬と少年―ナルニア国ものがたり〈5〉 (岩波少年文庫)

馬と少年―ナルニア国ものがたり〈5〉 (岩波少年文庫)

 

 ーあらすじー

 ペベンシー兄妹がナルニアの王だった頃、カロールメンに住む漁師の息子シャスタは父親に虐待を受ける日々を送っていました。ある日、貴族がシャスタの家に泊まった時に、その貴族は父親にシャスタを売るように言います。会話を聞いてしまったシャスタは、その際自分が父親の本当の子どもではないことも知ります。そして、貴族の連れていた言葉を話す馬ブレー(牡馬)とともにナルニアを目指して逃げることにしたのでした。

 途中でライオンに遭遇して追いかけられますが、この時に貴族の娘アラビスと言葉を話す馬フイン(雌馬)に出会います。彼女は親の決めた結婚が嫌で家出してきたそうです。

 彼女たちとともにナルニアを目指すことにしたシャスタは大都市タシバーンへ行きます。そこで他の者たちとはぐれてしまったシャスタは、成り行きでナルニアから来ていた王たち(エドマンドとスーザン)に連れて行かれます。スーザンはタシバーンの偉大なる王ティスロックの息子ラバダシからの求婚を断ろうとしていたのです。うっかり事情を聞いてしまったシャスタはその後、自分そっくりのアーケン国の王子コーリンに出会い、何とかそこから逃げ出すことに成功したのでした。一方のアラビスは友人ラサラリーンの協力でタシバーンから脱出するのですが、この時にラバダシが兵を率いてアーケンナルニアへと攻め込む話を聞いてしまいます。そして2人と2頭は無事合流します。

 北を目指し砂漠を越えた一行は、漸くアーケン国へたどり着きました。ところが再びライオンに襲われアラビスは怪我を負ってしまいました。そこに仙人が現れ、アラビスは手当を受け、その間にシャスタはアーケン国のリューン王へ会いに行き、ラバダシが攻め込む話をします。王とともに城へ向かうシャスタでしたが、途中ではぐれてしまい、その時に自分たちを襲ったライオンに出会います。このライオンこそがアスランだったのです。

 いつの間にかナルニアにやって来たシャスタはナルニアの王へ助けを求めます。そして、エドマンドとルーシィ、コーリンとともにアーケン国へと戻り、ラバダシとの戦いに勝ちます。捕らえられたラバダシはアスランにより、カロールメンから離れるとロバになってしまう魔法(呪い?)をかけられ、平和となりました。シャスタはリューン王の息子のコル王子だったことが判明し、その後アーケン国の王となりアラビスと結婚したのでした。

 

ー感想ー

 今回の舞台はナルニアではなく、カロールメンというナルニアよりずっと南にある国で、主人公のシャスタも異世界の住人でした。ペベンシー兄妹も登場しますが(ピーターは名前だけ)、ナルニアの王(もちろん大人)となっているためナルニア人と考えて良いでしょう。このため、いつもの雰囲気とだいぶ違った印象の物語でした。独立した1つの物語というか。

 まず、キャラクターについて。主人公はもちろんシャスタなのですが、それと同じくらいアラビス、ブレー、フインもしっかりと描かれています。シャスタは“子ども”です。自分のことしか考えていなくて、相手を気遣うことができません。また、少し卑屈なところもあります。まあ、育った環境が環境なので、当たり前かもしれませんが。アラビスは勇敢で意志が強く、シャスタに比べると出来た人間だと思います。とはいえ、自分より身分が下のものに対しての思い遣りに欠けています。こちらも貴族の娘として育っていることを考えると仕方がないのかもしれません。アラビスが家出する時に次女に薬を飲ませて眠らせた件はちょっと納得がいかないと思っていたら、最終的にしっかりとアスランに罰を与えられていました。あと、ラサラリーンとはなんでお互いこれで友人なんだろうと思いました。彼女は発展的なアラビスに対して保守的な感じです。自分で考えることをせず、環境に対して従順、自分を着飾ることが大好きな女性。それでもアラビスのために文句を言いながらも協力してくれた彼女は、本当にお人よしだと思いました。ブレーはもっと賢いと思っていたら、見栄っ張りでちょっと愚かでした。一方のフインは怖がりで大人しいですが、聡明で一番まとも。

 ペベンシー兄妹が今回主人公としてではなくて、主人公の協力者というかサブキャラクターの位置づけで登場したのは面白かったです。読み手にとっての第三者という立場は新鮮でした。ピーターだけは名前が登場しただけでしたが、「一の王」として絶対的な信頼を得ているようでした。逆にスーザンは…。とても美しく優しい女王ではあるのですが、それが災いして戦いの火種となってしまいます。エドマンドはしっかり者で頭が良く、今回一番兄妹の中で活躍していました。「ライオンと魔女」の頃から考えると、なんて素敵な大人になったのでしょう。ルーシィは明朗快活といった言葉がぴったりの女王となっていました。かわいらしくて、スーザンより身近な感じ。

 今回の作品を読んで思ったこと。それは、異教徒(異文化)に対する拒絶感。この部分は、最終巻の「さいごの戦い」でよりはっきりと感じられます。ナルニアアーケンは西洋のイメージ、カロールメンはアラブ系のイメージです。カロールメンという国自体がとてもひどい国として描かれていて、出てくる登場人物は野蛮で愚か者だらけ。そしてティスロック王はかなり残忍な性格で息子にすら情をかけません。その中でアラビスは故郷を捨ててしまいます。それは「正しい選択」だったのです。だからこそアスランは手を差し伸べたのでしょう。シャスタにも同様に試練を与え、彼は大きく成長を遂げます。今までと違ってアスランに対する信仰を持たない(知らない)者たちから見たアスランは、より神秘的だったと思います。登場の仕方もシャスタ達を追い回したりと不思議で恐ろしい印象となっていました。

 全体的にはラバダシ王子がロバになったり、主人公のシャスタが実は王子様だったりと、昔話というか、懐かしいおとぎ話のようでした。ナルニアシリーズ中でも特に独立した雰囲気を持つこの物語の中で、他作品とのつながりを強く感じさせてくれる、王となったペベンシー兄妹たちの存在は嬉しかったです。ピーターが登場しなかったのは残念ですが。

 この作品以降、世界観に「?」と思う事が多くなりました。そのうちまとめて書いてみようかと思っています。