びんのなか

想い出話や感想文など。読書メモが多め。ネタバレだらけです。

ナルニア国物語(3)朝びらき丸東の海へ

 ナルニア国物語3作目。

 今回からペベンシー兄妹のピーターとスーザンは離脱しました。その代わりに新たにユースチスという、兄妹の従弟が登場します。ユースチスもシリーズの主人公的存在です。今回は航海もので、ボリュームもありました。感想も長くなっています;

 表紙の絵が微妙に違う…。私の持っているのと左右反転している?

朝びらき丸東の海へ―ナルニア国ものがたり〈3〉 (岩波少年文庫)

朝びらき丸東の海へ―ナルニア国ものがたり〈3〉 (岩波少年文庫)

 

 

ーあらすじー

 従弟のユースチスの家に預けられたエドマンドとルーシィ。兄のピーターは試験のためにカーク先生(「ライオンと魔女」で衣装ダンスのあった家)」の家へ、スーザンは両親とともにアメリカへ行っているそうです。スーザンは勉強が苦手らしく、親もそのあたりは諦めているようです。一方、エドマンドとルーシィはひねくれて根性悪のユースチスとの生活に絶望していました。ある日、3人は部屋に飾ってある航海中の船の絵の中に吸い込まれてしまいます。いきなり海の中へ投げ出された3人は、船にいた懐かしい面々に助けられます。船旅をしていたのは、前回ともに戦ったカスピアン王子だったのです。そこにはリーピチープ(ネズミの騎士)もいました。

 彼らは前回斃した叔父のミラースに国を追われた7人の父の腹心たちを探しているそうです。助けられた3人も同行することに。そんなわけで、今回はあちこちの島を回りながら人探しをし、最果てを目指す物語です。長いので箇条書きにします。

①一か所目。人攫いに遭う。ここで1人目に出会い、人攫いから人々を開放する。

②二か所目。勝手に一人行動したユースチスが拾った腕輪をはめてドラゴンに変身する。変身したことで改心し、アスランの助けにより人間に戻る。腕輪は2人目の遺品だったらしい。

③三か所目。何でも黄金に変えてしまう湖へ。ここで黄金に変身した3人目を発見する。人の心を惑わすこの島で、エドマンドとカスピアンもおかしくなりかけるが、アスランが登場し正気に戻る。

④四か所目。目に見えない謎の生き物がいる島へ。謎の生き物たちに連れ去られたルーシィは彼らに掛けられた魔法(姿を見えなくする魔法)を解くために館へ行く。この館で今度はルーシィが心を惑わされるが、アスランが登場して自分を取り戻す。そして本来の目的である魔法を見つけて謎の生き物を元に戻す。謎の生き物の正体は一本足の小人(のうなしあんよ)だった。ちなみに、彼らに魔法をかけた魔法使いにも出会う。魔法使いは地図をくれる。

⑤五か所目。暗闇に囚われる。そこでゾンビのようになった男を救出。彼が4人目。アスランの導きにより暗闇から脱出。

⑥六か所目。眠り続ける3人を見つける。彼らが探していた残りの3人。ここで、星(老人)とその娘に出会う。星曰く、眠りの魔法を解くにはこの世の最果てへ行き一人最低一人は残して帰ってこなければならないらしい。

⑦最果てへ向かう。リーピチープが最果てへ行く。エドマンド、ルーシィ、ユースチスも元の世界へ戻ることになり、カスピアンは星の老人がいる島へ戻る。カスピアンは星の娘と結婚する。

 元の世界へ帰還する際、アスランよりエドマンドとルーシィは今回でナルニアへ来るのは最後であると告げられます。ユースチスに関しては含みを持たせた言い方をされます。元の世界に帰ったユースチスはまともな子になっていて、母親をがっかりさせたのでした。

 

ー感想ー

 ストーリーの構成自体は今までで一番好きです。あちこちの島を回って、色々な出来事に遭遇するので楽しめました。しかし、アスランが前作よりさらに遠い存在となっていました。「ライオンと魔女」の頃はもう少し身近な存在だった気がします。

 今回から登場したユースチスはそれはもう、どうしようもないくらい嫌な子でした。彼もナルニアへ来て人間的に成長するわけですが、それはユースチス自らが己の欠点に気付いたというよりは、うっかり竜になったことがきっかけだったのが、何か釈然としませんでした。ユースチスがナルニアにやって来て様々な人(?)と出会ったり、色々な経験をした結果成長した、という感じがしないのです。ユースチスは罰を与えられて反省したという方が近くて、不自然というわけではないけれど私の中では微妙でした。

 その他でも、ルーシィたちが道を誤りそうになった時にアスランが現れては正しい道へと導きますが、こういった場合のアスランはどちらかというと心の鑑のようだと思いました。彼らの心の中にいて、弱い心を照らし出してそれに気付かせてくれる存在のような。のうなしあんよの件は、ルーシィがもう純粋だけではなくなった=大人に近づいていることに気付かされます。そして、ここに出てくるルーシィがもう一度読みたいお話というのがものすごく気になります。一体どんな話だったのだろう。

 印象深い場面というか、セリフ。1つ目は、エドマンドとカスピアンが地球について語る場面。カスピアンが「丸い世界で暮らすことはわくわくするでしょうね」みたいなことを言った時に、エドマンドが「特にわくわくすることは何もありません」と返します。これって、エドマンドにとって当たり前すぎて別に面白いことなんか何もない、そういう意味なのか、あるいは元の世界自体が面白くないと言っているのかどちらなのでしょう。最初に読んだときは後者だと思いました。エドマンドはルーシィに比べて現実的な性格をしているので、世界が丸いことはそんなにびっくりするようなことではないと考えているのかもしれません。けれども、もしエドマンドが元の世界に対して否定的な捉え方をしているとすると、悲しいことだと思います。

 2つ目は、ルーシィがアスランと別れるところ。「かんじんなのは、ナルニアではありません。」「アスラン、あなたなのです。あの世界であなたには会えませんもの。あなたに会えないで、どうして暮らしていかれましょう?」ものすごいアスランへの依存度。元の世界になじんで生きていかなければならない、とアスランは諭すわけですが…。正論だと思います。結局現実世界で生きていかなければならない以上、いつまでも夢のような世界で暮らすわけにはいきません。ただ、ルーシィたちがナルニアへ呼ばれたことにはきちんと意味があるらしいです。アスラン自体はルーシィたちの世界では別の名前で呼ばれていて、それを知ることが、ナルニアへ来た理由らしいですが…。で、あとがき等を読むと、ナルニアシリーズはキリスト教がベースになっているということで、アスラン=キリストらしいです(私自身、キリスト教に対する知識がないのであまりよくわかりません)。要は、大人になっても信仰心を忘れず正しい行いをして生きていく限り、神(かアスラン?)は見守っている、とかそんな感じでしょうか?どうだろう?難しい。

 あと、場面というわけではありませんが、リーピチープの正義感や誇りの強さが気になりました。こんなことばかり書いてるとものすごく否定的な感じがしますが、物語全体としては、面白かったです。独立したエピソードが続いて最後へと向かうので、先が気になってあっという間に読めました。特に最終あたりの星の老人に出会うあたりから、とても幻想的で美しい描写が続きます。最果てへ向かっているときの光に満ちた世界は影を全く感じないくらい、眩しくて明るいです。海底人(?)たちとの遭遇や、スイレンの中を船で進むところは、光の音が降り注いでいる感じで本当に美しいです。

 あと、エドマンドは「ピーターが“一の王”」ということを誇りに思っていて、ピーターのことを本当に慕っています。逆に、ルーシィとスーザンの心の距離は少し離れた気がします。カスピアンは自分の思った道をどんどん進んで行こうとするので、そういうところはまだ少年といった感じでした。とはいえ、周りの意見に耳を傾けることができる立派な王様です。

 それにしても、ユースチスにはナルニアへ来る機会が残されているようですが、ということは、ルーシィより年が下だったんですね。てっきりルーシィよりは上だと思っていました。ルーシィが幼いイメージがあったのと、ユースチスの言動が大人びたというか、生意気すぎたせいで、まさか年下だとは思ってもみませんでした。最後の最後で一番びっくりしました。