びんのなか

想い出話や感想文など。読書メモが多め。ネタバレだらけです。

ナルニア国物語(6)魔術師のおい

 ナルニア国物語6作目。ナルニア誕生の物語です。「ライオンと魔女」に登場したカーク先生が少年の頃のお話。なんとなく昔見たアメリカ映画を思い出しました。

 この本も私が持っているもの表紙のイラストが違います。

 

魔術師のおい―ナルニア国ものがたり〈6〉 (岩波少年文庫)

魔術師のおい―ナルニア国ものがたり〈6〉 (岩波少年文庫)

 

 ーあらすじー

 重い病を患っている母親のため、アンドルーおじさんとレティおばさん(この二人は夫婦ではなくて兄妹)の家で生活しているディゴリー(カーク先生)。ディゴリーは近所に住む女の子ポリーとともに屋根裏を探検している時、うっかりおじさんの部屋へ入ってしまいました。怪しげな魔術の研究をしていたこのおじさんは、異世界へ行くための指輪を作っていたのです。彼の策略で、ディゴリーとポリーは異世界へ行く羽目になりました。

 そして、二人はとある異世界チャーンへ行きます。チャーンは力を失い、滅びゆく世界でした。この世界でディゴリーは取り返しのつかないことをしてしまいます。これが原因で、この世界で封じられていたジェイディス女王(魔女)が復活してしまうのでした。

 更に悪いことに、なんとジェイディスはディゴリー達の世界へ付いて来てしまったのです。ジェイディスはアンドルーおじを家来のように扱い、やりたい放題します。ディゴリーとポリーはジェイディスをこの世界から追い出すために、指輪の力を使い再び異世界へ行きます。この時、ジェイディスだけでなくアンドルーおじ、馬車屋と彼の馬(イチゴ)まで異世界へ来てしまいます。

 辿り着いた異世界は今まさに誕生を迎えたところでした。そこに現れたライオン(アスラン)が世界を創造していき、あらゆる生命が誕生します。イチゴもなぜか話せるようになっていました。世界創生を一通り終えたアスランは、馬車屋をこの世界(ナルニア)の王とします。この時、アスランは馬車屋の願いにより彼の妻も呼び寄せるのでした。一方、ディゴリーは悪の種(ジェイディス)を持ち込んだことを償うように命じられます。つまり、果樹園からリンゴを一つもいで持ってくるのです。ディゴリーはポリーとともに天馬となった(!!)イチゴに乗って果樹園へ向かいます。

 果樹園へ着いたディゴリーはジェイディスの誘惑に打ち克ち、無事リンゴを持って帰りました。リンゴは埋められて木となり魔女を遠ざけるそうです。それからアスランよりリンゴを取ることを許されたディゴリーは、ポリーとアンドルーおじさんとともに元の世界へと戻り、母親にリンゴを食べさせます。すると、母親は奇跡的に回復したのでした。

 

ー感想ー

 シリーズ始まりの物語です。一作目「ライオンと魔女」で妙に理解のある先生だと思ったら、先生自身がナルニアへ行っていたのですね。しかも、ナルニア誕生の瞬間に。カーク先生、つまりディゴリー少年は、好奇心旺盛であまり物事を深く考えない性格のようです。しかも、友人の忠告も聞きません。やや自分勝手ともいえる、その性格の為に、誕生したばかりの新しい世界に厄災をもたらしてしまいます。今までに出てきたキャラクターでいうと、ジルに近いような気がします。それに対してポリーはすごくまともな女の子です。愚かな行いをしたディゴリーを見捨てずに心配する彼女は本当にいい子だと思いました。

 この物語は、ディゴリー少年(とポリー)が冒険を通して成長し、母親を助けるという大きな流れとともに、ナルニア創造が描かれています。ナルニアアスランが創造主であり、純粋な心のみが許されるような美しい世界です。過ちは自らそれを理解して償えば許されます。ディゴリーは試練を与えられ、乗り越えたことで許されたのです。一方、アンドルーおじはナルニアの世界そのものを拒絶しました。アスランの声も届きません。この人は何も得ることなく元の世界へと戻ります。

 チャーンが滅びてしまったのは、「悪」が蔓延ったことが原因のようです。そして最終的には世界そのものが力を失ってしまったみたいです。ポリーは「私たちの世界はまだそんなに悪くない」みたいなことを言うのですが、アスランは人間がいつか自分たちの世界を滅ぼしてしまう可能性を示唆します。だからこそ、気をつけなければいけないと、正しい心をもって自ら滅びの道へと行かないようにと戒めます。このあたりは、時代背景的なものがあったのかもしれません(第二次世界大戦の頃が舞台となっているらしいです…「ライオンと魔女」では第一次大戦とあったけど、ネットの情報によると、第二次大戦ではないかとのこと)。核兵器が開発されたことで、人間は滅びへの扉を開く鍵を手に入れてしまいました。その鍵を使わないのは、結局人間の理性と善意に依ります。作者が今の世界を見たらどう感じるのでしょうか。

 この作品もそうですが、シリーズ全体を通して現実世界に対する絶望まではいかないとしても不安を感じます。それに対して、ナルニアはとてもきれいな世界として描かれています。ナルニア誕生の場面は本当に美しく、すべてのものが太陽の眩しい光に照らされて、影などまったくないような明るさを感じます。そのため余計に、もたらされた魔女という悪の種が際立ちます。

 物語の後半が世界創生だったせいか、何となく宗教色の強い感じがしましたが、最後にディゴリーの母親の病気がよくなるというラストのおかげで、冒険物語として読むことができました。ストーリー的には、シリーズで一番スタンダードな冒険物語なんじゃないかと思います。