びんのなか

想い出話や感想文など。読書メモが多め。ネタバレだらけです。

はるかなる国の兄弟

「はるかなる国の兄弟」(アストリッド・リンドグレーン作 岩波書店

先日立ち寄ったブックオフで偶々見つけて。小学生の頃「長くつ下のピッピ」シリーズや「エーミール」シリーズをよく読んでいたので、リンドグレーンの名前を見て、懐かしくて読んでみたくなりました。

 

以下あらすじと感想。

とある兄弟が異世界で悪者と戦うお話です。主人公は少し怖がりな平凡な弟カール。物語は、この弟の一人称で進んでいきます。兄であるヨナタンは、非の打ち所がない完璧な少年で、容姿は美しく、賢く、強くて優しいという、ありえないような人物です。この二人が地球ではないどこかの美しい世界で、人々を苦しめるテンギルの対抗勢力に加わわり、戦いに身を投じていきます。捕らえられている味方のリーダー・オルヴァルを助けるのが、ヨナタン(とカール)の役割です。数々の苦難を乗り越え、最後に彼らは自由を取り戻すのでした。

二人とも、彼らの世界には二人以外存在しないというくらい、お互いを大切にしています。カールはどんなに怖くても、ヨナタンのためならどんなことだってやり遂げようとします。ヨナタンも、カールをあらゆるものから護ろうとします。二人の関係は本当に純粋で美しいと思いました。

そのほかの登場人物も丁寧に描かれていて、感情移入しやすかったです。テンギルの操る怪物カトラの分かりやすい怖さに対して、悪の大ボス・テンギルは、とにかく冷酷で恐怖の対象であることは間違いないのですが、セリフもほとんど(全く?)なく、いまいち人物像がつかめず、それが却って不気味なキャラクターでした。最期も本当にあっけなかった。

世界観はちょっと不思議です。主人公が物語の一つの役割を担っていると実感している節があります。夢を見ているとき、ああこれは夢なんだと分かりながら夢の世界にいるのに似た感じです。読み手ではなく、登場人物が予定調和を感じているのです。また、死ぬ度に違う世界へ行くみたいなのですが、行き先を何故かヨナタンは知っていて、常にカールを導いていきます。ヨナタンは彼の人間離れした完璧な人物像と相まって、謎めいた存在でした。

 

久し振りに少年少女向けの本。明るい内容ではなかったですが、読んだ後優しい気持ちになりました。あと、カトラが妙に味のあるイラストのおかげで、怖いというより面白い感じになっていました。